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一瞬にして目の前の世界が変わった。それはほんの些細な出来事がきっかけだった。

つい先日の春彼岸の出来事です。

息子と二人で
自宅から車で15分程の所にある
私の実家のお墓参りに行きました。

その日は
あいにく朝から小雨がちらつき
とても寒い日でした。

前日まで
暖かい春の陽気が
続いていたこともあり
春を感じながらのお墓参りを
とても楽しみにしていた私は
その日の天気を
ひどく残念に思いました。

駐車場に車を停め
車から降りると
冷たい春風が身に沁みました。

車での移動だったため
うっかり薄着をしてきた私は
すぐにそのことを後悔しました。

「お水、お願い」
息子に桶と柄杓の準備を頼みました。

息子は慣れた手つきで
手早く桶に水を入れました。

実家の墓地は敷地の一番奥にあります。
平日、しかも
彼岸明け間近のその日
田舎の墓地には
私たち以外
誰の姿もありませんでした。

寒空の下
真っすぐに続く通路を
息子と二人
静かに歩いて行きました。

「寒~い」
思わず愚痴が出ました。
と同時に息子が
「あっ」
と声を上げました。

息子の視線の先に目をやると
墓石の脇に
花の入った花瓶が倒れていました。

シルバー色の細身の花瓶で
どうやら
お墓用の物ではなさそうです。
おそらく
強風で倒れてしまったのでしょう。

(よその敷地だけど入っていいよね)
息子が目で訴えてきました。

「大丈夫だよ」
私が言うと、
息子はその敷地に入り、
倒れた花瓶を起こしました。

てっきり
それで終わりだと思っていました。
花瓶を起こして戻ってくるだけだと…。

でも、息子は
そんな私の予想に反して
花瓶を起こした後、
当たり前のように
手に持った桶から柄杓で水を汲み
その花瓶の中に
丁寧に水を注ぎ入れたのでした。

私は泣きたくなるような
何とも言えない気持ちになりました。

恥ずかしながら
その時の私の頭の中は
早くお墓参りを済ませて車に戻りたい
という気持ちでいっぱいだったのです。

この時
私が見ていた世界は
どんよりとした灰色の世界でした。

そんな私の隣で
息子は目の前の倒れた花瓶に目を向け
そして
その花瓶の中の花に目を向け
そのかけがえのない命に
水を与えていた…
愛溢れる優しい世界の中にいたのでした。

私は
息子の優しさを、愛を
静かに感じていました。

この出来事は、
今この瞬間に
世界をこんな風に見ることができるよ
ということでもあり
また、私の中にも
そんな優しさや愛があるよ
ということでもあったのだと思います。

感情が動いた時、
そこには大切なメッセージがある…

あの日、私は
もう一度思い出すことが出来ました。

どんな時にも
私たちは愛と共にあって
どんな時にも
幸せを感じることが出来る
ということを。

今を生きるということは
かけがえのないことだということを。

同時に
ご先祖様から
脈々と受け継がれてきた
この命に
深い感謝の気持ちが湧いてきました。

ご先祖様はきっと
いつも私の側にいて
私を見守り
私の幸せを願ってくださっている…

この命は私だけの命ではない…

ご先祖様から受け継がれたこの命、
天から授かったこの命に感謝して
今を大切に生きていこう…

私が見ている世界は私が創っている…

春彼岸に
息子がそう教えてくれました。


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