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じいちゃんと鰤しゃぶ

祖父が言った、「鰤しゃぶ食べたい」がきっかけで、この旅館に2度、お世話になりました。


祖父は、わたしが生まれた頃にはすでに心臓病を患っており、過去に2度、本格的に心臓がとまり、ペースメーカーを入れ、そのペースメーカーにも3度助けられています。
…計5回、心臓とまって蘇生してるんですよ。じいちゃん不死身か。
その後パーキンソン病も発症して、手が常に小刻みに…もはや大刻みに震えています。

祖父母はもともと、とても活発で、老人会の旅行によく2人で参加していました。
パーキンソン病を発症してからは、祖父が「ひとさまに迷惑かけたくない」と、老人会の旅行はおろか、外食すら行きたがらなくなりました。
手が震えて、うまく食べられないので、恥ずかしいのだ、と。

祖母は、病気一つない、それはそれは元気な人なのですが、祖父を置いて長時間外出することはできないため、ストレスを溜めているのは目に見えて明らかでした。


弟とわたしが大学を卒業して、それぞれ一人暮らしを始めたあたりから、大型連休のたびに家族旅行に行くことが恒例行事になっていました。

ほとんどが両親と弟とわたしの4人で出かけてきたのですが、祖母のストレスが気になり、祖父母も一緒に、6人での旅行を提案しました。
案の定、祖父は「迷惑かけたくない」と嫌がりましたが、強行突破することに!

それで実現したのが2016年5月
徳島に鳴門の大渦を見に行って、帰りに淡路島に寄った旅行でのことです。
祖父母の80歳の誕生日と、両親の30年目の結婚記念日を祝う名目で。

仲居さんがお部屋に食事を持ってきてくれるたびに、
「孫が、企画してくれたんです」
と毎回毎回、何度も何度も自慢するんです。

それを聞いて、外食も旅行も行きたがらなかったけれど、本当は行きたかったんだな、と実感しました。


その旅行の後、しばらくして、祖父が
「次は鰤しゃぶ食べたいな、連れてってくれるか?」
と言い出しました。

何度誘っても、
「ワシ連れてったら不便多いやろ、やめとき。ワシは留守番しとくから、ばぁさん連れてったってくれ」
と言っていた祖父が!
自分から!!ココ行きたい、アレ食べたいと!!!言い出した!!!!

徳島・淡路島への旅行がきっかけで、一緒に出掛けたいと言ってくれたんだと思うと、もう本当にめちゃくちゃうれしかったです。(語彙が足りない)

昔、老人会の旅行で行った、宮津の寒ブリがおいしくておいしくて忘れられなかったんですって。


ようやく冒頭の話に戻ります。

1回目は2017年5月

祖父母、父母、弟わたしの6人で。

「あのときの寒ブリを家族みんなで食べたかったから叶ってうれしい」
と行きの車の中でも、立ち寄った先でも、食事中も、お風呂でも、寝る前にも、帰りの車の中でも、何度も何度も言って、喜んでくれました。

ロープウェーで上まで登って天橋立を見下ろしたり、遊覧船に乗って伊根の舟屋を海から見たりしました。

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その何年か後に、祖父は畑仕事中に転んで、腰の骨を折り、しばし寝たきり状態になりました。
とはいえ、骨折自体は軽いもので、すぐに寝たきり状態は解消されたのですが、その際に衰えた筋肉はなかなか元に戻らず、杖が必要になりました。

それからも、引き続き会いに行ったり、食事に誘ったりしましたが、より一層出不精に拍車がかかるようになってしまいました。

そんな中、2019年11月にわたしが結婚式を挙げました。
長時間、同じ体勢で座っていることができないからと、祖父が参列してくれることは叶いませんでした。

そのかわり、と旅行に行くことに。

2回目は2019年12月

祖父母、父母、弟わたし夫婦の7人で。

たぶん、体調の不安や、体のしんどさ、迷惑をかけるかもしれないという不安は、今までの旅行より強くあったんだと思います。
でも「結婚式に参列できへんかったから、その罪滅ぼしに」とがんばってくれていたのは、しっかりと伝わりました。

初回にも訪れた天橋立では車椅子を借りて、家族みんなで押して歩きながら楽しみました。
(さすがに伊根の舟屋には行く余裕はなく、断念しました。)


「もうこれで最後かな」
って何度も言ってくる祖父。

「いや、なんやかんやゆーてめっちゃ元気やん!3回目も来ようね♡」
って返事する家族。

「でもやっぱり、じいさん面倒やと思うけど、また連れてってな。
前は6人で来て、今回は子ブタの旦那さんも一緒に来てくれて、人数が増えるのはうれしい。
移動や食事やお風呂とかで迷惑かけて申し訳ないと思うんやけどな、でも一緒に、って気にかけてくれるのは、こんなにうれしいんやな。」

その祖父の言葉に、家族全員が涙ぐみました。

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2020年には弟も結婚しました。

3回目は弟夫婦も一緒だといいな。


鰤しゃぶは、鍋にくぐらせる時間の少しの違いで食感が変わります。

「わたしは〇秒くらいがおいしい!」
「オレは△秒くらいかな!〇秒もやってみよ!」
そんなことを言いながら、ワイワイと食べる時間がとても楽しかったです。

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普段、祖父母は2人きりの食卓。
祖父母だけじゃなく、両親も、弟夫婦も、わたしたち夫婦も、それぞれ2人暮らしで2人きりの食卓。

大勢で集まって大鍋をつつき合う。

そんな明るくて楽しい食事を、心おきなく楽しめる日が早く訪れますように。



【ご紹介】

お部屋も、お食事も、お風呂も、旅館全体の雰囲気も、旅館の方々も…最高の旅をありがとうございました。
3回目の鰤しゃぶも、こちらの旅館でいただきたいです。


先日、こちらの記事を見たことがきっかけで、 #おいしいはたのしい コンテストに投稿してみようと思いました。
きっかけをありがとうございます。


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