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インドの政党・選挙を美味しく味わう。

インドの総選挙(任期満了の場合は5年に1度)が2024年に春に予定されています。僕はいまインド現地に居住していまして、インド共和国・連邦中央政府立大学内の公共政策センターに所属する立場(≒インドの犬)であります。せっかくならばこの14億人(有権者9億人)参加型リアルフェスを楽しまないという選択肢は存在しません。世界最大級の合法的な骨肉の争いです。

何事も楽しむには事前学習が必要ということで、noteを読んでくれている同志のみなさんにも、面白ポイントを見出すきっかけを提示できたらな、と思うところです。僕が研究対象としてインド政治全体の構造論やシステムを分析していく中で、こちらのnoteでは「分析中に漏れ出たおまけ」をちょろちょろと公開していきたいと思います。

日本の政治とチャイナの政治は、ともに味わい尽くしている僕でありますが、新たに加わった研究対象としたインド政治については政党と総選挙に萌えます。どこからどう噛じりついても萌えポイントが多いです。

日本の政党&選挙システムは、
今や概念上の55年体制による長期沈滞と縁故門閥主義でステルス性腐敗(議員個人は改革を志しても、それを達成するために次期連続当選を目指す結果、究極的には保身で動くことになる構造的問題)に疲弊した、味の無くなったガムを小一時間クチャクチャやるようにつまらないものであります。
またプロレタリア独裁下のチャイナは、
ナチュラルに制限選挙バリバリで楽しみに欠けます(ただし、中国共産党というマネジメントシステムは最強に面白い研究対象です)。

兎にも角にも、インドの政党&選挙は、カースト制やコミュナリズムを背景に、また扇情も腐敗もドーンと来いという途上国ストロングスタイル。日本の政党&選挙やチャイナの選挙に比べて格段に粗削りでエキサイティングなのであります。しかも、こんな粗削り政体が14億人を束ねて、国際社会で大国にのし上がっていくトレンドなわけですから、インド政治に関心がなかった日本人も注目せざるを得ない状況になっていくとも言えます。

本題に入りましょう。
インド中央連邦政府政体の立法府は二院制です。日本と同じく下院(日本での衆院にあたる)である連邦議会下院のローク・サバーLok Sabhaの総選挙によって政権交代/首相交代が発生します。国のトップを決する戦、ということになりますね。2019年の投票率は67.4%でした。日本の2021年10月衆院総選挙の投票率が55.93%だったことをふまえると、それよりは十分に関心が高い、といった状況でしょうか。ちなみに、有権者の選挙への関心が高いと日本国内で報じられる台湾については、2024年1月に行われた総統選の投票率では71.86%でした。

連邦上院のラージヤ・サバーRajya Sabha(日本での参院にあたる)選挙や、首相とは異なった機能をもつ大統領の存在、それから各州と連邦(国政)の権限バランスについて、などについては、単にシステムだけでなく、その行間に含まれる有機的な意義も含めて、書籍などnoteではない媒体にて別途まとめて発表する予定です。
こちらのnoteでは何エントリーかに分割して「政党」に注目して随時更新していきたいと思います。

全国レベルで活動する政党ならびに地域レベルでこじんまりと活動する政党含めて、選挙に際して公に活動している組織は、インドの選挙を統括するインド選挙管理委員会(以下、印選管)のホームページにリストが載っています。

https://www.eci.gov.in/

大きく分けて、Recognized(確認済み)団体とUnrecognized(未確認)に別れます。確認済み政党は、国政政党と地域政党に分かれています。
・確認済み国政政党

・確認済み地域政党

印選管には政党定款なども公開されています。
https://www.eci.gov.in/constitution-of-political-party

現政権与党のインド人民党(BJP)の定款はこちら。

下記のサイズ上限があるので2つに分割したファイルは、最新版の印選管登録済み未確認政党一覧です。2597団体もあり、またそれ以外に活動実態のない団体も数百あるようです。日本の各都道府県選管への届け出政治団体もあわせれば相当の数に登るので、まぁ確かにインドの政治団体(政党)も多いとはいえ、こんなもんでしょうといったところ。それより気になったのは、オフィシャルにアップロードされているデータが「紙画像」なので、ファイルサイズがやけにデカいのが地味に嫌です。インド独特の、ICT化とアナログ官僚制の残念な婚姻関係がここにもあります。

ちなみに現在のローク・サバーの構成は下記のとおりです。


与党BJPが圧倒的な議席を有しています。

インドでの核になる政党とその同盟勢力みたいな形式で総選挙に臨みます。日本で言えば自民党と公明党で「自由繁栄(仮)」連盟、立憲と国民と維新で「共に進歩(仮)」連盟みたいに同盟の名称も決まってます。
インドの各政党名は後述しますが、現与党の同名はモディ首相率いる印度人民党(BJP)を中心とした同盟の国民民主同盟(NDA)です。NDAにはその他小規模政党が複数参画しています。最大野党勢力は印度国民会議(INC)を中心とした同名の国家発展包括連盟(INDIA)です。INDIAにもその他小規模政党が複数参画しています。INDIAは日本で言えば「野党共闘(かなり同床異夢な)」といったところです。

さて、ココからが本日のビックリドッキリハイライトです。

実はここまでが概要で、僕が紹介しておきたかったのは投票で使われる政党選挙シンボルというもの。
日本の政治文化においても、党名や党のシンボルカラー、党旗あたりまでは我々の思考の範疇なので理解しやすいと思います。僕がインド特有で萌え萌えなのは選挙シンボルです。印度人民党なら蓮の花、印度国民会議ならば手なのは有名です。

国政政党一覧(僕が自分メモ用に適当に和訳と略称つけてますのでお気になさらず。)

米国にも民主党、共和党でシンボルのイメージはありますが、コレ自体が選挙制度的に厳密なルールに従って運用されているものではないです。

インドでは印選管がこれを細かくレギュレーションとして決めています。
各政党がイデオロギーを示す象徴と投票時の表記マークとして、選挙シンボルを取得しています。確かに成人識字率が低い地域での選挙実施には「文字情報」よりも、選挙シンボルが重宝されるのは合理的です。

僕も最初は党旗とシンボルは同じようなものか、党旗や党ロゴのイメージを単に白黒コピーしたようなものが選挙シンボルになるのかと思っていたら、各政党の党旗と選挙シンボルは完全一致でなさそうです。調べてみると、選挙シンボルは選挙プロセスで使用される厳密に規定されたものであって、党旗はあくまでも任意デザインのものである、と。どちらかというと政党名と選挙シンボルの取得が先にあって、それらにひっぱられて党旗がデザインされる傾向にあるようです。党旗がない政党はありますが、選挙に候補者をたてる政党は選挙シンボルは取得必須ということになります。

上記の2012年に結党され一気に党勢拡大し2023年から全国政党入りした平民党はゴミ取りホウキ(broom)のイラストですが「政体をクリーンにする(腐敗をなくす)」、ホウキで腐敗した政治を掃除するというイデオロギーが込められているそうです。なかなかセンスいいですね。レトロなデザインもグッド。

https://aamaadmiparty.org/about/election-symbol/

僕の住んでいるデリーに接するウッタル・プラデーシュ州には地域政党がありまして、ロークサバーにもBJPと共闘し2議席を有するApna Dalという政党。印選管に申請し、最終的に与えられたシンボルは「カップ&ソーサー」とのこと。ここにどうやって政治イデオロギーがみいだせるのか初見では不明ですが、

政党ロゴもそれにひっぱられてこちらになってます。

サフランカラーは、ヒンドゥー主義を、深いブルーカラーは、ダリト(不可触民)と不可触民解放の父である大物政治家アンベードカルの信奉者たちを示します(ここでは深く解説しませんが、ダリトに関して血と涙の歴史をもつので、非常にタフなイデオロギーが滲みます)。せっかくカラーが政治イデオロギーをゴリゴリに表現しているのに、中心にドドーンと配置されるティーカップが笑いを誘います。むむむ、選挙シンボル文化、萌えます。
こちらは→オフィシャルTwitterアカウントです。

それから、インド北東部に位置するトリプラ州の地域政党Tipra Motha Party。ここの選挙シンボルは、可愛らしいパイナップル(!)ですが、

党旗には人物を使っていたり、

選挙シンボルを配したものを使っていたり一貫性がありません。

オフィシャルページもイケイケです。

https://tipra.org/

ちなみに、こちらの政党はトリプラナショナリズムを掲げていて、なかなか強烈な個性を放っています。日本で空想すれば「(架空の)岩手民族主義を掲げる岩手県議会の主流会派政党-岩手人民党」みたいな立ち位置でしょうか。ちょうど昨日(3月7日)のニュースで、印人党が率いる州政府に加わる云々とのことで、総選挙を前に地域政党が印人党傘下に入るなどの動きが加速しています。


というわけで、選挙シンボルは各政党にとって非常に重要なアイコンになっていることが解ると思います。現代のようなマーケティング技術が発達する前から選挙シンボル制度はあったので開始当時は適当な運用だったのだと思いますが、そのロゴへの人間心理といいますか好感度が異なるので、選挙シンボルを割り振ること自体が大きな権限をもってしまっているような気もしますが、どうなんでしょう。ヘビのシンボルとか、あまりいい気持ちがするもんではないと思います…。
規定上、選挙シンボルは政党でかぶってはいけません(厳密には国政政党のものは他政党は使用不可で、地域政党ならば別地域で使用可能)。それでは、どのようなシンボルを新興政党が取得できるかというと、その「未使用」なシンボルを印選管がリスト公開しています。まだ使える(他の政党に使用されていない)イラストがPDFになっていました。何を使っても良いということではなく、この未使用リストから選択をするようです。このルールが謎すぎますよね。

萌える選挙シンボル

まぁ帽子やらブドウやらはいいのですが、青唐辛子なんて残念なナイキにしか見えません。からの、ヘッドホンは突然に写真です。

空気入れ(おい


レトロ絵ばかりかと思ったら、突然イラスト屋風の現代絵(しかも背景が透明格子)とか、次は写真のレンガとか一貫性の無さがたまりません。


ツッコミ待ちとしか思えません。選挙シンボルに監視カメラとか、さすが「民主主義の母」を自称するインドです。むしろ全体主義政党ならば確かに監視カメラはイデオロギーと合致しているともいえます()
物体じゃなくていいんだ・・・
Ludo、えー、ゲームでいいの?どんなイデオロギーだよ。
3Dモデリング初心者がテスト課題提出用に頑張りました、的な。
なんてステレオタイプなロボット
コンセントや注射器に政治イデオロギーが込められている政党が出てきたら、逆になにかすごい革命的なことをしてくれるんじゃないかと、wktkではあります。

印選管というとてもお硬い組織が完了的に管理しているデータなのに、統一感の無さやイメージ素材のやっつけ感。あらゆる側面からインド的です。

全リストはこちらから。

とりあえず今回のネタはここまで。まだまだ楽しめるポイントがざくざく出てきそうなインド総選挙。また次回をお楽しみに。

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