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【小説】恋愛なんてよく分からない(仮) 第16話 人魚の涙石2

第16話 人魚の涙石2

カミュスヤーナの目の前で、紫の髪、水色の瞳を持つ青年が、ひざまずいて礼を取った。その後ろでは、後ろ手に手首を縛られた魔人まじん項垂うなだれている。

「お初にお目にかかります。魔王カミュスヤーナ様。アンガーミュラーの宰相さいしょう、カルメリタと申します。以後、お見知りおきを。」
「・・そちらが人魚の涙石なみだいしを横流ししていたものか?」
「ええ、お話を伺いまして、すぐさま捕らえました。」

カルメリタがニッコリと微笑む。アシンメトリコから話をしてもらってから、3日しか経っていない。行動の速さに、カミュスヤーナは裏があるのではないかと勘繰かんぐってしまう。

「何か求めるものでもあるのか?」
「いいえ。この度は、ディートヘルム様がご迷惑をおかけしまして、申し訳ございません。本当にの方は興味惹かれる者があると、手を出さずにはいられないので。」

ここ最近はなかったのですけどねぇ。と笑って言うが、その目は鋭い光を放っている。

「彼の方の遊び相手になってくださってありがとうございます。これは迷惑をかけて、申し訳ないという気持ちを込めた献上品けんじょうひんです。」
「遊び・・相手・・。」

そんな軽いものでもないのだが。。
カミュスヤーナは、軽く息を吐く。

勿論もちろん溜め込んでいた人魚の涙石もお持ちしました。こちらの罪人と繋がっていた、我が地の魔人は別途こちらで裁きますので、ご安心を。」
「・・なぜディートヘルムをあれほど自由にさせておくのだ。」

カミュスヤーナの言葉に、カルメリタは首を傾げる。

「私ではディートヘルム様には太刀打たちうちできません。それに、ディートヘルム様が興味を持たれるのは、大抵お強い方々ばかりですから。心配していません。」
「何だそれは。」
「ディートヘルム様は幼い頃から一人でしたから、お寂しいのですよ。誰かに本当は構ってほしいのです。ですから、今回の件は、カミュスヤーナ様にはご迷惑でしょうが、私としては嬉しいのです。」

そう言って優しく微笑むとカルメリタは、再度深く頭を下げた。

「もうしばらくお付き合いください。通常なら時間が経てば興味も薄れるのですけど。でも、カミュスヤーナ様相手だと無理かもしれませんね。」
「・・・。」
「貴方様はとても魅力的な存在ですから。」

「私は我が身に手を出されても別に構わない。だが、周りの者に手を出されるのは気に食わない。今はまだ付き合ってやるが、これ以上私の周りの者に手をかけるなら容赦ようしゃしない。」
「かしこまりました。あるじに申し伝えます。」

カルメリタは、カミュスヤーナの赤い瞳を見つめて、薄く笑んだ。


「ふぅん。そんなことを言っていたのか、カミュスヤーナは。」

アンガーミュラーの魔王ディートヘルムは、宰相カルメリタの報告を聞いて、面白そうに口の端を上げた。

「人魚の涙石と密売者はちゃんとお渡ししました。」
「それでいい。まったく勝手に私腹しふくを肥やした者など、この地にはいらない。罪人は処罰したか?」
「はい。財産は没収済みです。」

「家族はいたのか?」
つがいと子どもが。共に他の魔人に縁付けました。」
「そうか。ならいい。」
「カミュスヤーナ様が何をしようとされているかは分かりませんが、手助けするようなことをしてもよろしいのですか?」
「・・多分テラスティーネにかかった術を解こうとしているのであろう。・・この分だと解かれてしまうのだろうな。」

「・・。」
「本気で魔王を手に入れようなどとは思っておらぬ。私は単に暇を潰したいだけなのだから。それより・・余計なことを申してはいないだろうな?」
「何のことでしょうか?」
「あまりこちらの情報を出さないようにせよ。あちらも魔王だぞ。」
「それは言われなくとも、存じております。」

カルメリタは水色の瞳を細めて微笑む。まるで、主が愛しくて仕方がないとでもいうかのような表情だ。

「そういえば、番候補を得た。」
「さようでございますか。それはおめでたいですね。どのような方でいらっしゃいますか?」
「・・一言で言えば、変わっている。私が魔王と知っても物怖ものおじしない娘だった。」

カルメリタはディートヘルムを見て、首を傾げた。

「それは・・確かに変わった者ですね。普通怯えますけど。」
「だろう?あと、魔道具作成が好きらしい。そなたとも話が合うのではないか?」

見た目に対する感想が出ないところが、この方らしいと思う。多分、見た目は全く気にならないのだろう。

まぁ、それでもよかった。
彼の方がこの地に留まってくださるのであれば、そのくさびとなる者が誰であれ構わない。
・・私ではその楔にはなれない。

カルメリタは主を見て、「それはお会いするのが楽しみですね。」と笑って告げた。

第17話に続く

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