「指導と評価の一体化」3観点での評価の留意点―「評価病」 にかからぬために! ―
神奈川大学外国語学部英語英文学科です。学科の先生によるコラムマガジン「Professors’ Showcase」。今回は、英語教育学がご専門の髙橋一幸先生による「「指導と評価の一体化」3観点での評価の留意点―「評価病」 にかからぬために! ―」です!
1.異なる観点の評価には、異なる見取りの規準を
国立教育政策研究所「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料-中学校・外国語」(2020:42)では、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の新3観点での評価規準として、「思考・判断・表現」と「主体的に学習に取り組む態度」の評価規準を、次のように表記するように例示しています。
新教育課程の実施直前に「指導と評価の一体化」を進める指針として出されたこの手引書は、「思・判・表」と「主体的態度」に異なる評価を付けた教員が管理職から訂正を求められるなど、現在、小中学校現場で大きな混乱を引き起こしているようです。
私自身の考えとしては、【思考・判断・表現】と【主体的に学習に取り組む態度】の評価規準の文末の表現を「~している」から「~しようとしている」に単純に置き換えるだけでよいのか? 習慣形成理論に基づくPattern Practiceのsubstitution drillではあるまいし、このような機械的な表現の置き換えでは、多くの教師が「何も考えずに2つの評価規準を形式的、機械的にcopy & paste」し、「異なる観点にこれまた機械的に同じ評価を与える」ようなことになれば,そもそも「別な観点」を設定して評価することの意味は失われます。「形式的なことば遊び」では実際の評価の際に役には立たず、指導案のスペースの無駄使い(=単なる埋め草)に過ぎません。そういう「コピペ」のような形だけ取り繕った指導案が、今から目に浮かんでしまいます。主体的な学習者を育てるには、まず教師自身が自律的でなくてはなりません。
これら3つの観点そのものが元から互いにオーバーラップしているため、本質的に切り分けが難しいのですが、【主体的に学習に取り組む態度】としては、例えば、上の「話すこと[やり取り]」の言語活動であれば、
など、「学習や活動への生徒の取り組みの観点から、教師として見取るべき “生徒の望ましい姿” を具体的に記述する」ことが求められます。でないと評価には役立ちません。(髙橋2021:25-26)
2.評価規準を教師が自律的に検討すれば、授業が変わる!
次に示すのは、都道府県リーダー教員(髙橋ゼミ卒業生)の全県代表研究授業指導案の修正事例です。ゼミの卒業生で優れた授業実践を地域でも認められる研究熱心な先生だけに、1で紹介した国研の「指導と評価の一体化」の資料も熟読し、「思・判・表」と「主体的態度」の評価規準については、それに忠実に従っていることが分かります。
【事例 1】 群馬県 (中1)
単元目標: 過去形を正しく使用しながら、小学校でお世話になったALTに向けて、中学校の様子とこの一年の自分の成長が伝えられるような手紙を書くことができる。
評価規準「書くこと」:
▶ 生徒への目標設定や指示が明確になり、見取りの視点が定まる。
【事例 2】 山形県 (中3)
単元目標: 海洋プラスチックゴミ問題について知り、考える。
評価規準「話すこと(やり取り)」:
▶ 教科書本文のはるか彼方の “Great Pacific Garbage Patch” (太平洋ゴミベルト) の話題から、生徒にこの問題を自分に引き寄せて、自分事として考えさせるために、より身近な話題へと授業内容が変わる。
▶ 授業で先生が提示した写真
「思考・判断・表現」を促すには、oral introductionを通じて、生徒の「情動」を揺さぶり、題材を生徒の身近に引き寄せて「自分事」として考えさせることが必要です。
3.まとめ
1)「指導あっての評価」
評価のための指導にあらず(✕「評価先にありき」では本末転倒!)
・2002年 観点別評価導入当初の中学校での「真面目だが、おかしな実践」の事例
① 毎時間、「積極的態度」「言語や文化についての知識理解」を示した生徒への赤と青のカード配布とその評点化
② 毎時間、「授業中の挙手の回数」を生徒に記録させ、授業終了時に確認
➔ コミュニケーション能力と学習への主体的・積極的態度を育成するために、教師が/学習者が、授業中に行うべきことは何なのだろう?
2)「指導」→「評価」「評価」→「指導」の一体化
3)「3観点」で何を評価するのか?
①「知識・技能」(Language) → 正確さ(accuracy)
授業は「遊び」ではない。いかに児童生徒が意欲的に楽しそうに活動に取り組んでいても、間違いだらけの英語で通じなければ、コミュニケーションとして成立せず、「変容」も生じない。
・相手に通じる正しい英語(語彙・表現・文構造・文法)、通じる発音が目標
②「思考・判断・表現」→ 伝達内容の質と量
(Content) (Quality & quantity of the message)
①をクリアしていても、内容がお粗末なら聞く/読むに値しない。発音や表現に少々間違いがあっても、魅力的な内容なら聞き手(読み手)は敬意と関心を持って聞いて(読んで)くれる。
・豊かで魅力的な伝達内容 ・児童生徒の個性・創造性に満ちた内容
③ 主体的に学習に取り組む態度(Preparation-Performance-Reflection)
本番の発表が下手だと①,②もブチ壊しで、頑張った取り組みも水の泡!
・聞き手を意識した、内容を伝えるための工夫や努力
(声量、視線や表情、写真や資料等visual aidsの提示と効果的活用など)
自ら学ぶ学習者を育てるには、指導する教師自身が自律的でなくてはなりません。お上(かみ)からの「上意下達」ではない「自律的な思考・判断」とそれに基づく行動が教員にこそ求められます。
<参考・引用文献>
髙橋一幸(2021)『改訂版・授業づくりと改善の視点―小と高をつなぐ新時代の中学校英語教育』教育出版
国立教育研究所(2020)「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料-小学校・外国語」
_____________________ 「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料-中学校・外国語」
https://www.nier.go.jp/kaihatsu/shidousiryou.html
※本拙稿は、2023年度・髙橋ゼミ誌『英語教師入門・第25号』(2024年1月27日発行) の「巻頭コラム」に掲載したものです。
記 高橋一幸
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