ヤア! ヤア! ヤア! ファッションで会話しよう!!
伊澤 沙里(いざわ さりー)
93年東京生まれ。15年東京造形大学・造形学部・テキスタイルデザイン専攻を卒業後、染物屋で職人として働いている。休日はzineをつくり、お正月が近付くとお正月飾り屋としても活動する。小学生のときからの友だちで、映画や銭湯へいっしょにいく人。
ディグることが人生
加藤(以下、か): サリーとは小学生のときからの友だちで、中学生から大学生まではあんまり会わなかったけど、働きはじめてから電車でばったり会うことが多くなったよね。
サリー(以下、サ):ね! 一時期は2日に1回小田急線で会った(笑)(笑)(笑)
か:正直、中学生から大学生までのサリーのことはあまり知らないから、今日はいろいろ質問させてください。
サ:はい!どうぞよろしく!
か:サリーは今、染物屋で職人として働きながら、休日はzineつくったり、ワークショップをしたりしているよね。「つくる」が身近な生活というか。サリーの「つくる」生活について話を聞いてみたいなと思って。一番はじめにつくったものから教えてほしいです。
サ:小さいときからつくるのは好きで、保育園のときにはスーパーのビニール袋でワンピースと帽子のようなものをつくってたかな。で、小学生のときは友だちの誕生日にやたらと凝ったカードをつくってた。
か:サリーのつくるカードは色づかいがどことなくアメリカンで、幼心に「これがお洒落なものだ」って思ってたな(笑)
サ:(笑) でも、「つくることが好き」というよりは、いつも「新しいもの」「おしゃれなもの」「憧れるもの」を見たかったんだよね。どちらかというと、人生の中ではそういう自分をドキドキさせてくれるものをディグる時間の方が多かったかな。
か:ディグる……。
サ:特に中学生のときはクラス生活があまり楽しいものではなくて、だいたい放課後には家に帰ってラジオ聞いたり、インターネットで見知らぬ人とチャットしたり、ブログ書いていたりしたのね。そうやってインターネットサーフィンをしているうちに、私の中でグッとくるファッションや音楽と出会っていったんだよね。
か:なるほど。サリーの好きなものやつくるものには、様式があるなあと思っていて。今まで一つずつ深く愛でてきたものが、その様式をつくっているんだね。
サ:そうだね。ほとんど中学生のときのディグの成果。中学時代は、とにかくアヴリル・ラヴィーンが好きで、彼女のいるアメリカの音楽ってどんなものがあるのだろう? ポップ・パンクってどんな音楽なんだろう? とか。好きなものを見つけては調べ、見つけてはブログに書いていたかな。人生の中で一番自分に集中していたかも!
か:自分に集中するかあ……いい時間だね!
サ:もはや高校と大学は中学時代のディグを放出する場と言えるくらいだったかも。
か:大学でテキスタイルを専攻しようと思ったのは、何かきっかけがあったの?
サ:最初はアートディレクターになりたいと思ってたんだよね。木村カエラのCDのジャケットがめちゃくちゃかわいいと思って、清川あさみさんに憧れて。でも、結局自分が好きだったのはファッションで、ファッションにダイレクトに関われる仕事を考えていたのね。
か:でも服飾には行かなかったんだね。
サ:うん。なんてったって細かいことが気にならないから(笑) ソーイングとかパターンメイキングとか、細部にこだわることにめっきり興味がなかった。意匠しか興味がなかったの。今の仕事も染物屋だけど、つくるもののほとんどが舞台衣装なのね。舞台衣装は機能性や着心地よりも意匠が大切で、私に合ってるなって思うよ。で、話を戻すと進路を考えているころにELEY KISHIMOTOのテキスタイルに出会って、ビビッときたの。これだ!私がやるのは!って。
サ:ぜひコレクションを見てほしいんだけど、遊びごころがあるのがいいんだよねえ。色づかいも絶妙なバランスで、色ってこんなに楽しいんだって思った。ただかわいいだけじゃなくて、新しかった。ファッションだったの。
か:新しいかあ……。
サ:私にとって「新しい」という概念がすごく大事で。昔から何か人と違うことをしたいとか、見たこともないものを見てみたいっていう気持ちが強かった。布一枚でこんなにおもしろいことができるんだと思って、それで大学ではテキスタイルを専攻したんだ。
「つくる」こととの関わり方
か:サリーの展示には何回かお邪魔させてもらったね。大学時代はけっこう課外での活動や展示が多かったように思えるけど。
サ:個人では、WRAPPLE渋谷店(ラッピングショップ。2019年12月渋谷店は閉店したが、福岡は営業中)でワークショップをやったり、大森のアトリエDOROTHY VACANCEで展示をやったりしてたね。あとはユニットを組んで制作したりもしたかな。大学のなかでも課外活動が多いタイプだったと思う。おかげで大学2年生のときは100人くらいの人に会ってたし。
か:大学時代を通して、創作に変化はあった?
サ:それで言うと、大学1年生くらいのときはつくりたいものが無限に出てきたのね。全ては中学生のときのディグの成果だけど、過去のストックだけで作品がつくれた。しかも、「ピンクと緑しか使わない!」とか「幾何学がいいんだ!」みたいなこだわりが強くてたいへんだった(笑) でも、その頃につくったテキスタイルって中身がなくてね。
か:中身がない……。
サ:今思うと驚いちゃうんだけど、大学生のときは作品のコンセプトも何もなくて、「ただ気持ちいいからつくりました」みたいなことを堂々と言ってたんだよね。
か:たしかにサリーは強烈な様式が先にあるから、そうなるかも…。
サ:でもあっという間に底が尽きてね。大学2年生くらいからだんだんアイデアがなくなっていって、つくりたいものがわからなくなった。北欧っぽいかわいい柄とか、幾何学から離れてた形とか、迷って試していたんだよね。まあ、そういう時間は大切だったんだけど!
か:結局、「中身」には出会えたの?
サ:長い時間かかってしまったんだけど、卒業制作のなかでやっと「中身」がつかめたと思う。
か:表参道のスパイラルでやっていた展示だよね。大きなバックをつくってた。
サ:そうそう。卒業制作のときに「傾く(かぶく)」っていう言葉に出会って。これが私のやりたいことを言っている言葉だ!と思ったんだよね。一回、辞書で調べてみてほしいんだけど。
傾く(かぶく)……かぶくの「かぶ」は「頭」の古称と言われ、本来の意味は「頭を傾ける」であったが、そのような行動という意味から「常識外れ」や「異様な風体」を表すようになった。さらに転じて、風体や行動が華美であることや、色めいた振る舞いなどをさすようになり、そのような身なり振る舞いをする者を「かぶき者」といい、時代の美意識を示す俗語となった。
サ:昔から私の中でヤンキーカルチャーも、デコトラも、七夕祭りの飾りも、なにもかも同じものだという認識があったんだよね。斬新で派手で、人生に必ずしも必要ではないけれど、生き生きとしているもの。今考えると大学生だからそう言えたのかと思うけど、そのときの自分にとっては「傾くこと=人生!!!」くらいに思ってた(笑)
か:追い詰められると形になるものってあるよね。
サ:まさに。
か:インタビューの冒頭の話に戻るけど、社会人になってからの創作について聞いてもいい?
サ:うん。実は働きだしてからはあまり創作がうまくいかなくて。「もうつくるのは一切辞める!」って宣言してたこともあったんだよね。
か:え、あ、そうだったの!?
サ:働いてみたら思っていた以上に時間がなくて、展示もやろうと思ったけど途中で挫折した。前提として、私は「アーティストとして売れなきゃいけない」っていう意識があって、それなのに自分よりも力のある同年代の人が台頭していくのを見ているのがキツかったんだよね。その頃は友だちが展示をやると連絡をくれても行く気になれなくて、もう創作をする友だちとは距離を置こうと思ってたくらい。
か:わ、全然知らなかった。サリーのなかで「つくる」は強固なアイデンティティだったんだね。今は「つくる」との関係性がそのときと違っているようだけど。
サ:「脱・創作宣言」をしてから少し経ったころに、ユニットを組んでた友だちから友人の結婚式のウェルカムボードをつくろうって連絡をもらったり、他の友だちからもワークショップをいっしょにやらないかと誘ってもらったりしたんだよね。自分が創作から離れたときに、連れ戻してくれる人がいて本当によかった……。感謝しないといけないよね。連絡をくれた友だちとアイデアを練ったり、手順を相談するのが楽しかった。
か:うん、うん。
サ:誰かといっしょにつくるときって、なんであんなに楽しんだろうね。普通におしゃべりをしたり、ごはんを食べたりするよりも、その人と「いる」気持ちになる。
か:感性で会話ができるからかもね。
サ:感性で会話をするかあ……。そうだね、そうかもしれない。今までは自分の好きを追求したものの表現として「つくる」があったと思うんだよね。でも、一度表現としての「つくる」から離れたときに、創作っていうのは人と並行して生きるためのいい方法なのかもって別の見方で捉えられるようになった。創作との関わり方を自由に変えられるようになったの。
か:それはすごくいいことだね。好きなことをずっと好きでい続けるために、捉え方を変えるって大切な技だと思う。
サ:今がすごくいい状態だと思う。
か:そっかあ。じゃあ、これからは何をしたい?何をつくりたい?
サ:ん~~~突拍子もないことかもしれないけど、海外で暮らそうかなと!
か:え?!
サ:昔から海外で暮らしてみたいなと思っていて、直感なんだけど今年がいいなって思ったんだよね。生活できるかわからないけど、とりあえず行ってみようかなと。見たこともないものを見たいし、出会っていない人と出会いたいし(笑)
か:サリーは、自分をワクワクさせるのが上手いね(笑)サリーと映画に行けなくなるのはさみしいけど、楽しんで行ってきてね。今日は長い時間ありがとう!サリーから教えてもらった言葉だけど、「どんどん距離が離れていって、もっと心が近くなる」といいな!
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