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【小説】恋愛なんてよく分からない(仮) 第11話 シルヴィア

第11話 シルヴィア

まったく。。カミュスヤーナの動きが早い。

ディートリヒは院の敷地内ではあるが、屋外のベンチに座って、思いを巡らしていた。

薬学研究室への潜入は難しい。研究室を束ねている講師ヘルミーナは、完全にディートリヒのことを警戒している。カミュスヤーナに渡されたという腕輪のせいで、ディートリヒの状態異常の術も効かない。

定期的にカミュスヤーナとテラスティーネの元に通う他ないかもしれない。

ディートリヒは、他の事柄や者には興味がないので、それらを利用して、カミュスヤーナやテラスティーネに揺さぶりをかけるつもりはない。自分の術に対し、彼らがどのように対処するかが見たいだけであって、それが数日になろうが、数年になろうが、かかる時間は気にしていない。

これはディートリヒが持ち掛けた遊びであって、終わってしまえば、また退屈な日々が待っているのだから、逆に長引くほど面白いと思っている。

そんなことを考えていたディートリヒに向かって、声がかけられる。

「ディートリヒ様。今よろしいでしょうか?」

声が発せられた方向に目を向けると、一人の女生徒が大きな板のようなものを持って立っていた。髪は黄色で、耳横くらいで切り揃えられている。やや長めの前髪の間から、紫色の大きな瞳が覗いていた。伯母であるエステファニアと同じ色だ。

「君は?」
「上級L1学年のシルヴィアと申します。」

上級L1学年というと、ディートリヒの一つ下の学年ということになる。よわいで言えば、15だ。ここに来てから、面と向かって声をかけてきたのは、彼女が初めてだった。

途中編入ということにして、院の最終学年に潜り込んだディートリヒは、遠巻きに見られることが常で、またテラスティーネやカミュスヤーナの近くにいることが多かったことも、それに拍車をかけた。ディートリヒがここにいるのは一時的なものでしかなかったし、学友などを持つ気は更々なかったので、別にかまわなかったのだが。

「私に何用か?」
「これを見ていただきたいのです。」

彼女は、手に持っていた大きな板状のものをこちらに向けた。ディートリヒが軽く頷いたのを見てとると、彼女は辺りを見回した後、ディートリヒに向かってその板をくるりと反転させた。

「!」

その板のようなものは鏡だった。ディートリヒの姿が鏡面に映っている。
そして、その鏡面に映ったディートリヒの髪は深紅、黄緑色の瞳で、大きな耳も映っている。つまり、ディートリヒが人間に擬態ぎたいする前の姿がそこにはあった。

「これは・・。」
「私が作った魔道具です。このお姿を見る限り、ディートリヒ様は魔人まじんですか?」

彼女は、鏡に映ったディートリヒの姿に驚くこともなく、問いかける。ディートリヒが彼女を睨みつけると、彼女はその視線を平然と受け止めた。

「何が望みだ?」
「別に。この魔道具が正常に動くか確認したかっただけです。」

彼女は満足そうに、鏡の中のディートリヒを見つめると、板を反転させた。

「なぜ、これを私に見せた?」
「院の最終学年で転入。何かと話題に上ることの多いテラスティーネ先生やカミュスヤーナ先生と、一緒にいることが多い。その上、人間にしては魔力量が豊富で、魔法学では優秀者を取得。人間ではないのではないか?と思ったまで、です。」

そして、私は魔道具の作成が好きなので。と、彼女は頬を上気じょうきさせる。
どうやら、ディートリヒを魔人と疑って、この院から排除したいというわけでもなく、自分の魔道具の出来栄えを確認したかっただけらしい。

ディートリヒが大きく息を吐くと、彼女は戸惑ったように言葉を発した。

「申し訳ありません。気分を害されましたか?」
「・・もうよい。気が済んだであろう?」
「いえ、私はディートリヒ様に興味があります。」
「私が魔人だからか?」
「そうです。」

彼女は、ディートリヒの隣に腰かけると、ディートリヒの顔を覗き込む。本当に物怖じしない娘だ。

「ディートリヒ様は魔人なのに、なぜこの院にいらっしゃるのですか?」
「・・君には関係ないことだ。」
「テラスティーネ先生とカミュスヤーナ先生に関係がありますか?」
「・・。」

ディートリヒが答えにきゅうすると、シルヴィアは言葉を続ける。

「お二人の魔力量は多いと伺っています。人間であっても魔人の興味はひくのですね?いえ、こちらに干渉してきたということは、ディートリヒ様は魔王でしょうか?」

ディートリヒが彼女の顔を見ると、彼女はぎこちなく微笑んだ。笑うことには慣れていないらしい。

「だったら、何なのだ?」
「素晴らしいです!」

ディートリヒの答えに、彼女は胸の前で手を合わせて、大きく声を張り上げた。

「魔王と言えば、人間よりも魔力量の多い魔人の中でも、その力や魔力量が豊富で、魔人の住む地の頂点に立つお方。他者から能力や魔力等を奪うため、状態異常の術を操り、強奪ごうだつ行為を行うのですよね?」

彼女は長い文章を口走りながら、ディートリヒの方に身体を寄せてくる。ディートリヒは彼女の圧に口の端が引きつるのを感じた。

第12話に続く

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