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表現の自由とは何か~編集権が人権とぶつかるとき

クローズアップ現代の取材が終わり、編集作業に入ってからのことです。放送前の映像を見せてほしいという私の要望を、担当ディレクターは「編集権があるから」と言って退けました。
番組制作に圧力がかかるのを防ぐためとか何とか、説明にもなっていないようなことを言われて、そういうものかな?と違和感があった。だまくらかされている、言いくるめられている感じがしました。

大物政治家やどこかの有力者じゃあるまいし、私のような一般人が放送局に「圧力」かけるって、そんな大げさな話あるわけない。それは権力をもつ者に対して言う言葉です。

報道機関が公権力に屈することなく、独立性を保って報道をするために、表現の自由があり編集権があるんですよね?
それなのに、担当ディレクターはじめNHKの人たちは、表現の自由を盾に巨悪に立ち向かうのではなくて、私のようなか弱き一般人を利用して、自分たちの利益を得ることしか考えていないようでした。これはどう見ても表現の自由の悪用であり、編集権の間違った解釈ではないかと思う。

私たちはただの一般人で、日常的に人前に出ることを仕事にしてる芸能人や有名人ではないんですよ。「ひきこもり」というきわめてデリケートなテーマの番組に、顔出しして自宅を撮影場所にして夫婦で出演するというのは、プライバシーをかなり犠牲にしているわけです。

自分が出演しているVTRの内容が誤っているかもしれないのに、事前に確認できずにそのまま流されてしまうなんて、危険すぎませんか?権力者でもなんでもない私のような人間が、放送前に内容を知らせてほしい、とお願いすることが「圧力」にあたるのでしょうか?

報道機関にとっての「表現の自由」を守るためなら、個人の人権も名誉も尊厳も踏みにじっていいとは、とうてい思えないんですが。表現の自由や編集権には、基本的人権を上回る価値があるとでも言うのでしょうか?

報道によって日常生活や人間関係が破壊され、人生を狂わされた人はたくさんいます。私もその一人です。それどころか、命を落とした人さえいるのですよ。
それでもNHKその他のマスコミは、「表現の自由」を盾にして好き勝手に虚偽報道を繰り返し、人を傷つけることをやめない。それが社会正義だというのなら、マスメディアそのものが社会悪ですよね。

たしかに表現の自由は大切だし、自由にものが言えない社会は嫌だけど、いざ自分が報道被害を受けてみると、「表現の自由」についていろいろ思うところが出てきます。報道する側とされる側の自由と権利がぶつかるところでもあって、一筋縄ではいかない問題です。

本来であれば報道関係者というのは、そういった葛藤を常に意識しながら、取材対象者の人権や名誉を尊重し、プライバシーに配慮しながら取材をし、報道するべきなのに、そうはなっていない。
「表現の自由」をあたかも自分たちに与えられた特権であるかのように振りかざして、世のため人のためであるかのようによそおい、人に知られたくないことを暴いて面白おかしく報じているのです。

事実を正確に伝えようという姿勢があるならまだしも、耳目を集めることを優先するあまり、平気で事実を捻じ曲げて、根も葉もないことをでっち上げる始末。

これじゃあ報道ではなくて、ただの暴力だよね。

権力を振りかざして圧力をかけているのは、取材対象者ではなく取材する側なんです。少なくとも私の場合はそうでした。取材時も配慮に欠けていたし、捏造報道されてしまったし、その後の交渉もきわめて侮辱的で不誠実なものでした。

こういったことはNHKだけの問題ではなく、報道にたずさわる人と組織に共通して言えることだと思います。報道関係者は自らの立場がはらむ暴力性をよく意識してほしい。「伝える」ことに熱心なあまり、人を傷つけたり、ないがしろにしたりしていないか?と振り返る機会をもってほしいのです。

取材対象者もメディアの暴力性を警戒しつつ、自分たちがそういった暴力や権力によって簡単に潰される「弱者」であることを意識しないといけない。くれぐれも丸腰で彼らと接することのないように。自戒を込めて記しておきます。

そして、メディアの暴走をくいとめるカギを握るのは、結局のところ視聴者なのだと思う。見てくれる人がいなければ、報道は成り立たないですからね。マスコミがおかしなことを報じていたら、きっぱりNOを突きつけましょう。他人ごとだと思って油断していると、社会全体が危険な方向に誘導されてしまうかもしれません。

報道機関を糾弾するだけじゃ片手落ちなんですよ。メディアと取材対象者と視聴者の関わり合いという社会的文脈で見ていかないと。個々の事例にとらわれてはだめで、全体を見る必要があると思います。

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