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検閲という単語を不正確に用いる人々

検閲は「公権力が著作物や新聞・放送などの内容や表現を発表前に強制的に審査し、不適当と認めるものの発表を禁止すること」と定義される。「あいちトリエンナーレ問題に関する私見」という拙文で述べたように、「表現の不自由展に問題はなかったと考えている者」の中には「トリエンナーレの展示に交付金を渡さないのは検閲にあたる。検閲は日本国憲法 第21条で禁じられている」と主張する者が見られたが、これは検閲という単語を不正確に用いてしまっている。

2024年1月、『セクシー田中さん』の原作者が死に追い込まれる事件が発生したが、この事件と同様の問題を含んだ出来事が2010年代にも発生している。

2009年に作家の辻村深月さんは小説『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』を発表した。2年後の2011年、NHKは出版元の講談社に映像化を打診した。講談社は映像化を口頭で許諾し、しばらくして辻村さんのもとに第1話の準備稿が届いた。
だが、NHKから渡された脚本を読み、辻本さんは内容に疑念を示した。数か月に及ぶやりとりの末、講談社サイドはNHKに映像化許諾契約を白紙に戻したいと伝えた。
その結果、NHKは映像化を断念したが、2012年6月にNHKは『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』のドラマ化の契約が一方的に破棄されたとして講談社に約6千万円の損害賠償を求める訴訟を行った。
2015年、東京地方裁判所の岡崎克彦裁判長は「脚本の承認がされていない以上、許諾契約が成立したとは言えない。NHKには小説の主題に関する理解が十分でなかったきらいがある」として講談社側の勝訴と言える判決を下した。NHKは東京高裁に控訴したが、最終的に和解が成立した。

講談社の見解は、NHK幹部などのように、検閲という言葉を不正確に用いている者が日本に存在していることを示している。

検閲はリンゴや鉛筆や火星などといった単語と比べて抽象度の高い名詞であると思われる。一般論として、抽象度の高い単語はそうでない単語よりも不正確に使われるリスクが高く、我々現代人は抽象的な語彙の意味を可能な限り把握し、正確に用いてゆく必要があると筆者は考えている。



画像ソース:【検閲】のシャチハタを激安&即日発送! | シャチハタ超特急 (shachitter.com)


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