多様性とエレベーターとはなまるうどん
14時過ぎ、職場近くの「はなまるうどん」で遅めの昼食。天ぷら定期券を買っているからうどん一杯につき、天ぷら一個が無料になる。どの天ぷらでもいいし、おでんでもいいという、どこにも敵がいなさそうな最強の定期券である。期間中は何度でも使える。使えば使うほどお得さは増すので、はなまるうどんへ行く回数は増える。私は根っからの貧乏性であるため、定期券では必ず一番値段が高い大海老の天ぷらを買うことにしている。もしも竹輪の天ぷらが一番高いなら竹輪の天ぷらを買う。何が食べたいか、ではなく、何を買えば一番お得か、が勝負なのである。
はなまるうどんはトッピングできる天ぷらが豊富にあり、かつ、無料で乗せ放題の天かすもあるから、私は今まで、「かけうどん」以外を注文したことがないのだが、順番待ちしていると、きつねや牛乗せを注文する人が多くて驚く。はなまるうどんの注文待ちの間にさえ、多様性を感じる。偉い人にとっては多様性なんて認めないほうが仕事は楽なんだろうな。
今日も多幸感に包まれ、海老天うどんを平らげた。職場へ戻る。8階にある職場へ向かうべく、地下1階でエレベーターを待っていると、読売新聞の夕刊を持ったおじさんがやってきた。二人一緒にエレベーターに入ると、おじさんが「8」を押す。やはり予想した通り、私の職場に夕刊を持っていくようだ。
さて、この場合、私は気を利かせて、おじさんがエレベーターに乗る前に「8階ですか?僕、そこで働いてるんで持っていきますよ?」と声を掛けるべきだったのだろうか。しかし、おじさんからすれば、私は「知らないおじさん」であるから、仮に私が声を掛けたら「知らないおじさんには付いていっちゃいけません」という幼い頃のお母ちゃんの言葉を思い出すかもしれない。しかし、このまま職場の入口までこの人と一緒に歩いていき、おじさんが入口前の新聞置き場に新聞を置くと同時にその新聞を手にとり、職場へ戻るというのもちょっと嫌な感じではないか。私がおじさんなら、「なんやねん、おまえここで働いてるんやったら地下で受け取ってくれてたらわざわざ8階まで上がってこなくてよかったんちゃうんけ?」と考えてしまいそうな気がする。
ということを地下1階から8階へ上がる間、ほんの数十秒ではあるが、考えに考えぬき、私がどうしたかというと、おじさんが向かう職場側とは反対方向へ曲がり、別に用もないのにトイレの個室へ駆け込んだのだった。
こういう些細なことを考えるのは、一昔前なら「小さい」「しょうもない」と一蹴されていたが、(いまも一蹴するタイプの人はいるが)今は、そういうことを考える人もいる、ということに世間の理解が及ぶようになってきた。多様性を認める社会である。
エレベーターの中、ほんの数十秒の間にさえ、多様性を感じる。偉い人にとっては多様性なんて認めないほうが仕事は楽なんだろうな。
なんにせよ、この多様性あふれる社会にあって、はなまるうどんの天ぷら定期券ほど異論の挟みようのない正義はない。プーチンの馬鹿野郎に教えてやりたい。
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