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アマプラで『ワイルド・スピード』を観た感想をいまごろになって書く(1)

既に終わってしまったのですが、6月30日まで映画ワイルド・スピード シリーズが、Amazonプライムビデオで追加料金なしで観れたので、これを一気見した感想と、いくつか思い出したことがあるので、それらのことを書き留めておこうと思います。

Amazonプライムビデオで6月30日まで見放題視聴が可能だったのは、1作目『ワイルド・スピード』から、8作目『ワイルド・スピード ICE BREAK』まで。
Amazonのページを開いたときに、たまたま「見放題が終了間近の映画」というリストに「ワイルド・スピード」の文字を見つけて、見放題なら観ておこうかと観始めました。

8作品ぶっ通しで観た後の率直な感想としては「面白い!」
全作品★5!!

B~Z級好きの筆者が観ても面白い! これはもう、下手したら、シャークネード シリーズを超えるんじゃないかっていうぐらい面白い。いや、この面白さはもしかしたら『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』すら超えるんじゃないでしょうか。たぶん、どこかでスティーブ・ジョブズさえ出していれば確実に超えていましたよ。たぶん。


家電量販店のデモ映像

昔、家電量販店のテレビ売り場を通ったら、めちゃくちゃ大きなプラズマテレビ(液晶ではなく “プラズマ”)でデモ映像が流れていました。
なんか、ものすごい勢いでクルマが逆走したり、ワイヤー飛ばしてトレーラーをひっくり返したり……

当時、プラズマディスプレイは液晶ディスプレイに比べで画素の反応が早いとか、コントラストが高いとか、そういうのをウリにしていたので、画面がめまぐるしく変わってボッカンボッカン爆発するアクション映画はデモ映像にピッタリ。
クルマが橋から谷に向かって落ちるシーンなどは、一瞬、引きで風景が映っても細部がくっきり見えて、落下するクルマを追いながら流れる風景まで高精細に映し出すことができますよ。ねっ、ねっ、すごいでしょ! っていうアピールができるわけですね。
まぁ、実は液晶でも十分見えるのですが、ことさらにこっちで「見えるでしょ、見えるでしょ!」と強調されれば、なんとなく向こうでは見えないような“気がしてしまう”という謎現象。違いが判らない自分が悪いような気がして「あっ、確かに違いますね」と口にするうち、本当に違うような気になってしまうアレを期待したデモ映像が流されていたわけです。

その時は、あ~、懐かしいなぁ。『マッドマックス2』みたいな、無茶なカーアクション映画、いまでもやってるんだな~っていう印象。
画面の下の方に映画のタイトルが白文字で表示されていましたが、カタカナの「ワイルド・スピード」という文字は目に入ったものの、目を細めてアルファベットまでちゃんと読むことはしませんでした。
なので、事前知識としては「ワイルド・スピード」というと、なんかクルマがびょんびょん飛んで、あっちこっちでドッカンドッカン爆発するという印象のみでした。

8作品を一気に観る!?

シリーズものは公開日順に観たいので、とりあえずWikipediaに載っている「ワイルド・スピード シリーズ」の上から順に観ていくことにしました。

衝撃の1作目『ワイルド・スピード』

1作目の『ワイルド・スピード』を観終わった直後の正直な感想は、「何これ?」これが後のワイルド・スピード シリーズにつながる第1作目とはちょっと思えないけど……という印象。

ストーリーとしては、お宝満載のトレーラーが3台の黒いシビッククーペに襲われる事件が多発していて、その主犯と思しきドミニクに接触して犯行の証拠をつかむために、FBI捜査官のブライアンが潜入捜査をするという話が軸。
そこに、コテコテに改造したクルマ(主に日本車)を持ち込んでゼロヨンに熱中するという、当時のアメリカの若者文化で派手にデコレーションしたのがこの1作目『ワイルド・スピード』……ということなのだろうなと想像するのですが……

潜入捜査官が犯罪組織に潜入しているうちに、組織の中に自分を信用してくれる仲間ができ、ボスから信頼されるようになり、組織の一員としての役割も生まれて抜けられなくなり、ついには捜査本部を裏切ってしまうというお話……このパターンは結構ありますよね。
実際にあった潜入捜査をベースにした、1997年公開の映画『フェィク』は泣きポイント満載の名作映画ですが、『フェィク』の主人公ドニーに比べて、『ワイルド・スピード』のブライアンは軽い。(笑)
潜入捜査のために軽い男を演じているわけではなく、根っから軽い。捜査官として軽い。
FBIの捜査本部にも、一応偽装はされているものの、ちょいちょい呼ばれて直接話しに行く。つけられてたら即終了なのだけど、「スナックゴン」かよ! って勢いで話しに行っちゃう。
こんなの、クルマ改造して、ナンパするついでにFBIに情報流しに行ってるレベル。
しかも、トレーラー満載の “お宝” って、パナソニックのDVDレコーダーですからね。DVDレコーダーに見せかけて、中身はトレーラーいっぱいの麻薬とか、そういう話かと思いきや、最後までDVDレコーダーです。パナソニックのCMかよ。パナソニックいくら出したんだよっていうシラケっぷり。

どうやら、主人公ブライアンに「FBIの潜入捜査官」という設定が与えられているだけで、こっちの筋はこの映画のメインではないのですね。

ということは、この映画のメインは日本車をコテコテに改造して夜中にたむろし、お互いのクルマを自慢し合い、公道でゼロヨンレースをやっている若者たち……という、こちらが主軸なのですね。日本のマンガでいうとゼロヨンではないものの『サーキットの狼』とか『頭文字D』的な公道レースものに近いノリだと理解しました。

この映画が公開されたのが2001年。
これより少し前にはなりますが、1990年代後半に筆者が半導体の仕事をしていた頃、仕事でシリコンバレーに行った際、夜中にローダウンの改造車や派手なピックアップトラックが集まっていたのを覚えています。
中には、何やら画数の多い漢字でデコレーションしているものや、路面からマフラーまで何ミリ隙間があるんだろうっていうぐらいぺったんこにローダウンしているものもありましたが、どれも、マツダやホンダなどの日本車ばかり。わざわざ日本車を選んで改造していることに驚きました。

とにかく、この映画は、そんな感じで日本車を改造して楽しんでいた、この頃のアメリカの若者向けにターゲットを絞り込んだ映画だったんですね。
ただ、改造の内容に関しては、いろんな用語を早口でまくし立てる様子は出てくるものの、走行中にNOS(吹替えでは「ニトロ」と呼ばれている)のスイッチを押せばドカンと加速するという単純な設定になっていることから、このあたりの詳細はこの作品の面白みにはなっていない様子。
(ちなみに作中で「ニトロ」と呼ばれているものは亜酸化窒素(nitrous oxide)で、爆薬のニトログリセリン(nitroglycerin)とは別物です)

つまり、当時流行していた、日本車をラメ入りの塗装とクロムメッキのでっかいホイールに超扁平タイヤで飾りたてて、でっかいスピーカーをブンブンいわせながら夜の駐車場にたむろする。そいう者たちや、そこに憧れて周辺を取り巻く若者たち向けの映画なのですね。

そう思って、当時の自動車雑誌をめくるつもりで観ると、これ、めちゃくちゃ面白い映画です。
昔はV8DOHCにボンネットから飛び出すでっかい過給機を載せるのが大好きだったアメリカ人が、小型がウリのロータリーエンジンを積んだRX-7を愛車として乗り回したりしているわけです。
しかも、主人公のブライアンがはじめに乗っているのは三菱自動車のエクリプス。主人公がいきなりマニアックなの持ってきたねぇ~って感じ。
ざっと画面を眺めるとインテグラや、シビックなど、ホンダ車が多いような気がしますが、たぶん、実際にホンダが北米市場で売れていたのでしょうね。

古き良きアメリカの象徴みたいなでっかいトレーラーをシビッククーペ3台が襲うシーンなどは、小さな日本車に食い荒らされるアメリカの自動車産業をイメージしているのかもしれません。
そう考えれば、映画の終盤、シビッククーペに乗った盗賊団から必死でトレーラーを守ろうとする運転手はどうやら中南米からの出稼ぎ労働者風。しかも、彼が命懸けで守っている積み荷がパナソニックのDVDレコーダーというのは、皮肉が効きすぎています。

こういうシーンをアメリカ人たちはどう受け止めていたのでしょうか? みんな能天気に「日本車かっこええ~」と思っていたのでしょうか?

1980年代、アメリカで自動車の販売が落ち込み、GM、フォード、クライスラーのビッグスリーが不振に喘いでいる中で、小型、低燃費、低価格をウリに北米市場で売り上げを伸ばしていたのが日本車です。
いわゆる貿易摩擦の中で、アメリカの労働者たちは、自分たちの仕事を奪う象徴として、日本車をハンマーで叩き壊すデモンストレーションを行いました。当時、日本でもその様子は何度もTVのニュースや特別番組で流れていたのを覚えています。

1990年代後半から2000年代初頭のアメリカの若者たちが、ことさら日本車にこだわったのは、1980年代に労働者だった自分たちの親世代に対するカウンター・カルチャーだったのかもしれません。

そんなことを考えながら、Wikipediaで興行収入の欄を見ると、一作目『ワイルド・スピード』の北米での興行収入が$144,533,925、北米外の興行収入が$62,750,000となっており、興行収入全体の約70%が北米での収入となっています。

このことからも、主にアメリカ国内でヒットした作品であると考えられ、当時のアメリカの若者文化をうまく捉えた作品であるといえるのではないでしょうか。

典型的な「パートⅡ」『ワイルド・スピード X2』

2作目となる『ワイルド・スピード X2』は、1作目のカーアクションものという素地を引き継ぎ、日本車もかなり登場するものの、1作目では描き切れなかったブライアン・オコナーの潜入捜査官っぷりをメインに据えています。

更に、ブライアンの幼馴染ローマン・ピアースを登場させ、バディもの要素をプラス。
1作目とは少し毛色の違う仕上がりになっています。

序盤、ブライアンが、FIBの用意した相棒ダンにブラフをかけて相棒を断り、自分の相棒は自分で決めるといい出すところは、潜入捜査官としてもかなりそれっぽいし、バディものとしてもいい流れです。

ただ、既に女性の潜入捜査官モニカが捜査対象の親玉ベーロンにべったり張り付いていたり、ブライアンがわざわざ潜入捜査の相棒として選んだローマンが、突然ベーロンにタメグチを叩いてベーロンに怪しまれたり、なんか無理矢理カーチェイスに持ってくじゃんって感じとか……
潜入捜査官のお話としてのリアリティは……まぁちょっと何というか……
昭和オヤジ的な印象としては、「ナイトライダー」とか「バイオニック・ジェミー」とか、ああいうノリだなっていう印象です。

こう書くと、なんか、面白くないんじゃないかみたいな感じになりますが……ワイルド・スピード シリーズの中ではこの先の流れを決める上でかなり重要な作品になります。2作目で生まれた、この取って付けたようなノリが、後々このシリーズ独特の雰囲気につながっていくわけです。
特に最後、ブライアンがカマロで大ジャンプしてベーロンの船に突っ込むシーンなどは、まだまだ昭和のアメリカン特撮TVドラマのイメージが強い絵面ですが、これは後々の「ワイルド・スピード シリーズ」独特のカーアクションの萌芽ともいえるでしょう。

オトナの事情『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』

潜入捜査はなくなりました。
いろいろ大人の事情があったようですね。

パナソニックが大枚はたいて無理やり日本を舞台にさせたのかと思いきや、途中サムソンの看板が大写しになったりするのでそういうわけでもなさそうです。

最後の最後に細いつながりを残してはいるものの、基本的にお話のつながりはなく、舞台はいきなり東京になりました。日本のタレントもたくさん出演しています。
めっちゃカワイイ北川景子は主人公ショーン・ボズウェルの友達レイコ役。ヒロインではないものの結構出ずっぱり。

序盤で主人公が日本の高校に転校する設定や、屋上で喧嘩するシーンなどは、かなり日本のマンガやアニメを意識してるなという印象。
古くは「男一匹ガキ大将」から「ビー・バップ・ハイスクール」など、いわゆる不良番長ものマンガの風味があちこちに感じられて、不良マンガのハリウッド実写版だといわれればうっかり信じてしまうかも。

ストーリーの軸は、潜入捜査官縛りがなくなったので、1作目の主軸だったクルマを改造して公道レースをする若者たちに全振りした内容になっています。

レースの内容がゼロヨンからジムカーナ風の旋回多めのコースになっており、「ニトロでビューン!」というわけにはいかず、ドリフト走行のテクニックを磨かねばなりません。
ショーンがスポ根ものよろしく、ドリフト走行の練習をするところなどは、1作目、2作目とは大きく異なるところ。
ワイルド・スピード シリーズの中では、かなり異色な作品になっています。

トータルの興行収入はシリーズ最低なのですが、注目すべきは北米市場とそれ以外の比率です。

ワイルド・スピード シリーズ、興行収入比率

1作目、2作目と、北米市場の興行収入が北米以外を上回っていたのですが、この『X3 TOKYO DRIFT』以降はずっと、北米市場の割合が50%を切っています。
つまり「ワイルド・スピード シリーズ」は『X3 TOKYO DRIFT』以降、北米以外で稼ぐ映画になったわけです。いわば、シリーズ全体の転機になった作品なのです。

さて、3作目まで観終わった時点では、1作目、2作目、3作目と、それぞれバラバラな独自のカーアクション映画という印象が強いのですが、それは4作目『ワイルド・スピード MAX』を観るまでの印象。
4作目から、いよいよワイルド・スピードの本番が始まります。

(続く)

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