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クリエイティブオフィスの作り方

前の2回の記事で自分の中の「オフィス」に対する期待や概念を書き出してみました。

今回はもう少し具体的に、サイバーオフィスとフィジカルオフィスでやりたいことを挙げていきます。


サイバーオフィスの役割

在宅勤務で利用しているチャットやオンライン会議はサイバーオフィスの一部分ですがまだ始まったばかりです。これからさまざまな情報がデジタル化され抽象と具象、全体と部分などフィジカルだけでは扱いにくい「全体」を扱う場所になります。

バラバラに作成されたファイルはファイルサーバーに蓄積され一見すると構造化しているように見えますが、ほとんどの場合ファイルの存在が知られることなく似たようなファイルを重複作成してしまっています。これはファイルのやりとりが人を介しておこなわれるためフィジカルなオフィスでお互いの顔を合わせていなければ知ることができないからです。

一方で設計CADなどでは、一つの大きな製品プロジェクトに対して、アッセンブリ(モジュール)、部品という形で完全に構造化しており、お互いの機構的関係性から空間関係、熱関係、振動関係までシミュレーションしながら設計をおこなえる構造化ができています。

これをオフィスの仕事にもあてはめることができれば、自分の業務に関連する離れた情報(データ/ファイル)にもアクセスしやすくなります。また構造化で不足があれば積極的に関連性を作り出すこともできます。

このようなサイバーオフィスを実現するためにまずやらなければならないことは業務の構造化と可視化です。これはエクセルで作った組織図とは別のモノであり並列して進行するプロジェクトをまとめる動的なもので、情報の神経細胞のように絶えず変化していきます。

幸いに私たちは、モデルベース開発/システムモデリングという手法によって宇宙開発から都市計画、さらには製品開発にまで複雑な関連性を扱うことができます。これらのツールを使って自分たちの足元オフィスで起きていることをモデリングし共有することで関連データ(ファイル)へのアクセスが容易になり、これまでの人脈にたよっていた情報共有よりも強力な連携が実現できます。


さらに将来はサイバーオフィスが進化し、AIによる適切な出会い(人脈)の創出、VRとアバター、デジタルモックアップによる体験性の向上が進んでいきます。

これまでのフィジカルなオフィスでの出会いといえば「タバコ部屋」ですが、これは昭和の手法で平成時代にも幅を利かせていました。私はそのために失われた30年が生まれてしまったのだと考えています。

オフィス業務のモデル化を進めていくことで複雑で目に見えない関連性に対しAIによる人と人の結び付けが可能になります。これは社内派閥や同郷会に置き換わっていく新しいトレンドになるはずです。

体験性の向上では、例えば宇宙手術の研究は大変難しくお金のかかることですがVRを使うことで同じ状況を共有しながらディスカッションおこなうことがでます。

仮想体験(バーチャルエクスペリエンス)において重要なのは、みんなで一緒に間違う(失敗する)ことです。ある条件・仮説を共有した上で間違えたことが分かればそれを修整していけば良いだけですが、みんながバラバラの条件を前提に考えいた場合には、誰が(どの部分が)間違っていたのかを特定することはほどんど不可能になります。



フィジカルオフィスの役割

サイバーオフィスの役割が、現在のファイルサーバーやメール/チャット以上のものになって、私たちが帰属している場所またはコミュニティとして認識されるようになるとフィジカルなオフィスの役割も大きく変わっていくことになります。

まず大切なことは、フィジカルなオフィスであっても常にサイバーのオフィスと接続されている環境が必要なことです。在宅勤務などで参加しているメンバーを無視するようなオフィスは害悪でしかありません。

そのためにはまずアナログデータであるホワイトボードとPost-Itをデジタル化する必要があります。主にクリエイティブな活動に使われているこれらをデジタル化することで時間と空間に縛られなくなるため、一時的な活動からプロジェクト全体を通して常に活用していけるものになってきます。

それ以外のアナログ書類はPC上で作られたあとでプリントアウトされるため簡単にデジタル化(プリントアウトしない)ことができるため、タブレットの利用など手書きを好む人に適切なデバイスとインターフェイスを提供するだけでフルデジタルにも直ぐにできるはずです。

世の中には既に多くのデジタルコラボレーションツールがでてきていますので後は採用するだけなのですが、チャットツールなどと同様にみんなが同じツールを使わなければコラボレーションがスムーズにできなくなるため全社のIT部門が先頭に立つ必要があります。ところがメール環境などと違い開発ツールとしての側面も強くこれまで開発部門独自で導入していた経緯から大きな企業では導入が遅れてしまう状況になっているように思います。



日本橋にあるトヨタのオフィスが日経ニューオフィス賞でクリエイティブ・オフィス賞を受賞しました。

自動運転というハードとソフトが高度に融合しなればならない分野で、クリエイティブなコラボレーションと体験・実験を中心にした新しいオフィスのイメージがみられます。

回遊する「道路」が人々を移動させ結び付けるという考え方がストレートに表現された体験中心のオフィスです。


これまでのオシャレな事務オフィスにはカフェコーナーや丸っこいオシャレなスツールがロビーにならび、瞑想空間があるようなものでしたが、トヨタの新しいクリエイティブオフィスでは社会を変革していきたいビジネスマンや技術を極めたいエンジニアにとって最先端の研究空間と設備が揃っていることが中心です。

ビデオの中でフロアーの植栽を任せてもらった社員がでてきますが、あれは道路脇の植栽が自動運転に与える影響も含めトヨタが関わっていこうとする一つの象徴だと思いました。「参加」「実験」という体験を通して環境を含めた製品作りが自分たちのミッションであり責任だと認識できたはずです。

このようにルーチンワークや計画的な作業は在宅勤務など自由な場所と時間でおこない、フィジカルオフィスは従来の工房(ラボ)のような設備を中心にモデルベースで考えた仮説を体験・実証する場所へと変わり、その中から偶発的なイノベーションを発見していく明確な場所になるはずです。


クリエイティブオフィスをクリエイトする

このようにオフィスのカタチを考えていくと、これまで如何にシステムデザインやイノベーションに古いオフィスの形態が邪魔をしていたのかが分かります。

逆にトヨタの様にオフィスをデザインしていくプロセスの中に、自分達の本来のミッションを同期させ体験型・動詞型の「オフィシング」として取り組むことができれば、社長メッセージなどという無駄な文章を読まさなくても社員が自律的に大きなビジョンに向かって進んでいくことができるようになると信じています。

私はこれまでデザイン部門で新しいツールの導入を通して新しい働き方や役割を実現しようとしてきましたが、もっと大きな視点でオフィスをデザインすることから考えていきたいと思うようになりました。特に在宅勤務の今はサイバーオフィスのカタチをしっかりと作り上げていきたいと考えています。


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