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【小説】恋愛なんてよく分からない(仮) 第15話 人魚の涙石1

第15話 人魚の涙石1

人魚の涙石
人魚と名はついているものの、その名の魔物がいるわけではない。その石の美しさから名付けられた呼称らしい。それ以外の情報はないが、海に面した地で、できれば海に関連する特産物がある地であれば、何か分かるであろう。

第13話 薬の素材

「人魚の涙石なみだいしか。知っておるぞ。」

ユグレイティの隣の地、ジリンダを治める魔王ミルカトープは、カミュスヤーナの言葉を聞いて、あでやかに微笑んだ。

まことか?」
「あぁ、取得した場合は、私宛に収められる。その希少きしょうゆえに。」
「それを譲っていただくことは可能か?」
「そなたには大きな恩があるからな。」

魔王ミルカトープは、以前、魔王の座を狙った身内から襲撃されたところを、カミュスヤーナによって命を救われている。その際にカミュスヤーナは、致命傷ちめいしょうを負って海に落ち、1年余り行方が知れなくなった。その事もあって、ミルカトープとしては、カミュスヤーナに協力したいのは山々なのだが。

「一つ問題がある。」
「何だ?」
「このところ人魚の涙石の献上けんじょうがほとんどない。どうも他の地へ横流ししている者が、いるようなのだ。」
「ユグレイティではないぞ。」
「それは分かっている。多分、アンガーミュラーだ。」
「アンガーミュラー・・だと?」

アンガーミュラーと言えば、今回の件の発端となった魔王ディートヘルムが治める地ではないか。

「人魚の涙石は交易品ではないのだが。どこかが高値で買い取っているのだろう。」
「ディートヘルムはそれを知っているのか?」
「そなた、ディートヘルムと面識があったのか?」

ミルカトープは、その紺色のうねるような長い髪を払い、金色の瞳を瞬かせた。

「今回の件を引き起こした張本人が、の奴だ。」
「なるほど、奴は魅了みりょうの術にたけていたな。干渉してきたのは、そなたのためか、それとも伴侶はんりょのためか。」

それほど美しい伴侶であれば、私も会いたい。と言葉を続けられ、カミュスヤーナはその端正な顔をゆがめた。

「いいかげん諦めてください。テラスティーネは私の伴侶ですから。」
「一目見るだけだ。手を出すつもりはない。」

美しい女性が好きな魔王の言うことなど、信用できぬ。カミュスヤーナが赤い瞳で睨みつけると、ミルカトープはその視線を受けて苦笑した。

「先ほどの質問への答えだが、ディートヘルムはあまり治政ちせいには深く関わっていないようだ。だが、宰相さいしょうはこの件を知っているかもしれぬ。宰相の名はカルメリタだ。」
「カルメリタ。」
「私はアンガーミュラーと関わるつもりは毛頭ない。だが、人魚の涙石を手に入れるには、その横流しの一件を解消しなければ無理だ。今、私の手元には人魚の涙石はない。献上されなくなって十数年経っているのでな。」

「その件を解消しようと動かなかったのか?」
「人魚の涙石は高額すぎて、交易品にはとてもできぬ。それを元にした装飾品は作れないが、代用品はなくもない。特に気にしてはいなかった。」
「だが、その者はそれなりに私腹を肥やしたのでは?」
「あぁ、だからその者を捕らえてくれれば、こちらで厳罰に処そう。代わりに人魚の涙石を提供する。合わせてそれを用いた装飾品もつけよう。きっとそなたの伴侶には似合いであろう。それでどうだろうか?」

「それは、魔王が他の地に干渉することにならないか?」
「これは私個人のお願いだ。」

ミルカトープがしれっと答えるのに対し、カミュスヤーナは自分がいいように扱われているような気がして、むうっと顔を歪ませた。

「そういう顔をすると、年下らしく感じるな。」

ミルカトープはクスクスと笑った。そう言うミルカトープのよわいは不明だ。魔王歴が50年ほどと、ユグレイティの地、宰相のアシンメトリコが言っていたから、それ以上であることは確かだが、魔人は30代前後で身体の成長が止まってしまうから、見た目から齢を推し量るのは無理である。

「いいでしょう。私の望む物が手に入るのですから。」

とは言え、まず接触するのは、アンガーミュラーの宰相カルメリタであろうか。ディートヘルムはこの件について知らないだろうという話だったし、逆に変な風に干渉されそうな気がする。アシンメトリコ経由でカルメリタに連絡を取ってもらおう。

カルメリタがディートヘルムのような変わった人物でなければいいのだが。カミュスヤーナは深く深くそう願わざるを得なかった。

第16話に続く

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