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とにかく温かかった「僕らの食卓」

僕らの食卓

くだらのドラマノート

【あらすじ】
僕の毎日に何か新しいものが
入り込んできたー
家族と疎遠で、人と食事をするのが
苦手な会社員の豊は、ある日公園で
年の離れた兄弟・穣と種に出会い、
なぜか「おにぎりの作り方」を
教えることになる。
それ以来、一緒に食卓を囲み、
食事をすることが増えた豊たち。
やがて、家族のような存在となり、
豊と穣の距離も次第に縮まっていく。
食事を通し、人の繋がりを描く
ハートフルドラマ。

ホームページ参考

このドラマを何かに例えるとしたら
心が疲れ切った日に飲むお味噌汁。
一口飲んだだけで心に染みて、
何でか分からないけど、温かさに
無性に泣きたくなる、そんな作品。

その温かさはどこからくるのか、
自分なりにまとめてみようと思う。


【描くのはあくまで人の繋がり】

この作品は、ジャンル分けするなら
BL作品に分類される。

以前もチラッとまとめたが、
ここ数年、BLドラマは1クールに
2本くらいのペースで放送され、
ボーイズグループのメンバーなどを
主演に起用するなど、まさに
「若手俳優の登竜門」化している。

あくまで個人的意見にはなるが、
BLドラマは塩梅が難しいと思う。
いわゆる腐女子向けに制作すれば
ドラマ好きの視聴者は離脱する。
かといって、ドラマ好きな
視聴者向けに制作すれば、
他作品との差別化ができない。
人気ボーイズグループのメンバーを
起用しても、ファンが喜ぶでしょと
ただ露出を多くする演出は、
考えが透けて見えるようで、
どの方面のファンからも嫌われる。

そんな難しいジャンルで生まれた
じゃあどうしたら良いんだ!という
疑問の最適解をたたき出したのが、
この作品だと思う。

「僕らの食卓」はBLドラマ要素を
押し出してくることが一切ない。
全編通して描かれるのは、
あくまで人と人との繋がりで、
お互いの人柄に惹かれる2人。

犬飼貴丈さん演じる豊は、
養子として引き取られた家庭での
記憶から、人と食卓を囲むことに
コンプレックスを持っている。
飯島寛騎くん演じる穣は、
母を亡くした寂しさを抱えながら
幼い弟のために大学を休学して
家のことを優先させている。

2人とも毎日の生活をそこまで
苦に感じているわけではないけれど
心の奥底にある寂しさや悲しさが、
お互いと出会うことで少しずつ
癒されていく。その姿をただただ
温かく描いているのがこの作品。

お互いに少しずつ変化が生まれて、
それがお互いのおかげであることが
視聴者に伝わるのが魅力だと思う。

「こういうので良いのよ!」って
叫びたくなるような感じ。

BL作品だから濡れ場を多くとか、
BL作品だからメッセージ性をとか。
もちろんそういう作品があっても
全然いいと思うけど、基本的に
特別なものは何もいらない気がする。

当たり前に豊と穣と種がいて、
当たり前に一緒に食卓を囲む。
それだけで十分伝わるものがある。

難しいことはなにも考えず、
ただ一緒にいたいから一緒にいる。
この作品の温かさはそこにある。

【繊細なキャラ立ちと心情描写】

この作品の特に好きなところは、
心情描写の演出が上手くて、
キャラクターが立体的なこと。

個人的に演出がかなり好きなのが
第3話。種が熱を出してしまって
動物園に行けなくなってしまう回。

穣から送られてきた、種の動画を
見ながらにこにこ笑っている豊。
しかし、その動画が止まると、
一気に部屋が静かになって、
1人の豊が引きの画で映される。
豊の奥底にある寂しさを垣間見た
感じがして切なくなった。
種が喜ぶからだけではなく、
豊にとっても穣にとっても、
一緒に過ごす時間が大切なのだと
強く感じさせられるシーンだ。

そして、そのシーンと張るくらい
穣の描き方が全編通して大好き。
金髪で、ちょっと目つきが悪くて、
圧を感じる穣だけど、凄く優しい。

元カノである奈央が穣を訪ねてきて
「穣には穣の人生があると思う」
大学に戻ることを促すシーンがある。

奈央のような立ち位置から見れば、
穣は自分の人生を犠牲にして種に
尽くしているように見えるのだろう。
でも、穣はそうじゃない。
バイト先で種のことを聞かれたとき、
「俺がやりたくてやってるんで」
「家族ですから」と答えるし、
急いでいても、お母さんの写真に
「行ってきます」の声掛けは
忘れない。自分にも周りの人にも
嘘がなくて素直で優しい。
穣はそういう人なのだ。

豊が風を引いてしまって、過去の
出来事を思い出してしまう第6話でも
そうだった。穣は豊の話を聞く前に、
まず自分のお母さんの話をする。
その上で「何でも聞きたいから」
豊に伝える。話聞くよと言われても、
話したことで、暗い気持ちにさせて
しまったら…みたいなことが
ちらついて話せない人はきっと
少なくないと思う。穣はそれを
何度も経験してきたからこそ、
最初に自分が話す選択をした。
どこまで優しいんだ…好きだわ…と
頭を抱えながら見てしまった。

そんな穣だから第8話で豊に対して
気持ちを伝えた時も口にキスは
しなかった。関係が壊れると
わかっていても、気持ちをとどめて
おけなくて、触れたくなって。
でもそれは自分の勝手な感情で。
だから、せめてと頬にキスをした。

何よりもその葛藤が、心の声が
聞こえてるんじゃないかと思わせる
飯島寛騎くんの演技が素晴らしい。

バイト先でクリスマスの話になり、
「一緒に過ごしたい奴とかいないの?」
と店長に聞かれたとき、豊のことを
思い浮かべながら、小声で
「…たまには…2人で…」って呟く
ところとかもう超可愛い。守りたい。

対する豊は、優しくて穏やかだけど
基本的には当たり障りない
コミュニケーションしかとらない。
周りからの見え方が気になり
人を避けている節がある。

でも、穣や種と出会ってから、
少しずつ心がほどけていく。
同時にあざとさも発揮し始める。

自分が作ったご飯を食べている
穣に対して、優しい顔をしながら
「こうして好きな人に美味しいって
 言ってもらえると嬉しいね」

みたいなことをサラっという。

穣も穣で、顔がついたおにぎり、
通称「おにぎりマン」を顔から
食べることには何の躊躇いもない
大雑把タイプなのに、そういう豊の
一言にはちゃんとときめく。
これも本当に可愛い。守ります()

豊を演じる犬飼くんの凄さは、
セリフの言い方だけで、特段説明が
なくても心情が伝わることだ。

穣からの電話に出て、種の声が
聞こえてきたとき「種くん?」
一言だけで種のことが大好きで、
めちゃめちゃに愛おしく
思っていることが伝わってくる。

この後でまとめるけど、穣の
お父さんと話すときの台詞運びから
豊にとって2人を失うことが
どれだけ怖いことかが伝わる。

悪役から王子様ポジション、
極道から狂気的な役まで、
様々な役をこなす犬飼くんだから
なせる技なのだと思う。

そしてこの二人を結びつける種が
とにもかくにも可愛い。
前山くうがくん、がっつりドラマに
出るのは初めてだったみたいだけど
それがまた良かったと思う。
無邪気な種が本当に可愛かった。

豊と出会った時、貰ったおにぎりを
握ったのが豊だと知ったときの
多分穣の喋り方を無意識に真似した
「本当か?おめえすげえな!」って
漫画の主人公さながらの喋り方も、
おにぎり頬張りすぎて、海苔が
びよーんと伸びてしまうところも、
「いつも気合が入っている魚は
 なんでしょ~!」
「正解はエイでした~っ!」
みたいな唐突の種クイズも。
もう全部可愛くて愛おしい。

種と穣の関係性もかなり良い。
「カレーはかれえ~!かれー!」
「なんだそれ」
「ん~?カレーの歌!」

みたいな帰り道のやりとりとか、
「こっから15分」
「早っ!」
「いや、ルー入れるから。
 そっからまた10分」
「遅っ!」

みたいな料理中のやりとりとか、
種がテンション上がって言った
内容を穣がサラッと聞き流す
年の差兄弟ならではって感じの
自然な空気感が、本当の兄弟
みたいで凄く好きだった。

この熱量で書いても足りないほど
空気感がとにかく素敵。心が
洗われるマイナスイオン作品だ。

【台詞が染みすぎる】

この作品の台詞の染み具合はもはや
おでん。おでんの大根レベル。

一番染み渡った台詞は最終回、
穣のことは好きだけど、穣のことも
種のことも大切すぎて、失うのが
怖い。いつか別れが来てしまうなら
最初から近付きすぎない方がいい。
そんな思いから、拒むような態度を
取ってしまう豊に、原田龍二さん
演じる穣の父、耕司が寄り添って
伝えた言葉だ。

「誰かを愛することって、失うときの
 痛みも引き受けるってことだと思うんだ」
「この痛みは妻を愛した証なんだ」
「この痛みを味わえて僕は幸せなんだ」
「穣と種に出会ってくれてありがとうね」
「別れの時には一緒に痛がろうぜ」

いつもはポンコツ気味で、穣から
遇われている耕司が豊にだけ見せた
弱い姿。自分も妻を失っているから
別れが怖い豊の気持ちが誰よりも
分かる耕司の温かい言葉。

この言葉をきっかけに豊は変わる。
性格がガラッと変わるような、
大きな変化では決してないけれど、
控えめながらも実家へと足が
向くようになったり、会社の
飲み会にも参加するようになる。

そのおかげで、不器用なだけで、
ちゃんと家族になろうとしていた
兄の気持ちを知ることにもなった。

近ければ近いほど、ちゃんと
言葉にしないと伝わらない。
豊が穣を避けてしまう理由も、
豊を受け入れてた兄の気持ちも。

だけど、あえて言葉にはしない
優しさもある。耕司が寂しさを
抑えて明るく振る舞っているのは、
子どもたちのため。穣が寂しさを
表に出さないのは種のため。
でもそれを苦とは思っていない。
だけど。そこに豊がいたら、種も
嬉しいし、耕司にも、穣にも
拠り所ができるし、豊も楽しい。
当たり前にそこにいるだけでいい。
そんな関係性が温かくて優しい。

辛いことや苦しいことがあったら、
何でか分からないけど涙が出たら、
このドラマを見てみて欲しい。
きっと心を救ってくれる。

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