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うちで納涼

 今年の夏は日本全体アチアチでしたね。皆さまお元気ですか。

 8月末の今も、夜は少し涼しくなったとはいえ、昼間はまだ太陽が照り付け、苦しいくらいの暑さが続いている。

さて、そんな中でタイトルに戻る。

 納涼とは、「暑さを避けるため、工夫をこらして涼しさを味わうこと。すずみ。」(デジタル大辞泉)のこと。水を撒いたり、風鈴を鳴らしたり…日本には様々な納涼の方法がある。

そんな様々な方法の中から、私が実践しているのは、「ホラー」による納涼である。おうちの中で実践でき、かつ、精神的な“うち”もヒンヤリさせることのできるホラーという文化。嫌だ、という感覚がありながらも私を、多くの人を惹き付けてきた文化でもある。まだまだ知らない事も多いが、ジャンルごとにオススメの作品をいくつか挙げていく。

※ホラー苦手だ!という方はここから先へ行かない方がいいかもしれません…(紹介画像が怖めだったりするので)
でも興味ある!って人はどうぞ!ビックリフラッシュとかそんな仕掛けは全くないです。

1.小説

○『玩具修理者』(小林泰三)

玩具修理者は何でも直してくれる。独楽でも、凪でも、ラジコンカーでも…死んだ猫だって。壊れたものを一旦すべてバラバラにして、一瞬の掛け声とともに。ある日、私は弟を過って死なせてしまう。親に知られぬうちにどうにかしなければ。私は弟を玩具修理者の所へ持っていく…。現実なのか、妄想なのか、生きているのか死んでいるのか―その狭間に奇妙な世界を紡ぎ上げ、全選考委員の圧倒的支持を得た第2回日本ホラー小説大賞短編集受賞作品。

<『玩具修理者』(小林泰三/角川ホラー文庫)裏表紙より参照>

 サクッと読める長さの短編なのにハチャメチャに怖い。幽霊のような存在は出てこないが、物語を通してずっっっっと不安な気持ちが付きまとう作品である。加えて、「酔歩する男」という短編も収録されているが、こちらはなかなかカロリーの高い作品である。作品の世界観に、頭が追いつかない感覚を味わえる。どちらもオススメ。

○『怪談実話 顳顬(こめかみ)草紙 歪み』(平山夢明)

ある時、夜中に高野は、半睡半覚で気がつくと腕が伸びていた。腕は壁を抜けて自宅の外まで達し、なにかを掴んだ「腕の塊」。勉強に集中できなくなる度に決まって現れる、自分の姿によく似た幻影「ベンキョーに負ける」。道を誤った男は、近くの小屋に宿泊した。女が暮らしているその小屋では、決して見てはならないものがある「砂人魚」。幽霊でも人間の狂気でもない、解釈不可能の恐怖体験談を描く。戦慄の怪談実話、第2弾。

<『怪談実話 顳顬(こめかみ)草紙 歪み』(平山夢明/角川ホラー文庫)裏表紙より参照>

 藤原竜也、玉城ティナ主演映画「Diner」の原作者としても知られる平山夢明先生。この方の描く作品はあまりに不可解なのに、すぐそばにあるような気配を感じさせるものが多い。その嫌さに心底ゾッとさせられる。裏表紙の説明にもあるように、原因はこれだ!と言及できない分からなさがまた、良いのだ。

 教訓があり、人生に役立つような知見を与えてくれるような本を「良い本」と定義するならこういったホラーの作品は「悪い本」になるのだろう。(※個人の見解です。)しかし、その「悪い本」にこそ私は魅力を感じてしまう。どこか捻くれていて尖っているんだと思う。や〜ね。
 理由づけをするなら、作品の中で言いたいことや展開がさっぱり読めないワクワク感、読後に不安や自分じゃ解決できない後味の悪さを与えてくれるから、かな。でも理論じゃうまく言えないくらい、本能的に求めている部分もある。いい本ももちろん好き。結局何でも好き。

2.映画

邦画と洋画から一本ずつ。

○『女優霊』

新人映画監督の村井俊男は自身のデビュー作を製作中、その作品のカメラテスト中に別の映像が紛れていることに気づく。村井はその不気味な映像に何故か見覚えがあるのであった。それ以降、撮影現場では奇妙な現象が起こり始める。

 (Wikipediaより参照)

 最近の邦画ホラーでは、除霊シーンを迫力あるものにしたり、アクション要素を取り入れたりした派手な作品が目立つ。もちろん私もそれを面白いと感じるし、見応えがあって好きだ。ただ、この作品の魅力はじっとりとした静かな恐怖にある。その場所、土地に染みつく“何か”が引き起こす現象が、日本のホラーの特徴であると考えているので、その特徴がよく反映されているのがこの作品だと思う。Theジャパニーズホラー。虫の鳴き声すら響かないような静かな夜に、是非。

○『パラノーマル・アクティビティ』

同棲中のカップル、ミカとケイティーは夜な夜な怪奇音に悩まされていた。その正体を暴くべくミカは高性能ハンディーカメラを購入、昼間の生活風景や夜の寝室を撮影することにした。そこに記録されていたものとは…。

(Wikipediaより)

 制作費がメチャ安で話題になったこの作品。上で述べたように、静かな日本のホラーに対し、霊が暴れまくるのがアメリカンホラーだと考えている。この作品にもその傾向は表れていて、すごいオバケが元気。ビックリするのが苦手な人にはあまりお勧めしない。私は苦手なので、手で隠しつつ、ビクビクしながら鑑賞した。

 可視化されるとやはり恐怖感が増す。イメージだけじゃ済まないので、本より映画の方が納涼には向いているかもしれない。

** 3.ラジオ・朗読**

○『ラジオ漫画犬』

ラジオ漫画犬血道編49「怪談奇談を語りますの巻18」(ラジオページへと飛びます)

 漫画家・凸ノ高秀先生がメインパーソナリティをつとめているラジオ。その中の企画のひとつで、「怪談奇談回」というものがある。メールで募集したリスナーの体験談を読み、感想を語り合う回なのだが、その体験談のレベルが高い。怖すぎ。凸ノさんらの感想で緩和されるものの、怪談奇談自体の聞きごたえがあり、ゾッとする感覚を耳から味わえる。

○ごまだんごさんの朗読

ごまだんごの怪奇なチャンネル(YouTubeチャンネルへと飛びます)

語り口調が優しいので落ち着いた気持ちで聞ける、耳に優しいタイプの怪談朗読。ビックリもあまりない。しかし、その中身は怖いので油断ならない。

** 4.評論**

『怪異を語る:伝承と創作のあいだで』(京極夏彦,東雅夫,喜多崎親,常光徹,太田晋)

【内容】
民間伝承、文学、芸能、美術―あやかしを「語る」手法の発明、継承、変容。成城学園創立100周年成城大学文芸学部創設60周年記念シンポジウム報告書。
【目次】
百物語の歴史・形式・手法・可能性について(東雅夫)
怪談/ミステリーの語りについて―京極作品を中心に(太田晋)
民俗学というメソッドからみた怪異の語られ方(常光徹)
“出る”図像―絵画はいかに怪異を語るか(喜多崎親)
語り手の「視点」という問題―怪異と怪談の発生:能楽・民話・自然主義をめぐって(京極夏彦)

(紀伊國屋書店ウェブサイトより参照)

 民俗学研究者や、小説家など、その道のプロが“怪異”という、未だに定義のはっきりしないものについて語るという内容になっている。エンターテインメントとして消費されがちなホラーという文化に対して、丁寧に向かい合う専門家の先生方の姿勢が素晴らしい。ホラー作品で有名な小説家•京極夏彦先生が、「幽霊はいない」と明言しているのが印象的だ。なぜそう言えるのかについては、ぜひこの本を読んで、探ってもらいたい。理論で考えれば、ホラーはただ怖いだけのものではなくなるかもしれない。

 案外奥深いホラーというジャンル。是非、夏の暑さを回避しながら、ホラーという文化に親しみを持ってみてはどうだろうか。

正直、苦手な人は本当に苦手だと思うので、自分の好きな方法で納涼してくださいね。おやすみなさい。おばけなんてないさ!おばけなんて嘘さ!

#ホラー #カルチャー #大学生 #夏 #納涼


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