あいちトリエンナーレ2019 契約面等からの疑問点と考察

最初に

愛知県知事リコール活動にまで発展してしまった、あいちトリエンナーレ2019。反日だ、表現の自由の侵害だ、等の議論が目立ちますが、ちょっと違う視点で見てみます。

基本的には、検証委員会資料をベースに述べていきます。


あいちトリエンナーレのあり方検討委員会 調査報告書
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/bunka/triennale-finalreport.html

「あいちトリエンナーレ実行委員会」と「表現の不自由展・その後 実行委員会」の関係

「あいちトリエンナーレのあり方検討委員会 調査報告書」(以下調査報告書)の別冊資料1の27ページに、わかりやすく図で記載されています。

これによると、「あいちトリエンナーレ実行委員会」(以下実行委員会)と「表現の不自由展・その後 実行委員会」(以下不自由展実行委員会)との間には、業務委託契約という形がとられていたようです。

なお、業務委託費用は2,257千円で契約されたようです。

ただ、腑に落ちないのが、不自由展実行委員会と芸術監督の間に、覚書(費用立替、提訴の費用負担の約束)がされていたようです。

芸術監督と不自由展実行委員会との覚書の経緯

なんでそんな覚書を書いていたかについて、調査報告書のP75、34項に経緯等が記載してあります。

・不自由展実行委員会の希望により、同会側の不安を解消するため、以下の内容の覚書を、芸術監督と不自由展実行委員会の間で交わした。
① あいちトリエンナーレ実行委員会から支払いが行われるまでの間、不自由展実行委員会は、芸術監督に必要経費の立て替えを請求できる。
② 不自由展実行委員会が作家から提訴されたときは、紛争解決に要した経費を芸術監督が負担する。

また、「同会側の不安」の原因事象としては、契約がなかなか折り合いがつかなかった模様ですね。P73の31項。

・契約のあり方については、5月から協議を始めたが、契約書の書面をめぐる入り口の段階で双方が折り合えず、通常以上に時間を要した。
・その結果、契約書に係る協議終了が7月29日と遅くなった。一方で作品の移送は6月23日に開始されていた。そのため、契約の見直しの過程で、開催を見送ったり内容を見直すことが難しくなってしまった。

何に折り合いがつかなかったかの記載はありませんが、業務請負契約書の書面も検証委員会Webに上がっています。

議事概要(あいちトリエンナーレのあり方検証委員会 第1回会議)
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/bunka/gizigaiyo-aititori1.html

ともかく、検証委員会としては、これら覚書等の行動が、動機は認められるがやってはダメ、と書いてあります。同じく調査報告書のP75、34項

・クオリティを高めるために芸術監督が企業等から協賛金を集めてくることは業務内であり問題ない。予算不足を解消し、不自由展を何とか実現したかったという芸術監督の熱意は理解できる。
・しかし、あいちトリエンナーレ実行委員会は、不自由展実行委員会と業務委託契約を締結する関係にある。その中で、芸術監督が自費とはいえ相手方の費用を負担することは、公私混同とみなされかねない行為である。また、同じく自費とはいえ個人として特定作家を協賛することも芸術監督の公的立場に照らし不適切である。なお、事務局はこれらを知りながら黙認してい
たが不適切である。

一方、この検証委員会指摘に対し、芸術作家側は「個人が特定の芸術家を応援して何が悪い?」との姿勢ですね。
参考資料1 芸術監督からの意見 P19 28項にあります。
(番号や表現が違うのは、中間報告に対しての意見書だからと思います)

あってはならないとする理由が不明である。個人協賛を芸術監督がしては
いけない理由はなく、何が問題になるのか示されていない。
前述の通り、今回政治・社会的なテーマの作品を出展希望したほかの参加作家に対しても一様に機会やリサーチャーの紹介、資金繰りやノート PC やプロジェクターなど機材の貸与を行ってきた。その過程をキュレーター陣は皆把握している。そのように考えるキュレーターはいないと思われる。
また、複数の作家の作品をトリエンナーレ準備中に個人的に購入しており、制作や滞在費補助とした例もある。
キュレーターたちからは、作家のプランの予算が足りないことが何度も告げられ、それに応答するため 6000 万円以上の企業・個人協賛を集めてきている。それを繰り返していたにも関わらず、事務局やキュレーターからは何も問題であるとは言われなかった。

正直、自分の読解力の問題もありますが、この文面よくわかりません。
少し整理してみます

個人協賛を芸術監督がしてはいけない?

最終報告で「不適切」「公私混同」に表現が改められています。
今回の「あいちトリエンナーレ」という事業、「芸術監督」という立場で、特定作家を協賛してよいのか?という問題です。

なかなか難しい問題で、芸術監督が公務員の立場だったら、展示作品を選定する側(発注側)の権限を持つものが、自ら支援する展示者(受注者)を優先的に契約させる、等の行為を疑われる恐れがあると考えます。
ただし、これが一般企業であれば、よっぽど法外な金額でなければ、背任などには問われない気もしますね。

何より、信条の自由もありますので、公務員等でなければ「支援」という行動制限は厳しいんだろうなと思います。ただ、公共事業の「芸術監督」は公務員的な役割では?とも…

トリエンナーレ準備中に個人的に購入?

一見、問題なさそうにも見えますが、芸術作品の展示会ではよくあることなのでしょうかね?
比喩として不適切かもしれませんが、芸術作品を株式、展示会発表を上場として考えると、未公開株を事前に買うような行為にも見えます。
購入し所有物とした作品は、その後どうされたんでしょうね?

6000万の協賛金を集めた・不自由展委員会との覚書

結局、事前に芸術監督はキャッシュアウトをしたわけですが、最終的にそれは補填されたのでしょうか?それとも持ち出しのまま?
これはいずれでも以下のような課題があると考えます。

①補填された場合(協賛金集まってから再契約&配布?)
 ・会計処理上、実行委員会⇒出展者⇒芸術監督 なのでしょうか?
  あるいは、芸術監督⇒出展者 、 実行委員会⇒芸術監督 なのでしょうか?
 後者の方法では、改めて実行委員会と芸術監督間で契約行為が必要です。あるいは芸術監督料として上乗せ?はしないでしょうから。
 さすれば、前者の方法となると思いますが、出展者⇔芸術監督間の契約はどういう形にされているんでしょうね?借款契約?請負契約?
 いずれにせよ、芸術監督への金銭ルートが生じることで、余計な疑念を生む要因になっていると思います。

②補填されない場合
 ・今度は、実行委員会と出展者間の契約が不当に安いという事になります。さすれば、契約時の見積もり算定、価格決定プロセスに疑念有です。

また、不自由展実行委員会と芸術監督の間の「覚書」。費用立て替えの方法もどうやったのでしょうね?
①芸術監督が個人として、不自由展実行委員会の各種作業請負先に金銭を支払う
②不自由展実行委員会の求めに応じて、芸術監督が金銭を支払う
いずれも、会計処理、価格根拠などが気になります。
また、不自由展実行委員会は、最終的に確定申告を法人でやるのでしょうかね?それとも委員個人?
ちなみに、本書執筆時点(2020/12/3)には、国税庁 法人検索で「不自由」として検索しても、それらしい団体は出てきていません。

金額的には約300~400万円で、不自由展実行委員会側からは「ほとんど経費だ」との申し出もあります。

参考資料2 中間報告書に対する表現の不自由展実行委員会からの意見
P6(原文まま 改行のみ調整)
こレだけ記述すると、ギャラとしてこれだけもらったとの誤解を招いている。出展作家としての謝金は新作作家としての 30 万円のみである。この費用は作家の旅費、作家への謝金、一部輸送費が大部分を占めている。つまり、経費であることを明示してください

結局、何が疑問視なのか?

結局のところ、費用の大小はあるにしても、通常は実行委員会と不自由展実行委員会間の2社契約で事業が進むところで、芸術監督が金銭面でも入り込み、あたかも三角契約しているかのような状況を招いているのでは?と思います。
そうなると、そもそもの契約金額の妥当性、契約外での資金の動き(資金洗浄・脱税?)なども気になってきます。

残念なことに、政治資金と違い、これらの事業費の詳細は公開は義務づけられていません。(不正を疑い操作するのは国税庁)
不正行為の可能性については、私の妄想ですし、芸術の世界では普通に行われていることかもしれません。

今回の一連の騒動、お金という面でも、公共事業が芸術文化事業を行う上での契約・体制・査定の在り方を見直すいい機会かもしれませんね。

今回はこれぐらいで

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