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読書の記録 東直己『探偵はバーにいる』

 月2回の東京旅行、新幹線のなかのお供の小説、今回は東直己『探偵はバーにいる』。最近の小説やと思ってたらもう三十年くらい前に刊行されていて時代設定はさらにもう少し前らしい。僕の一回り年下くらいの子たちはスピッツの「空も飛べるはず」を懐メロ扱いするんですが、確かにそのくらい時は流れているんですよね。エフエムラジオでふと流れてくる曲って、実は「空も飛べるはず」とか「悲しみは雪のように」とかボビーコールドウェルとかスティービーワンダーとかより、瑛人の香水のほうが懐かしく感じる。

 さて。『探偵はバーにいる』は確か映画では『探偵はBARにいる』だった気がすると思っていたら実際それは正解やったんですが、映画の『探偵はBARにいる』は『探偵はバーにいる』が原作ではなくて、同じシリーズの『バーにかかってきた電話』が映画化されたものらしい。なんにせよ、映画化されたりドラマ化されたりした小説って購入意欲が萎えるもので、文庫の表紙がドラマのキャストだったりするやつ、正直絶対買いたくないんですけど、そういうつまらないこだわりで良質な作品を排除してしまうのもなんだかもったいないし、そういうつまらないこだわりだけ煎じたような自慢話ばっかりするつまらないおっさんにならないためにも、やっぱり小さなこだわりは捨てるべきなのです。

 『探偵はバーにいる』のことはタイトルと映画化されてるということくらいしか前情報を知らず、その映画の探偵役も何故か永瀬正敏やと思い込んでいたんですが、まぁ、その程度の前情報で読み始めてみたところ、自分の思い込んでいた探偵像と全く違う。酒呑みまくるし太ってるし口汚いし品が無いし、やたら人を殴ったり殴られたりするし、なんやねん!って思ったんですが、それはこっちの勝手な思い込みが裏切られただけであり、この探偵たる「俺」にしてみたら迷惑このうえない思い込みでしかない。人間関係においてもこういうことはよくあるもので、だから、人のことを「こういう人だ」と決めつけてしまうのは本当によくない。

 しかし、人が人のことを「こういう人だ」と決めつけてしまうことを逆手にとっているような小説であるような気もする。まさか君がそういうことをするとは思わへんやん!っていう裏切りにむむむと唸らずにはいられない。「そうそう、そうやんなー」っていう共感よりも「いやいやなんでやねん!」っていうわからなさを求めていたい、そんな気持ちに応えてくれた小説です。

 こういう世界が実在するかどうか知りませんけど、なんにせよ、探偵とか覚醒剤とかヤクザとか売春とか、そういう世界と無縁なところで暮らしていてよかったよ。ただ、何軒かなじみのバーがあるっていうのは憧れるね。一軒のなじみのバーにさえ、なかなか行けていないんですが。どんな飲み物か知らないですが、とりあえずギムレットってやつを飲んでみたい。

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