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タルト・タタンと不正がたんと

 12月28日の産経新聞『産経抄』に高島屋のクリスマスケーキの件が書いてあり、あの無惨な崩れ方をしたケーキに3歳の子が雪だるまやツリーを装飾して作品に仕上げたというエピソードが紹介されていました。転んでもただでは起きないというのか、災い転じて福となす、というのか。
 そんなエピソードに続いて、フランスには「ケーキのなり損ない」という名の菓子もあると書いてあり、気になったから調べてみたところ、どうやら「ガトー・マンケ」というケーキらしい。時は1842年、パリの「メゾン・フェリックス」というブーランジェリー&パティスリーの店員さんが、美味しいと噂のフワッフワの「ビスキュイ・ド・サヴォワ」なるものを作っていた時のこと、ある日、メレンゲに油分が混入してしまい、使いものにならなくなってしまったんですが、そこでオーナーが、生地にさらに油脂を加えて円いケーキ型で焼いてみたところ、ええ感じの仕上がりになったそうです。

 失敗から生まれた新しい料理というのは意外と多いらしく、「タルト・タタン」もうっかりミスから生まれたらしい。
 1898年、タタンちゃんとタタンちゃんのタタン姉妹はフランス中部ソローニュ地方のラモット=ブヴロンにあるホテルの厨房で料理を作っていました。タッターンぼよよんぼよよん。
 その日は狩猟解禁日の日曜日。ランチは大盛況で、客席の狩猟家たちは次の皿が出てくるのを待ちあぐねていたそうです。タタン姉妹にちょっとした圧力をかけていたかもしれません。
タタン姉妹はタタンと仕事を終わらせる器量のよい姉妹ではなかったのか、客たちを待たせていることに変な焦りを覚え、リンゴのタルトにパイ生地を敷くのを忘れてしまいました。
 タタンタンタンとスムーズに菓子作りが進んでいて、こんなにスムーズなのは何か作業を飛ばしてしまってるんじゃない菓子ら、と感じでいたところ、そのことに気づいた姉か妹かどちらかのタタンは、このままでは店をタタンでしまわないといけないと思い、事態を隠蔽すべく、オーブンの熱ですでにカラメル状に焼けたリンゴの上にそのままパイ生地をのせちゃいました。首を傾げながら「のせちゃいました」というタタンちゃんのその姿はタタン姉妹でも宗兄弟でもなく、「こけちゃいました」と語る谷口浩美さんのようであったとか。
 しかしながら、その窮余の策により出来上がった菓子が狩猟家たちを唸らせ、やがて「タルト・タタン」という名で親しまれるようになったそうです。その他の説もあるそうですが、ここでは触れません。

 「なり損ない」が後世に受け継がれる素晴らしい菓子になった例でありますが、いっぽうで12月28日の京都新聞『凡語』には品質不正が発覚したダイハツの国内の全ての工場が生産停止になったことに触れていました。こちらの窮余の策は検査の不正でそれも30年以上続いておりました。開発スケジュールの遅れを恐れる現場への圧力があったとか、安全性能部署は10年余りで3分の1に減らされていたとか。ここにはタタン姉妹のような災い転じて福となす土壌がなかったみたいです。不正ばかりがたんとあっては困ります。

蠱惑暇
こわくいとま

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