MODEという新しい撮影アーキテクチャ
「モード」はファッションの世界では「流行」という意味で使われます。衣服の機能性やTPOという普遍的な視点ではなく、時代やタイミングによって変化をする「時間」と強く結びついた概念です。反対に変化しないファッションはトラッド「伝統」と呼ばれます。
この記事ではファッションのことを伝えたいのではなく、これからのカメラの楽しみ方を考えた時に、撮影の基本体験として「MODE」を中心にしたアーキテクチャが重要になってくるという話をしていこうと思います。
「瞬間」のためのカメラとファッション
ファッションもカメラ・写真も産業革命以降の技術や産業の急速な発展、印刷技術から始まるメディアの登場によって、それまでの伝統的な衣服や絵画から「変化の中のこの瞬間」というものを切り出し共有することに大きな価値を持つようになった近代の産物です。
都市がファッションを生み出し(むしろファッションが都市を産み出したと言った方が良いかもしれない)写真はそれらを切り出すことによってさらに多くの地域へ都市を広げた双子の様な関係でした。
若者が自分たちでモードを発信する
高級メゾンがつくるオートクチュールやプレタポルテといったものだけが、モードを発信していたわけではなく、近年ではストリートの若者が「着こなし」すなわち組み合わせやカスタマイズによってモードに影響を与えています。
この現象の背景には、大量生産によって安い衣服が大量に出まわることで、気分によって服を選択し、気軽にカスタマイズすることができるようになったことがあります。
このような変化はカメラ/写真の世界でも同じように起きています。伝統的な露出や構図に関する考え方、一部の写真家だけが良い写真を決めていく権威としての写真ではなく、もっと自由に表現しそれを発信していくことができるようになったのがフィルム時代の街中DPEやデジタルカメラの登場でした。
誰もが表現者/発信者になる時代を作ったのがファッションとカメラであり、お互いの発展と民主化に貢献してきた関係でもあります。
カジュアルなモード体験ができるMODEカメラ
ストリートから生まれるものはメーカーがお仕着せで何かを準備するのとは真逆な行為ですが、ファッションにおいてもストリートからメーカーデザインへの逆輸入が起きているようにお互いに刺激し合える関係が実現しています。
そこでカメラの世界でもユーザーが自分の表現を作り上げ、発信することができるアーキテクチャとして考え出したのが「MODEカメラ」です。
これまで撮影モードと言えばPASMといった露出モード、アートやシーンのようなプリセットモードがモードダイヤルに並んでいましたが、MODEカメラでは露出や画作りの設定は内部パラメータとして利用し、撮影設定を統合したものをMODEとして呼び出して使うイメージになります。
MODEの内部パラメータを操作しながら撮影すれば従来のPASMと同じ撮影モードになりますし、複数のMODEから選択して撮影すればアートモードやシーンモードと同じです。MODEはそれらを統合しさらにデジタルメディアらしいオブジェクト指向を持つアーキテクチャとして体験設計されました。
MODEカメラの特徴
MODEを選んで撮影することができます。
MODEのいくつかはシーンモードのように初めからカメラに内蔵されています。またネットから他の人が共有したMODEをダウンロードしてカメラに取り込むことができます。もちろん自分が作ったMODEのその中に入ります。
これまで限定されたプリセットモードから選択する撮影は「自分の表現」と感じにくい面がありましたが、MODEでは何千何万という中から自分の感性で選ぶことができ個性を発揮しやすくなります。
MODEを作りながら撮影することができます。
これまで1枚の写真を撮るために撮影設定を変えていたのと同じように、露出や画作り、ドライブといったさまざまなパラメータを組み合わせて設定することでMODEを作りながら撮影することができます。自分のベースMODEを決めてそこから毎回調整を楽しむ使い方や、いくつもの撮影設定セットのスナップショットをMODEにして切り替えながら比較する使い方などアイデアが広がります。
もちろん撮影した画像からMODEを作ることもできるので後からゆっくりとおこなっても構いません。素敵な写真が撮れた記念にMODEを作っておけばこれまで以上に特別な存在になるかもしれません。
MODEをコレクションできます。
カメラとスマホアプリが完全に同期しているためMODEの管理や撮影中の呼出はカメラ側でもスマホ側でも可能です。カメラでMODEを選ぶときに何百ものMODEが表示されても瞬時に選択できなくなってしまいますのでカメラで表示する種類を限定することもできます。
MODEは作成時に「派生」という概念で他のMODEとグループが作られているのでユーザーが意識をしなくても分類管理されますし、お気に入りなどのタグを使うことでユーザー独自の管理も可能です。
MODEを誰かにシェアできます。
スマホアプリを使えばSNSでMODEをシェアすることも簡単にできます。露出補正とホワイトバランスを少し変えただけのものを誰が必要としているかと思うかもしれませんが、MODEをシェアするときには作例として撮影した画像を付け、撮影のヒントやコメントを一緒に発信できます。
SNS上のMODE一覧は、ほとんど写真のシェアと同じように見えます。素敵な写真とコメントを観てもらいます。もしそれが気に入ってもらえたならMODEをダウンロードしてカメラで使ってもらえます。
フォトレシピとMODE
自分で作ったMODEを使う分には撮影方法の説明が無くても問題ありませんが、他の人にシェアして使ってもらうためには魅力的な作例写真、撮影設定以外のノウハウや撮影状況説明などの情報を一緒にしておくと使ってもらい易くなります。
これらをセットにしたものがコミュニティにおけるMODEになります。これは実質的に「フォトレシピ」と同じものです。フォトレシピが撮影法の説明に主眼をおいているのに対してMODEでは撮影設定を起点として作られる違いがあるだけです。
写真を撮影して発表する人は沢山いますし、そこに記事を付けてSNSにアップする人も沢山います。対象となるアクティビティは様々です。MODEでは撮影行為そのものをシェアすることを目的としています。これまでカメラメーカーのフォトSNSでは撮影機材情報が強調されていましたが、そこに撮影設定や撮影方法を組み合わせることでコミュニティの価値を高められるはずです。
コミュニティとMODE
MODEは「派生」によって階層的な親子関係の中で生み出されます。また全ての写真は何らかのMODEの元で撮影されるためMODEごとに写真を紐づけることができます。他の人と同じMODEで撮影して写真をシェアすれば自動的にMODEギャラリーで一覧表示されます。逆に自分だけのギャラリーを作りたければ新規にMODEを作って撮影すれば簡単に切り分けできます。
MODEの価値には2つの面があります。一つはより多くのMODEを派生され、より多くの写真を撮影されたパブリックMODEです。そしてもう一つは私だけのMODE、私たちだけのプライベートMODEを持つことができることです。
MODEコミュニティが従来のSNSと違う点は、従来のSNSが先にアカウント登録をしてそこから自分のコミュニティを広げていくのに対して、MODEでは最初から巨大なコミュニティへの参加ができることです。人気があるMODEから派生させて自分のMODEを作ってシェアすれば多くの人に繋がることができます。
もし自分のMODEから沢山のMODEが派生され沢山の写真が撮影されれば、親に当たるMODEへの注目も上がる仕組みです。これらが良い写真を撮ることによってチャンスを掴むことができる世界です。また同時にカメラやレンズの価値を高めていくことになると考えています。
MODEカメラを作るには
MODEの世界を作るのに技術的には何も新しいことはありません。スマホアプリとコミュニティサイトと合わせて再構築すればMODEカメラはできます。
「MODEなんて使いたくない」というトラディショナルなユーザーに対しても、PASMが無くなる分けではないので普通のスタンドアローンなカメラとしてこれまで通りに使ってもらえます。(内部的にはPASMのいずれかが選ばれたMODEになっているので既存ユーザーを失望させるリスクもありません)
現在カメラメーカーは様々な理由から小さな組織になりつつあります。統合的な連携が必要なMODEアーキテクチャを実現しやすくなっているので、未来のためにどこかのメーカーが採用してくれないかなと密かに思っています。
またフォトレシピという視点からは、クックパッドのようなユーザーコンテンツのメディアが中心になって進めていくこともカメラ技術がミラーレスによってコモディティ化した現在であれば十分に可能です。
撮影という個人的な行為を誰かとシェアするなんて想像できないかもしれませんが、個人的だからこそ価値があるということを私たちは多くのSNSで学んできました。とくにこの記事を書いているnoteは極めて実験的な発信価値に取り組んでいます。カメラや写真の世界にもきっと同じようなチャンスがあると思っています。
(今日はこの辺で)
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