牛乳の消費量を増やしたインサイト事例「got milk?」
カリフォルニア牛乳協会の「ミルクある?」キャンペーン
インサイトについての事例を自分のメモもかねてまとめていきたいと思います。有名な事例の「got milk?」について。
1990年代にアメリカで牛乳消費量が減少し、カリフォルニア牛乳協会がそれを食い止めようとした話です。
協会はミルクの態度、購買・消費行動については、長期的に調査を行っていました。その調査で、人々がミルクを飲まなくなった三つの主な理由が指摘されていたのです。
①消費者は脂肪分を気にしている。ミルクは健康に良くないんじゃないか という声がいくつかあがっていた。
②「子供の飲み物」とみなされる。体に良いから飲めと親に言われた経験 がある。実際、思春期を迎える時期から急速に減るデータが出ていた。
③他の飲み物、コークやペプシ、ソーダ類と比べたときに「ミルクはパッ としない」と思っている。
そのためミルクにはイメージに問題があると結論づけられていました。この問題を是正するために何年もの間、いくつもの広告キャンペーンが繰り広げられ、人々の懸念や誤解を解こうとしたのです。ミルクが「身体に良い」ことを健康的な人物が明るい音楽で伝えるような広告を展開しました。
調査によると、この広告はミルクに対する態度を変えるという点では成功しました。ミルクを飲むべきだと思うという意見が82年に40%だったのが、92年に52%に上昇したのです。
しかし、ミルクのイメージが改善されても売上は下がったのです。この結果わかったのは、イメージは何の意味ももたないということです。
後がない状態になり、広告会社のGS&Pを呼び、新たな施策を行うことに。
広告会社は、カリフォルニア人の70%がミルクをよく飲み、30%がそうでないと答えた調査結果があることから、それまでの広告は飲んでいない30%に向けられていたと考えました。あることをしていない人にそれをさせることは難しいため、既に行っている行動を強化することが短期的にみると必要だと方向を転換しました。
そうなると、消費者はミルクをどういうふうに飲んでいるのかという疑問が広告会社では起こりました。ある協会の担当者が、シリアル、コーヒーなど、ミルクは「何かと飲んでいる」という仮説を持っていたので、この仮説を検証するために調査を行いました。
そしてこの調査から、ミルクだけを飲むことはなく、シリアル、菓子パン、クッキー、ピーナッツバターのサンドイッチなどと一緒に飲まれていることが分かりました。
そこから、食べ物とミルクの関係をグループインタビューしました。ミルクの写真を見せて最初に頭に浮かぶものを答えてもらったのです。出てくる言葉はそんなにあがらなく、何を考えたらいいか思い浮かぶものがありませんでした。
それとは別のグループにはクッキーやサンドイッチなどを見せたところ、食べ物に刺激されてコップ一杯のミルクを思い浮かべたのです。「お腹すいた」「コップ一杯のミルクがあれば最高」など。
食べ物のほうがミルクよりも興味を引き、感情に訴えたのです。ですが、ミルクが重要なお供であることに変わりはない。このようにミルクと食べ物は相互依存の関係にあることが分かったのです。それは「〇〇とミルク」であって「ミルクと〇〇」ではありません。ミルクはそれだけで飲みたいとは思わない。人がミルクを意識するのは、何かものを食べる時だけだった。ミルクは食べ物の補完物であり、今までの広告で描かれていたように主役ではないのです。
そこから、食べ物を、ミルクを欲しがらせるために広告に使えるのではないかと考えました。シリアル以外の食べ物は牛乳の広告に何年も出ていませんでした。それらが健康に悪いと考えたからです。しかしそれが多くの人にとって唯一ミルクを飲む理由なのであれば使わないわけにはいきません。
以上の発見から、「組み合わせる食べ物はあるけれどミルクがない」というメッセージを中心としたコミュニケーションをとることにしました。「あおずけ戦略」です。食べ物に対する欲望が喚起され、次にミルクにもそれが向けられる。ミルクが無くて、結果的に食べ物もそのひとときも台無しというのが、ひねりの効いたところです。
タグラインを「ミルクある?(got milk?)」
このキャンペーンは大きな成果をあげました。テレビCMは下記ですが、どのようなクリエイティブ、メディアで展開されたかは、ぜひ出典先の書籍をご覧ください。他にもインサイトの事例が載っています。
https://www.youtube.com/watch?v=OLSsswr6z9Y
出典:『アカウント・プランニングが広告を変える』(ダイヤモンド社)ジョン・スティール、2000年
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