見出し画像

【小説】恋愛なんてよく分からない(仮) 第14話 月光花の花弁

第14話 月光花の花弁

月光花の花弁
月光花は、満月の時にだけ咲く、魔人の住む地特有の植物だ。月光花は、崖近くの海に隣接した地に咲く。

第13話 薬の素材

空には美しい満月が輝いている。

カミュスヤーナは、崖の縁に腰かけて、その満月を眺めていた。崖を降りたところには、白い砂浜が広がっている。崖が囲うように広がっているので、砂浜に打ち寄せる波はとても穏やかだ。

「こんなに綺麗なところがユグレイティにもあったのだな。」
その独り言に応える人物はいない。テラスティーネはカミュスヤーナの後ろに立って、静かに彼を見つめているだけだ。そのテラスティーネの後ろには、白亜の建物が建っていた。

ここに来る前に、宰相のアシンメトリコから情報は得ている。
この建物は自分の父、前々魔王マクシミリアンが、満月を一人で愛でるために建てた建物だという。アシンメトリコに月光花の事を話したところ、この場所を教えてくれた。

近くに魔獣の集落がなかったため、この場所に足を運んだことはなかった。カミュスヤーナは、海の近くにいつかは四阿あずまやを建てたいと思っていたから、ちょうどよかったといえる。

「テラスティーネ。私はここが気に入った。全てのことが済んだら、またここに滞在する。」
「かしこまりました。カミュスヤーナ様。」

テラスティーネが淡々と答えるのに、カミュスヤーナは後ろを振り返って苦笑した。
呼び掛ければ返事は返ってくるが、もちろんそれはカミュスヤーナの事を主だと認識しているからだ。早く以前のテラスティーネに会いたいと、彼女とやり取りをするたびに感じてしまう。

その為には、まず月光花げっこうかの花弁を手に入れなくてはならない。
本日は満月だ。崖の近くを捜して、月光花を見つけなくては。

「行くぞ。テラスティーネ。」

テラスティーネに、カミュスヤーナが手を差し伸べると、テラスティーネは軽く首を横に振った。

「自分で飛んでいきますので、大丈夫です。」

テラスティーネの言葉に、カミュスヤーナが軽く目を見張ると、テラスティーネは自分の背後に白い翼を顕現けんげんさせた。

「テラスティーネ、その翼は。」
「この地には、広範囲結界を張っていらっしゃると伺いました。ですから、私がこの翼を使用しても問題はないかと思われます。」
「それはそうだが。」

テラスティーネが白い翼を出現させられるのは、彼女が天仕てんしの血を引いているからだ。彼女の父親アルフォンスは天仕。ただ、彼女が実際に翼を自主的に出現させたところを見るのは初めてだ。この間は細剣レイピアを振り回そうとしていたし、アルフォンスにいろいろと知らないところで教わっているのかもしれない。

カミュスヤーナも母が天仕だから、翼を出現させることは可能だが、空中浮遊も空を飛ぶこともできるので、翼の必要性を今のところ感じていない。
それに、天仕の存在は、魔人まじんにとっては捕食対象である。天仕の特徴でもある白い翼を、魔人の住む地で出現させるのは、本来は自殺行為だ。

ただし、現在この地には、テラスティーネが言った通り、カミュスヤーナが広範囲結界を張っている。広範囲結界は、マクシミリアンがこの建物を使用していた時に、この箇所に張っていたものだ。その結界は自然とこの個所に足が向かなくなる性質を持つ。そのため、ここには魔獣も魔人も来ない。

カミュスヤーナはここに滞在する間、同じ結界を張っている。結界の維持には魔力を使用するが、カミュスヤーナの保有魔力量に対すれば、大した量でもない。

今回の目的は月光花の花弁の取得だ。その間に魔人や魔獣に対応する手間を考えれば、始めから結界を張ってその機会を奪ってしまった方が、目的は達成されやすくなる。

「わざわざ背中に切れ込みが入った服を着てきたのか?」
「はい。用意されていたものに手を加えました。」

テラスティーネの返事に、カミュスヤーナは大きく息を吐いた。

「では、私に続くように。」
「はっ、仰せのままに。」

カミュスヤーナはその場に立ち上がり、崖の先に身をおどらせる。空中を浮遊しつつ、崖の斜面に目を走らせる。月光花は満月の光を受けて淡く白く光るらしい。ただ、崖の斜面に月の明かりが強く当たっているせいか、その光に紛れてしまい、なかなか見つからない。奥の方では、テラスティーネが翼を操って、空中浮遊し、カミュスヤーナと同じように月光花を探している。

「カミュスヤーナ様。見つけました。」

テラスティーネが声を上げた。カミュスヤーナが彼女の元に飛んでいくと、彼女は壁の斜面の一角を指差した。そこには、背が高く真っ白な花弁を持った花が咲いている。花は淡く白く光っている。

「これは、美しいな。」

カミュスヤーナは白い花弁を取って、採取袋に入れる。根こそぎ取ってしまうと、今後採取ができなくなってしまうので、必要な分だけ採取する。花弁は取っても淡く光ったままだ。

「まずは一つか・・。」

自分たちが採取予定の4つの素材の内、最も取得が簡単なものが月光花の花弁。今後が思いやられると、カミュスヤーナは大きく息を吐いた。

第15話に続く

私の創作物を読んでくださったり、スキやコメントをくだされば嬉しいです。