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関心と知識のインデックスとしての本棚

私はともかく本が好きなのですが、「今読んでいる本をみると、自分の心理状態や置かれた状況がわかる」という意味で本を大切にしています。

本棚をざっとみてある本に目に留まるとか、無意識にある本を持ち歩いているとか。そういうとき、きまって何か自分の中に言語化できないものを抱えていることが多いです。まずは2つほど例をあげてみます。


仕事で悩んでいるときのシグナル

たとえば、目の前の仕事や職場環境が辛くなってきたとき。こんなときは、おおよそ以下のような経過をたどります。

  1. 問題解決に繋がる本を読む。

  2. 自分を元気にする本を読む。

  3. 疲れて古典に逃げ込む。

  4. キャリアや生き方の本を持ち歩くようになる。

問題解決本を読むときは分かりやすい状況で、まさに対処療法を求めているわけですね。これで解決できればOK。仕事と読書の関係は大体ここまでです。これで解決できないとなると、もっと奥深い何かが潜んでいる可能性があるわけですが、それが何か自分で気づいていないことが多いのも事実です。

それで、その後の歩みとしては、まずは元気になろうと自分を励ます本を読んで頑張ってみるものの、疲れてきて癒し系の本に逃げ込むようになります。癒しというか悟りというか。目安としては、論語や老子を読んでいるときはまだ元気なのですが、そのうち荘子や菜根譚に手を出しはじめます。

そして、セネカの「人生の短さについて」やブリッジズの「トランジション」とかにたどり着くと、いよいよ今の環境から旅立つときがきたと察するわけです。最近だと2021年10月にトランジションについてのnoteを書いていました。まさにこの年の夏に自分自身で「このキャリアはもう終わりかも」と思わせる事案が起きたのでした。

スティーブ・ジョブズは次のようにおっしゃっていますが、私の場合は「トランジションを読み始めたら悩みに気づけ」というコードがあるわけです。もっと早い段階で気づけそうなものですが、そう簡単でもありません。

その日を境に33年間、私は毎朝、鏡に映る自分に問いかけるようにしているのです。「もし今日が最後の日だとしても、今からやろうとしていたことをするだろうか」と。「違う」という答えが何日も続くようなら、ちょっと生き方を見直せということです。

出典: 「ハングリーであれ。愚か者であれ」 ジョブズ氏スピーチ全訳(日経新聞社)

やりたいことを無意識に先取り

先ほどの例はネガティブな気づきでしたが、ここからはほのかに前向きな話です。

本当はやりたいけど手を出せていない、何なら夢物語だよねと思っているような願望があったとします。新しい仕事をやりたいとか独立したいとか。興味があってやりたい感じはするけど、現状から抜け出せないとき。

そんなときは「試しに本でも読んでみるか。数千円で済むし」と気楽に本を買うようにしています。もし実現しなかったとしても、想像と違ってもサンクコストとして割り切れると思いつつ。こうしてリスの冬支度のようにどんどん仕入れてしまい、慢性的な本棚不足を引き起こしているわけです。

この冬支度の大半は活用されないまま処分されてしまうのですが、年単位で生き残る本も出てきます。その本にこそ自分の本音が潜んでいて、自分が密かにやりたいことが表現されている場合が多いです。まさに無意識的な選択ではないでしょうか。

さらに不思議なことに、そうして抱えているいるうちに突然チャンスがやってくるのです。それは直に「武田さん、やってみる?」と依頼が来ることもあれば、仕事の余白に差し込むアイデアとして自分から手を挙げる場合もありました。少し例をあげてみると……

  • SE時代に研究職にあこがれていて学術書をたまに読んでいたら、自分に合いそうな社内募集の案内を見つけて応募した。

  • ミドルマネジメントに興味がありマネジャーになる前にマネジメントの本をちょくちょく読んでいたら、その1年後に昇進した。

  • 研修講師をやってみたいと思い講師本を何冊か積読していたら、社内講師を探していると聞いて提案し、講師デビューを果たした。

  • リーンスタートアップをやりたいと思い、誰にも頼まれないのに関連本を山ほど買って読んでいたら社内でひとりで新規ビジネスをやることになり、好き勝手リーンにやってみた。

改めて振り返ってみると結構ありました。結果として、本の選択がやりたいことを先取りしていたようにも感じます。

関心と知識のインデックス

このように、私にとって本は自分の心理状態を映す鏡でもあるわけです。そのためにいつでも鏡を取り出せるように本棚が必要なのです。

自室の本棚に並んでいる本の7割は技術書とビジネス書で、仕事に必要な本がストックされています。仕事と趣味の境界線が何となく曖昧で、かつ知りたがりなのでどんどん本が増えてしまいます。まさに趣味。

残り3割は仕事にはあまり直接関係なさそうな本が並んでいて、恭しく積読されている本と何度も読み返した跡がある本が混ざっています。中国古典、西洋哲学、経済、歴史本、地政学などの本に加え、先ほどの例にあったように「やりたいことを先取りした本」も並びます。

こんな感じで雑多なジャンルの本を集めていると、家族や友人から幾度となく「ねぇ、そんなにいろんな本を読んで何になりたいの?」と突っ込みを受けてきました。

この問いに対しては、本棚は自分の関心と知識のインデックスなんだよ、と答えたいと思います。若いうちは知識の方が重要でしたが、中年を迎えた今は関心の方が大切なような気がしています。

最後に、noteへ投稿してきた本に関する記事を紹介します。
インデックスの一部ということで。


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