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社員の正しい行動にボーナスを払ってはいけない!?モチベーションの罠

社員の好ましい行動に対して、なにかしらの手当を支給しその行動をさらに促そうとすることは、経営者や上司であればだれでも1度は考えることでしょう。
しかし、そのインセンティブである手当が、かえって社員のモチベーションを下げてしまうことがあるのです。手当を支払ったことで、むしろ望まない方向へと導いてしまうのです。


好ましい行動にインセンティブを支払う

例えば、毎朝元気にあいさつをする社員がいたとします。あいさつ自体は、職場を明るい雰囲気に変え、その社員も気持ちよく行っていたとします。それを見た社長が、みんなも同じように気持ちよくあいさつするようにと、最も良いあいさつができた社員を1人選び、月間MVPとして手当を支給することにしました。

また別の例では、環境保護のためできるだけコピー用紙を使用しないよう裏紙を活用したり、PDFファイルを使用する取り組みをしていました。それに対し、社長が削減できたコピー用紙分だけ手当を支払うことにしました。

どちらのケースも一見すると、元気にあいさつしている社員をねぎらう、あるいは環境保護を促進する良い制度のように思えます。しかし、おそらくは期待したような成果は得られない可能性のほうが大きいのです。

本来の目的を失ってしまう

毎朝元気にあいさつをしていた社員は、“職場を明るくする”という動機からあいさつをしていました。コピー用紙は環境保護のためです。
しかしそこに手当というインセンティブが加えられると、本来の目的が、手当(インセンティブ)のための行動に置き変わってしまうことがあるのです。つまりあいさつやコピー用紙削減の目的は、いつしか報酬を得ることに変わり、本来の道徳心や社会的意義はどこかに追いやられてしまうのです。

これが好ましくないことは言うまでもありません。
ふるさと納税を”ふるさと”に納税している人が、一体どれほどいるでしょう?

さらに悪いことには、もし毎朝元気にあいさつしている社員を見かければ、他の同僚からは「手当のためにやっている」と、冷ややかな目で見られてしまうかもしれません。裏紙を使っていれば「ケチくさい奴だ」と思われてしまいます。
そうなれば、たとえそれが良い行いであったとしても、気まずい雰囲気なることは容易に想像できます。

社会規範と市場規範

行動経済学者のダン・アリエリー教授は、これらの行動規範を「社会規範」「市場規範」と名付けました。「社会規範」は道徳心や義理人情のようなお金では測れない価値に基づいて行動することを指します。それに対し「市場規範」は、損得といった経済的判断に基づいて行動することです。
そして、社会規範に基づいて行っている取組に対し、経済規範を持ち込むと、途端に目的がすり替わってしまうのです。

通常報酬を期待するであろう業務(ミスを少なくする、すばやく処理するなど)に対して、インセンティブを支払うことは、必ずしも悪い結果は招きません。金銭的見返りがあることが当然とされることであれば、インセンティブはモチベーションを強化します。競馬と馬券はセットであるから、ギャンブルだけでなく、競馬というスポーツも楽しめるのです。

しかし、道徳心や社会的意義から行っている行為に対して、それが良いことだからとむやみやたらに手当を支給することはかえってやる気を削いでしまうのです。
もしなにかしらの手当を新たに設けるのであれば、この点をよく考えて設定することが大事です。

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