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習近平セルビア訪問を茶をしばきながら味わう。

習近平セルビア訪問。NATOによるチャイナ大使館攻撃(誤爆)・三人殺傷事件から25年の節目云々だから説が国内外のメディアでかけめぐっています。確かにその「文学的な」意味はあれども、習近平としては8年前に現在と同じ最高指導者ポジとして訪問しているわけで、実質的にこの事件を象徴的に取り扱うのは、プロパガンダ的なジャミング情報とまでは言わないですが、僕は、本音は違うところにあるんじゃなかろうか、と思われました。
どうも、爆撃事件から25年だからと、大本営発表まんまにいわれても納得感が薄いのですよね。タイミングはそうかもしれないけど。

チャイナ人民向けに3名の犠牲者をだしたことへの国内向け追悼と、米国・欧州への横暴の帝国主義的振る舞いを腐す対外的な泥団子投げ、ということの意義は納得感があるものの、正直言って、それを理由に訪問国を選定するほどは大した話じゃないのですよぬ。リアリズム合理性マシーンの中共がそんなバリューの低いムーブをするとは想定しくかったわけです。

https://www.reuters.com/world/chinas-xi-jinping-visit-serbia-anniversary-1999-nato-bombing-2024-05-07/

本題の分析の前に、チャイナ側は何を大本営発表しているかもチェックしておきましょう。
今般の新華社に大々的に掲載された習近平からの一連の発信において、チトー後のセルビアの発展と、改革開放後のチャイナの発展時期が重なるとしているけど、ソレに関しては微妙な相似形であるだけでこじつけといった雰囲気は拭えないかな、といったところです。また、習は「鮮血で固められたチャイナセルビア両国人民の友情」とか、かなり深化したパートナー関係国に対して使うフレーズ(萌える)を用いているところは注目。
ちなみに、チャイナ側はセルビアとの外交関係を「包括的戦略パートナーシップ」としてかなり高い扱いにおいてます。前回2016年に習近平セルビア訪問の際に《中华人民共和国和塞尔维亚共和国关于建立全面战略伙伴关系的联合声明》として両国首脳署名で「包括的戦略パートナーシップ」に格上げしたものになります。ざっくりいうと「包括的&戦略」が入ると上位ランク入りというチャイナの外交ルールなんですけれども、大国とのパートナーシップ序列で相対比較すると対ロシア関係より下、対韓国や対ドイツより上という距離感です。日本の「戦略的互恵関係」なんかよりは数段階も上位の関係性です。

http://www.news.cn/politics/leaders/20240507/c8d362f0a62a43d1bc3d55f72e650c24/c.html

で、本題の分析。
じゃぁ実際にチャイナ側が何を求めて同国を訪問したかを僕なりに考えてみました。あくまでも想像として、2つ大きな目的があるんだろうと思います。

北京中央総体が、当時(2020年)ネオトランプ・ネオ共和党を警戒しながら、2030年代以降に世界覇権奪取を具体化させ対米対立を本格化させる前の大型準備として、2020年代に習近平に強く集権化させた上で国内政治の膿(大鉈を振るう必要のあって一般人民にも血が出るバブル政策是正と行政部門だけでなく党幹部や解放軍内にも聖域をつくらない腐敗パージ)を出し切るという覚悟で「内循環を基調とした双循環」ドクトリン(※こちらのnote文末に双循環についておまけ解説を記載)を2020年あたりに施行してから、能動的に一帯一路に身勝手に消極的になった結果、
東欧諸国側は見込んでいたチャイナからの投資が新コロ禍前後から突然冷え込んでいてチャイナ側にブーたれていました(最大時「17+1」の枠組みは「14+1」に。)。「なんだ協定結んだはいいけど釣った魚に餌をやらんのか中国殿は…。中国にイイように馬鹿にされたもんだ。」と。

んで、今そろそろ不動産バブル処理のシナリオが描けたところで(景気回復するかどうかは別にして)、かつ解放軍の腐敗処理もそこそこ手を付けられるようになってきたもんですから、チャイナはまたまた身勝手に対外投資に再転換する機運が高まってきたわけです。もちろん、まだ対外投資へ大転換を決めたわけでもないですし、客観的にも景況悪いものですからそのタイミングでもないと思いますけれども、政策転換ときのために東欧諸国アクセスの要であるセルビアは抑えておきたい、というチャイナの意思だと思われるのですよぬ。

もちろん、セルビアを介して東欧「14+1」フレームだけをリノベーションするだけの目的ではなくて、東欧へのアクセスが再度盤石にして、より大きな構想である一帯一路大陸ラインを手堅いものにしたいという目的があります。西欧(各個撃破交渉中)ー東欧(再開発中)ー中央アジア(露の弱体化で大体抑えられた)ーチャイナを結ぶことを目指してます。

G7広島サミット裏番組こと中国・中央アジアサミット
ネット拾い画

もうひとつの、習近平セルビア訪問の意味は、対中規制を強めるEUへの影響力工作です。セルビアは御存知の通りEU加盟申請中の立場ですし、EUとしては対露という意味合いにおいて、取り扱い注意案件です。当然EU側でもない、また実は露側でもない立場のチャイナが、このタイミングにスッとセルビアと連携を強めても、どの利害関係陣営も「もんにゃり」と黙認スルーすることに合理性があります。んで、チャイナ側は将来セルビアがEUに加盟すれば、EU内にチャイナシンパを配置することに成功するわけです。
今回のマクロンフォンデアライエン習の三者会談でも、EUがガーガー言って、チャイナはあんたら強く言い過ぎシランガナ、となったそうですが、まぁ意識高いことがお仕事所作であるEUとしてはそうなるでしょう。一方で泥臭い経済界を抱えるEU内の各国政治家に対しては、意識低い交渉ができることをチャイナは狙います。
セルビアは、チャイナにとって対EUでも対露でも使えるカードです。

そんなわけでありまして、2つのセルビア訪問の理由を考えてみました。

チャイナ内政統治固めや米国内政や宇露戦争の状況が変わって、「双循環≒亀の甲羅モード」だった対外投資を中期的に復活させるタイミングがそろそろくるかもしれない(チャイナ側的に宇露戦争はもう十分に我々は便益を得たので、そろそろ収束させるシナリオでもいいんぢゃね?現地の状況次第だけど。)というチャイナ側の意思(産業経済的意義、対米覇権対立的意義)の現れ。もうひとつは、セルビアの遅効性外交カード化(外交力的意義、対EU関係性構築的意義)です。
僕はこんなふうに北京中央エミュレーションをするのでありますが、セルビア政治や欧州政治に関しては素人なので、ホスト国側の動機について当該地域専門の先生となにか機会があったら肌感覚をうかがってみたいところであります。

※参考:宇露戦争発生当初

※参考:宇露戦争約1ヶ月後

※参考:宇露戦争約1年後

チャイナにとっては、「宇露戦争外交ボーナス」が終わってませんし、米国はいずれの大統領が選ばれるにせよまだ総体国力が弱いので対米対立は2020年代はそこそこのマイルドなものにしておきたいし、国内不景気や国内反腐敗闘争も脱したわけではないので、東欧連携フレームをゴリゴリ進めていくとは思えませんが、とりあえず数年後への種まきとしてセルビア訪問は手堅い一手だな、と思えるものでありました。

おまけ「双循環について」:

※2020年12月、第十九期五中全会 で明確な定義に↓
中共中央关于制定国民经济和社会发展第十四个五年规划和二〇三五年远景目标的建议


※おまけ「一帯一路」について:



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