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ちょっとだけよくわかる著作権講座【1】(放送やら配信やら)

音楽の権利の話しです。
最近、知り合いの作家やミュージシャンから相談されたり、話をしていて話題になることと、今仕事で携わっていることが、割と関係していることだったりするので、少しまとめて書いてみようと思います。

音楽には大まかに言って3つの権利があります。

①著作権
 ・・・その曲を作詞作曲した作家の人に与えられる権利

②著作隣接権(レコード製作者)
 ・・・その音楽を誰かに演奏させて音源として録音した、その音源の持ち主(平たく言うとその録音=制作にお金を出した人)に与えられる権利。

③著作隣接権(実演家)
 ・・・②で録音された音源の演奏・歌唱をしている人に与えられる権利。

今回お話しするのは、このうち「①の著作権」についてです。

時々、知り合いから
●作品が出来上がった・・・配信をしたい。何かすることはあるのでしょうか?とか、
●CDが出来上がった・・・発売したい、何かすることはあるのでしょうか?
・・・とか、相談されるのですが、だいたい
「自分が作詞作曲をした場合、悪い事は言いませんので、自分の楽曲を守りたい場合は、とりあえずJASRACかNexToneに著作権を預けることをお勧めします。」と答えます。

しかし、それらの団体に楽曲を預けるのは「楽曲を守る」以外にも理由があるのです。

それは、宣伝してもらう事を考えた場合、JASRACかNexToneに預けられていない楽曲は、放送局にとって「怖くて放送で使えない」楽曲として敬遠される・・・という事態になってしまうのです。

大きい放送局(特にテレビ)では、番組を作る(どの楽曲を番組で使うか?を決める)人とは別に、著作権報告担当の部署や人がいて、そこから番組制作側に「JASRACかNexToneに管理されていない楽曲は使うな」という指令が制作現場に出ていると言うのが現状です。

■■そもそも楽曲は、レコード会社のものでも歌手のものでもなく、作った作家(著作者=著作権者)のもの。著作者は自分の楽曲を、どのメディアでどんな風に使われるのか?に対し、全てコントロールする権利があります。
つまり、ラジオで使うの?テレビでは使うの?どんな番組?どんな風に?いくらで?・・・などは全て著作権者のOKが必要で、黙って放送で使用するのは「法律違反」。なので、もし自分の知らないところで自分の大事な楽曲を放送で使用された場合。著作権者はその相手に、好きなだけ使用料を請求する権利があります。「1億円払え」と言いたいなら、そう言ってもいいのです・・・払うかどうかは別にして。

しかしそれでは、放送局は放送で音楽を使用するためにいちいち作家に連絡して「この番組でこんな風に使用したいので、使用料は●●円でいいでしょうか?」と確認していかねばならず、もう面倒くさすぎて音楽も使われなくなります。連絡が付かない場合もあるでしょう。作家も、そんなことで面倒くさがられて音楽が番組で使われなければ商売になりません。また、売れっ子の作詞・作曲家なら、いちいちそんな問い合わせで一日中追われるのも困ります。

そこで、JASRACやNexToneがあるのです。
著作権者がJASRACやNexToneに楽曲を預けると、彼らは放送局に対して、
「基本的に我々に預けられてる楽曲であれば、著作権者に変わって使用許諾を出すので、放送でどれでも、好きなように使っていいですよ(これを「集中管理」と言います)」
「しかも、楽曲を使うたびにお金を払うのは面倒くさいでしょ?だったら1年間でまとめて●●万円を払ってくれれば、それでオールOKで使い放題です。」
という契約を各放送局と交わします(これを「包括契約」と言います)。
「ただ、そのもらったお金をちゃんと分けるために、どの楽曲を、どこで、どれくらい使ったか?を全部教えてね」
という報告が義務付けられます(これを「全曲報告」と言います)。
これにより放送局は、毎年JASRACやNexToneと話し合いで決められた金額を、最初にドンと払っておけば、あとは追加料金なく気兼ねなく安心して楽曲をガンガンと使用するだけなのです。

しかし一方で、JASRACやNexToneに預けられていない楽曲を使う場合はそうはいきません。
相変わらず著作者に「●●という放送局です。●●と言う番組であなたの楽曲をオンエアしたいのです」「使用料はいくらがいいでしょうか?」と許可をもらってOKを取らねばなりません。
また、黙って使ったことが著作者にバレると
「あんたワシの知らんところで、勝手にワシの楽曲をコソコソと流しとったらしいな」
「使用料は1曲●●万円するねんけど、ちゃんと払ってくれますよなぁ?」
と後出しジャンケンで好きな値段を言いたい放題となるわけです。
もちろん「お金は要りませんからどんどん放送で使ってください」と言う場合だってあります。例えば特に作家やアーティストが、その放送局と仲がいいとか、いつも応援してくれてるとか、その放送局や番組のために曲を書いたとか、「タダでいいのでオンエアしてください」と頼んだ場合は、そんなモメるようなことがないのがわかっているので楽曲を流してくれます。
しかし、そうではない場合、放送局にとっては予めどうなるかがわからないわけですから、著作権報告担当はJASRACやNexToneに預けられていない楽曲を使う事は「そんなややこしい楽曲は使わんでくれ!」と怖がられるわけです。
また、放送局側は、もうJASRACやNexToneに包括契約でお金を払っているのでそれ以上はお金を払いたくないわけで、だったらもうその両団体の管理してる楽曲だけ使用してくれ・・・となるわけです。

これは著作権のうち、放送された場合に著作権者に発生する権利・・・支分権のうち「放送権」の話でした。

■■一方、楽曲を録音しCDに収録する時、そのCDを製造・販売する人は、楽曲を録音しCDに収録する・・・と言うことに対し、JASRACやNexToneに楽曲使用料を払わねばなりません。
これは著作権の支分権のうち「録音権」の話です。
JASRACやNexToneに楽曲の著作権を預けた場合、自分が作詞作曲した楽曲であっても、CDを作るときには、彼らに使用(収録)する楽曲数やCDの製造数に応じて、お金を払わねばなりません。だいたい定価の6%が著作権料だと思ってください。
大きなレコード会社だとそれくらいのお金を払うのは問題ないのですが、小さいレコード会社だったり自分で自費製造して販売する場合、6%(=例えば3000円だと180円)の出費は結構大きいわけです。それがイヤで、JASRACやNexToneに権利を預けない・・・という例が結構あるのですが、そのおかげで、上記のように放送の現場では「使いにくい楽曲」になる・・・という本末転倒の結果になったりする場合があります。

この場合はどうすればいいか?というと、JASRACやNexToneに
「放送権は管理をお願いしますけど、録音権は遠慮しておきます」
と言う頼み方をすればいいのです。著作権の管理は、支分権ごとに頼むことが出来るのです(やってくれる音楽出版社、ご紹介します)。

ただし録音権を預けないなら、誰かが自分の曲をカバーして録音してCDにして売ってることがわかったら、その著作権使用料を自分でブン取りに行かねばなりません。JASRACやNexToneに預けていれば彼らが全部やってくれますが・・・。

■■自分の楽曲が配信される場合は、CDとは少し違います。
レコードやカセットやCDの著作権使用料は、上述の通り、製造する人(レコード会社)が払うのがルールですが、配信は配信業者(iTune=apple、youtube=google、レコチョク、spotifyなど)がダウンロード数やサブスクで聴かれた数に応じてJASRACやNexToneへ、配信にかかる著作権使用料を払います。これはおかしな話でCDに置き替えると、タワレコやHMVがCDを売った数に応じて著作権使用料を払うようなものですが、何でレコード会社ではなく配信業者が払うようになったのか?は長い話になるのでここでは割愛します。
つまり小さいレコード会社や自分で音源を作って配信してもらう場合でも、CDと違い自分で使用料を払う必要がないので、配信から発生する著作権・・・支分権でいう「公衆送信権」(インタラクティブ配信)は、是非JASRACやNexToneに預けて、配信業者からしっかりと徴収してもらういましょう。

興味深いのは、配信業者はJASRACやNexToneに預けていない楽曲であれば、配信事業者はユーザーから著作権使用料を取る必要がないのに、その分のお金はしっかりユーザーから取ってポッポナイナイ(自分のところの懐に入れる)するだけです。
例えばクラシック音楽などは著作権を払う必要のないので、配信業者にとっては約6%ほど値下げをしてもいいはずなのですが実際はそうはなっておらず、配信業者にとっては単に「利益率の高い配信商品」となるだけです。JASRACやNexToneに預けなければ、ただ配信業者を儲けさせるだけです。すでに彼らは充分儲かっており、それ以上に儲けさせる必要など全くありません。

配信をする前に、必ず配信の権利をJASRACやNexToneに預けましょうね。

・・・ということで今日はこのくらいにしときます。

この続きは、2回目として、
「レコード製作者」の著作隣接権と、放送で使われた時の使用料について書いてみたいと思います。

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