ロボット共同撮影

ロボットと共有する"カメラ"

以前の記事で、ロボットを購入(クラウドファンディングの支援)をしたことを書きましたが、UIデザインの視点でもう少し掘り下げてみたいと思います。

今回ロボットを購入した理由は、そのロボットに写真を撮らせようと考えたからです。
これまで色々なカメラのUIをデザインしてきましたが、それは人間が操作することを前提したものでした。しかし「未来のデジカメ」をデザインするのであればロボットとの共同作業を考えておかなければならないと思いました。

まず人間の操作

カメラそのものが指先の大きさになり、完全に自動で撮影する技術が確立されてきました。今後カメラに操作が残るとすれば純粋に「人間が撮影を楽しむため」だけに付けられることになります。

この状況は2020年に実現するといわれている自動運転車と似ています。目的地に行くだけであれば人間が運転する必要はなくなりますが、ドライブを楽しむためにハンドルを装備した車種も一定数残るというのが、自動車メーカーの主張のようです。

私はカメラにおいてもより多くの操作系が残っていくと考えています。

活動記録/ライフログの撮影では完全自動撮影に置き換わっていくことになりますが、作品撮影では「自分の作品」と認識するために一定以上の選択肢の中から自分の世界を能動的に作り出す必要があるからです。

最近のスマホカメラでは画素数や画処理の性能として十分に作品撮影ができるようになっていますが、それにも関わらず多くのインスタグラマーが一眼カメラを使っています。実際の写りの良さだけでなく、その撮影プロセス(カメラ操作)に意味があるのではないかと思っています。

既にカメラ自身がロボットと呼べる存在

次に、カメラとロボットの関係についてこれまでの歴史を確認しておきましょう。いったん3つに分類してみました。

レベル1:カメラがロボット
レベル2:ロボットのカメラ
レベル3:ロボットと共有するカメラ

これまでのカメラの歴史で1と2は既に実現しています。

ロボットの定義には色々ありますが、「知的な判断」と「物理的な動き」が私たちの思うロボットではないでしょうか。
カメラもいくつかのレベルでこの条件に当てはまりますのでレベル1を満たしていると言えます。

知的な判断という面では、AEやAFなどの判断をさまざまなセンサーや画像を使っておこなっていますので、最近のほぼすべてのカメラに当てはまります。
人物認識(表情認識)や動態予測(空間認識)などをイメージすればその知的さが分かりやすいと思います。

もう一つの物理的な動きですが、さらに3つのレベルに分けて考えてみることができます。

レベル1-1: ミラー、シャッター、レンズ駆動、手振れ補正機構
カメラの設計者は、ミリ秒、ミクロンオーダーの動作制御をおこなうロボット技術者です。純粋な光学設計の除いて、メカ設計、電気設計、ソフトウェア設計は何らかの形でロボットを制御することに苦労をしています。
これらの設計が同調して1枚の写真をキレイに仕上げているのです。

昔ながらのカメラの形の中に組み込まれていますので、ロボットと気づきにくいですが、それを実現できていることが脅威的です。

最近のレンズ設計では、フォーカスや手ぶれ補正をおこなうレンズユニットをいかに小型化して、高速に正確に動かすかということがカメラの使い勝手に結びついています。光学性能とのバランスをしっかり考えなくてはなりません。

レベル1-2: キヤノン スピードライト470EX-AI
従来はユーザーが手動でおこなわなければならなかったフラッシュの方向セッティングを、撮影者の動きと、環境に応じて自動で動いて調整してくれます。実際の動きを見れば誰もがロボットだと感じるはずです。
カメラの一部ということでレベル1の延長ではありますが、ロボットとしての動きがカメラ外部に露出してきた衝撃が大きかったのでレベルを分けてみました。

カメラマンの動きに連動してウニウニ動く映像は衝撃的。さらにプリ発光で最適化するなど、ロボットとしての要素をしっかりと持っています。

レベル1-3: 自動シャッター、自動フレーミング、自立移動
カメラは人が手に持って撮影するものという常識は、セルフタイマーの登場で崩れ始め、人間の意志とは無関係に自動撮影してくれるまでになってきました。
このような自立カメラは最近ではドローンカメラが代表的ですが、実はデジカメの歴史と同じくらい昔からある技術なのです。

自動シャッターは、ソフトウェアだけで実現できるため、以前は多くのカメラに搭載されていました。
笑顔になるとシャッターが切れる「スマイルシャッター」、カップルが近づくとシャッターが切れる「ペアシャッター」などがデジカメの機能競争の中で作られました。

その後、さらに自動化の機能競争が進みソニーが発売した「パーティショット」へと進化していきました。
ちょうどこの頃に、ライフログカメラのようなものもたくさん提案されましたが、現在では活動を自動で撮るという文化から、撮影するために活動する「インスタ映え」へと大きく方向が変わってきてしまいました。

ドローンで撮影された素敵な映像。自立移動ではありませんが、簡単な操作だけで姿勢を保持し、カメラアングルをコントロールすることができます。
こんなの見たら欲しくなります・・・が、それよりもこれだけの場所に行く行動力に感動。
ソニーのCyber-shot IPT-DS1を使うと「パーティーショット」撮影ができ、顔認識技術を使って自動的にフレーミングをして撮影してくれます。
コンセプトは素晴らしかったのですが、他のライフログカメラと同様に、ゴミ写真の中から意味のある写真を見つけ出す手間に対応することができずに消えて行ってしまいました。


「ロボットがカメラ」はこれからどんどん増えていく

続いてレベル2です。これも既に実現し数は少ないですが市場にでてきています。

ロボットは周辺の状況を認識するためにカメラを持っている場合が多く、特に人間のそばで活動するコンパニオンロボットは安全やサービスのために必須の要素です。

そのカメラの画像を記録して書き出せば写真になります。
人間の指示によって撮影される場合もありますが、ロボットが状況を把握して自立的に撮影することもできます。

人が喜ぶ写真を撮っていれば好意的に受け入れられますが、そうでなければ監視カメラと同じような存在になってしまいます。

aiboは生活の中に入り込み、人間とコミュニケーションし、写真を記録してくれます。笑顔の写真を撮るのに最高のカメラマンと考えることもできます。
開発元がロボットと定義していますので、レベル2として紹介します。
PLEN Cubeは箱型でカメラを搭載した頭を動かすことでフレーミングを調整し写真を撮影できるロボットです。パーティーショットと同系列とみることもできますが、対話的な中で撮影することができる点が新しい点です。

ヒトとロボットとカメラの新しい関係

では、レベル3とした「ロボットと共有するカメラ」はどのようなものになるのか考えてみましょう。

ロボット化したカメラを人間が操作することやカメラやロボットが完全自動で撮影することは既に実現できていますが、最初に書いた「作品撮影のための人間による操作」をもったまま、ロボットが介在するためにはどのようなUI形態になるのでしょうか。

コンピュータによって動いているロボットにとって、同じくコンピュータによって動いているカメラとのやりとりには通信技術を使うことが自然ですが、その動きは人間からは見ることができません。
実際にはロボットとカメラは通信をしていたとしても、人間と操作系を共有するUIを考えていく必要がありそうです。

現実にそのようなコンセプトで作られたロボットがいくつも存在しています。前回のモーターショーにも出展されたヤマハの「モトボット」や自動演奏ピアノなどがそれにあたります。バイクや楽器は従来に近い形態を持ちながらロボットと融合し人間との共有を可能にしているものです。

バイクを人間のように乗りこなすロボット
自動演奏ピアノによる人間との連弾


カメラの分野でも一部のシネマレンズでは、フォーカスや絞りなどの操作系に「駆動用ギアリング」用いることで、人間と機械のハイブリッドな操作系を実現しています。

シネマレンズの格好良さは、メカニカルな外観だけでなく、全てがインターフェースとして作られており、形態は機能に従うところです。

また今後、ロボットが人間に近づいていくことによって、このような特別なUIを持たなくてもロボットがカメラを操作できるようになってくるはずです。

物理的なUIの問題だけでなく、役割分担や関係性においてロボットが人間のパートナーになる必要があります。
パートナーというと人間と同じ能力を持たなければならないと考えてしまいますが、人間が相手の場合も同様ですが、できる人もできない人もいますので、ロボットも必ずしも賢く何でも出来る必要はありません。道具ではなく「パートナーであるというキャラクター性」が絶対的に必要になります。

来年の抱負として、人型ロボットと一緒に写真を撮って作品を発表してみたいと思っています。PLEN:bitはそのためのキャラクターとして活躍してもおうと考えています。

ロボットが苦手なことは人間がおこない、人間がやりたいことを人間がおこなうことで、無限の役割分担が作られていきます。

その中で、一番重要なことが、作画に対するイマジネーションを高めていく(広げていく)ためのコミュニケーションです。目標を達成するための操作を通して、新しい表現の可能性を見つけていくことができなければ撮影のパートナーとは言えません。

指示されたことができるだけでなく、ユーザーの行動を先読みしてアシストしたり、パートナーとして作画表現について話し相手になるという進化していくことになります。

何年か前に、チンパンジーが撮影した写真は誰のものか?ということが話題になりましたが、ロボットの人格が明確になっていくに従って同様の問題がでてくることも想定しておく必要があります。

キャラクターを持ったロボットが撮影した画像は誰のものになるのでしょうか?

 

文中の動画はYoutubeからリンクを張らせてもらいました。問題がありましたら削除しますのでご連絡ください。

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