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【小説】恋愛なんてよく分からない(仮) 第13話 薬の素材

第13話 薬の素材

カミュスヤーナの義父に当たるアルフォンスは、カミュスヤーナたちに向かって、つらつらと薬の作成方法について説明をした後、次に薬を作成するのに必要な素材についての説明を始めた。

「状態異常を回復する薬を作成するのに必要な素材は5つ。黒飛竜くろひりゅううろこ月光花げっこうかの花弁、人魚の涙石なみだいし雪兎ゆきうさぎ氷羽こおりばね雷蝶らいちょう鱗粉りんぷん。」

「聞いたこともないものばかりですね。」
「そうだな。私も取り扱ったことがないものばかりだ。その内、雷蝶の鱗粉は天仕てんしの住む地でしか収集できないものだから、私が手に入れておく。魔人まじんの住む地には、黒飛竜の鱗、月光花の花弁、人魚の涙石があり、人間の住む地には、雪兎の氷羽がある。雪兎は雪深い地に生息する魔物だ。エステンダッシュ領にもいるだろう。ただ、冬でないと見つからないと思うが。」

今の季節は秋だ。カミュスヤーナが摂政役せっしょうやくを務めているエステンダッシュ領に、雪が降り積もるのはまだ先になる。

「では、雪兎の氷羽は後回しで。どちらにせよ人間の住む地にいる魔物だから、それほど苦戦はしないだろうと思われます。」
「雪兎は、氷でできた羽を持っている。それを少し拝借するだけでいい。だが氷だから、暖かいところでは溶けてしまう。何か魔道具で保管しておかないとならないだろう。」

カミュスヤーナは、アルフォンスの言葉を、卓に広げられた紙に書き記す。

「月光花は、満月の時にだけ咲く、魔人の住む地特有の植物だ。これは、ユグレイティの地で採取可能だと思う。」
「そうなのですか?」
「ユグレイティの地は、以前に滞在したことがあるが、森林が多く、海にも隣接しているだろう?月光花は、崖近くの海に隣接した地に咲く。」

「アルフォンス様も、ユグレイティの地に来たことがあったのですね。」
「・・姉を迎えに行った。」
「すると、天仕が魔人の住む地にいたということですか?よく無事でいられましたね。」

カミュスヤーナが言うと、アルフォンスは、その金色の瞳を瞬かせる。

「その時の魔王は、天仕の存在に理解があった。」
「それは、私の父ですか?」
「・・そうだ。」
「もしかして、アルフォンス様の姉というのは。」
「今はその話をしている時ではない。」

アルフォンスがその水色の髪を揺らして、視線を伏せる。カミュスヤーナは彼のその様子を見て、自分の隣に腰かけているテラスティーネに顔を向けた。

テラスティーネは何も口を開かず、ただ、カミュスヤーナのことを眺めているだけだ。今、テラスティーネにはディートヘルムの術がかかっているから、カミュスヤーナの視線の意図に応えることはない。

カミュスヤーナは軽く息を吐いて、口を開いた。

「失礼しました。話を戻しましょう。月光花の花弁については、理解しました。次は?」
「人魚の涙石だが、人魚と名はついているものの、その名の魔物がいるわけではない。その石の美しさから名付けられた呼称らしい。それ以外の情報はないが、海に面した地で、できれば海に関連する特産物がある地であれば、何か分かるであろう。」

では、隣の地ジリンダの魔王ミルカトープに尋ねてみるか。彼女なら何らかの情報を提供してくれるだろう。

「最後に、黒飛竜の鱗だが、これが一番入手するのが厄介だ。」
「飛竜であれば、魔人の住む地で棋獣きじゅうとして用いられていました。」
「飛竜はただでさえ個体数が少ないが、黒飛竜となるとさらに少ないとされている。そして、気性も荒い。棋獣としては使われていないだろう。制御するのには、相当の魔力を要するだろうから、魔王でもないと扱えぬ。」
「・・私であれば、扱えるということですね。」

今ユグレイティの地では、棋獣に大型の銀狼を用いている。だが、空は飛べない。カミュスヤーナは自分で魔法を使って飛ぶことが可能だし、必要となればアメリア等に転移陣を敷いてもらえばよかったが、これを機に黒飛竜を棋獣にしてもいいのかもしれない。

「そなた、余計なことを考えているな?」
「いえ・・まぁ・・はい。」

アルフォンスが若干とがめるように言葉をかけてきたのに、曖昧あいまいな答えを返すと、彼は苦笑した。

「まぁ、無理はしないように。それら5つの素材を集めたら、先ほど伝えた方法で薬を作成し、彼女に飲ませればいい。状態異常の症状がない者が飲んでも、影響はない。それほど多くの量は作れないだろうから、彼女が摂取する以外の分は、使わなかった素材と合わせて保管しておいた方がいいかもしれぬ。いつか必要になる機会が来ないとも限らないからな。」

「承知しました。度々テラスティーネを危険な目に合わせてしまい、申し訳ありません。」
「・・そなたの置かれた状況を見れば、このようなことは予測できている。気にする必要はないし、頼ってくれてかまわない。」

カミュスヤーナが彼の顔を見つめると、彼は珍しく穏やかな笑みを浮かべる。

「カミュスヤーナ?」
「・・私は、彼女の側にいてもいいのでしょうか?」
「それは私が決めることではないだろう?」
「ですが、私はいつも彼女を危険にさらしてばかりで、不安になるのです。いつか、彼女を失ってしまうのではないかと。」

「カミュスヤーナ。命は、いつかは失われるものだ。それに、手を離したらお互いにそれを後悔するのは、目に見えているではないか。」
ディートヘルムの術にかかったテラスティーネに対し、離縁を受け入れた旨話した時、彼女は涙をこぼして言ったのだった。

『嫌です。私は認めません。このようなことしたくない。』

「一人残されるのもそれはそれで辛いものがある。記憶が断片的になっていくとはいえ。」
「フェリシア様のことですね?」
「私はテラスティーネが君の側で幸せそうに笑っているのを見ると、フェリシアが笑っているような気がしてとても嬉しくなる。その笑顔を与えているのは君だ。」

カミュスヤーナたちが話している内容の当事者であるテラスティーネは、カミュスヤーナたちの顔を見て微笑んでいるだけだ。

夜眠る直前に姿を現すテラスティーネ本来の感情とも、大きなやり取りはできない。
彼女は繰り返し、「心配するな」「ここにいるから」と口にする。
早く、彼女にかかっている術を解き、彼女を自分(カミュスヤーナ)の元に取り戻したい。

「心配をする必要も、迷う必要もない。そなたには彼女の側にあってほしいと思っている。」
「ありがとうございます。」
「なに。フェリシアがここにいたら、当然だと言うだろう。」
「アルフォンス様は、今もフェリシア様のことを愛していらっしゃるのですね。」
「ああ、愛している。できることなら後を追いたいと思うほどに。」

アルフォンスの妻フェリシアは、娘テラスティーネが6歳の時に、病で亡くなった。フェリシアは人間で、アルフォンスは天仕だったが、アルフォンスが人間の住む地エステンダッシュ領の院に通っている際に知り合った。天仕は、自分で自分を滅することが禁じられた種族であるため、アルフォンスは自害することができず、今に至っている。

「大切ならば余計に手を離してはならぬ。自分で守り切るぐらいの気概きがいを持て。そなたにはその力がある。」
アルフォンスの言葉に、カミュスヤーナの表情が引きしまる。

「はい。私の命に代えましても。」
「だから、それはテラスティーネが嫌がるので、やめるんだ。」
アルフォンスは苦笑した。

第14話に続く

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