見出し画像

日本に必要なのはアメリカモデルからの脱却だと思う

2年間の留学ももうすぐ終わりが見えてきた。ニューヨークとカリフォルニア(サンフランシスコ対岸のアルバニー)の二つの都市に暮らして、また、サイエンス系の気候科学とロースクールで学んで見えてきたことがある。

留学の成果の一つはアメリカに対する幻想が消えたこと。なんでもアメリカが良いとか、何となく反感を持つというのではなく、フラットに日米を比べられるようになった。

まず、アメリカと比べた日本の良さは、安全で快適であること。サンフランシスコ、ニューヨークの両方の都市のメインストリートには、多くのホームレスがいた。中には明らかに薬が決まっているような人もいたし、自分は遭遇しなかったものの、銃の乱射事件や、アジア系を対象とする暴力事件も多く報道されている。住んでいた家族寮は良いところだったが、近くにはホームレスのテントが集積した場所があり、住宅地のゴミ捨て場には時折ホームレスがきて色々なものを漁っていた。

レストランのサービスをとっても、安くて、美味しいのは基本的に日本だと思う。これは、ストリートフードでも、ミシュランの星つきレストランでも、少なくとも自分の味の感覚としては日本の方が美味しいと感じた。(唯一、サンフランシスコのsaisonは別格の美味しさだったがかなり高かった。)

また、サービスのレベルを見ても、レストランに限らず、あらゆる場面で、
丁寧、かつ確実で安価なのは日本だと思う。レストランで早く注文を取りに来て、早くお支払いを受け取りに来てと思うことは日常茶飯事。加えて、配送に関しても家にいるのにベルも鳴らさずに荷物を持ち帰る、再配達の手続きを完了したのに届けに来ないとか、差別されているのではないかと思うような事態に遭遇することも日常茶飯事。

他方、アメリカの良さは何かというと、世界中からお金と才能が集まっていることだと思う。科学技術、芸術、ビジネスのいづれをとっても、トップクラスの才能を惹きつけ、成果を出しているのは紛れもないアメリカの強みだ。

ただ、これを可能としているのは英語が公用語であることや、元々移民を受け入れてきた社会でかつ、色々なものを受け入れるくらい広大な国土があることも大きいと思う。また、ビジネスに関連していうと、特にブロックチェーンの領域で米国は、イノベーションのジレンマ的な状況に陥っているようにも見受けられ、規制当局の行きすぎた動きの結果、開発拠点がシンガポール等に移ることは今後ありうる。

また、国としてのアメリカを見た時の弱点は、連邦制だと思う。連邦制は州が様々な規制を自由に制定でき、規制の競争市場があるという点では良いと思うけど、例えば、妊娠中絶を可能とする期間が宗教保守派が多い地域とそうでない地域で異なったり、また、連邦政府が石炭を多く産出する州に対して環境規制を及ぼす力がほとんどなかったりという点で不都合もある。アメリカは国土面積も広い(カリフォルニア州だけで日本より大きい!)ので、このような形でもある程度良いかとは思うが、日本でアメリカをモデルに道州制のようなものを導入してうまくいくのかというと、それは少し疑問がある。

日本の場合、中央政府が制定したあらゆる分野の法律が全国で適用できるけど、アメリカでは各州がそれぞれの州憲法と、州内の様々な分野に関する個別の州法を制定していたりする。また、各州には連邦裁判所と州裁判所がそれぞれあり、州法が問題になるものは州裁判所、連邦法や異なる州の住民間の争いが問題になるものは連邦裁判所と、管轄が明確に定められている。加えて、州裁判所の裁判官の評価を中央政府が行うということもない。

日本で道州制を導入する際、例えば道州に立法権をより大きく移譲するのであれば、それを審査する司法権も移譲しなければ完全な形での権限移行にはならないと思うけど、では、日本において、既存の高等裁判所とは別に州裁判所をつくりますか、また、様々な分野に適用される法律が既にある中で、道州の立法と既存の法のデマケをどうしますか、というのが問題になる。これを無視して、条例の制定権限を拡充したり、都道府県の境界を融合したりしても、規制の競争市場の創設という効果は限定的だと思う。

自分が思うに、日本の強みは、アメリカと比較して、中央政府が強い力を持っていること、格差が少ないため安全で、かつ、サービスレベルが高いところだと思う。他方、国の債務が非常に大きいこと、少子高齢化が極端に進行していることは明らかな弱点だと思う。また、残念ながら安全保障環境も良好とは言い難い。

日本の進路としては、アメリカをモデルにして規制緩和を進め、移民を受け入れ、道州制等を参考に地方政府への権限移譲を進め、というのもあると思うけど、おそらく、英語を公用語化したりしない限りこの方向性には限界があると思う。また、その先にではアメリカに勝てるのか、日本の格差の少なさをはじめとする良さが失われるのではないかという疑問がある。

もう一つの方向性としては、少子高齢化になんとかして対策を行い、食料自給率やエネルギー自給率を高め、国の自律性を高めていくことだと思う。個人的には、アメリカ以上にモデルとするべきはフランスではないかと考えており、機会があれば、OECD等でも勤務してみたい。

最後に、国際環境法に関して言えば、パリ協定の実効性を高めるために、
有志連合で義務違反国に対して関税を課してはどうかという議論がある。現在、欧州連合で行っているタクソノミーの議論に日本も積極的に参加し、G7のレベルでパリ協定違反国に対して関税措置を課せるようにするというのは、日本外交の一つの方向性であるようにも思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?