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【B-3-2】勇者さまっ!出番です!

これは、選択肢によって展開が変わる
「なんちゃってゲームブック風物語」の一部です

▶ぼうけんをさいしょからはじめるばあい
https://note.com/kudotomomi/n/n9a641f1d1573

▶ぜんかいまでのぼうけんをふりかえるばあい
https://note.com/kudotomomi/n/n9c2124354996

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最終章

城へ向かう途中で、グリフォンに馬車ごと運ばれ、魔王の城に到着した勇者とブラウン。

勇者は自分の身に何が起きたのか、まったく理解ができずにいた。

勇者
「これは、いったいどういうことなのか…」

ブラウンは馬車から降り、人間のチカラでは到底開けられそうもない大きな門の前で、すっと大きく息を吸ってから、叫んだ。

ブラウン
「ゴラアアアア!!ブランドール!!門を開けろおおおおっ!!でてこい、このクソガキがぁあああっつ!!」

勇者
(怖ええ…スゴイ怒ってるよ、ブラウンさん…この怨念何なの…)

ブラウンの叫びがあたりにこだまして、吸血蝙蝠が一斉に飛び立ったが、門が開く気配はもちろん、ない。

ブラウン
「やむを得ん。門を壊すのは気が進まないが、そっちがそういう気なら…突破するしかないだろうな…勇者殿、危ないので下がっていてください」

勇者
「あ、ハイ。でも、どうするんです…?」

ブラウンは、剣を抜き、精神を集中させた。
そして空高くジャンプしたかと思うと、門めがけて剣を振り下ろした!
剣から、真空の刃のようなものが飛び出た!
その瞬間、大きな門扉はいくつかのパーツにわかれ、轟音を立てて崩れていった。

ブラウン
「勇者殿、門が開きましたぞ。さあ参りましょう」

勇者
「力技…っていうか、ブラウンさんのステータスどうなってんの…これ、魔王も楽勝で倒せるんじゃ…ないのか?」

あっけにとられた勇者は、ブラウンの後ろを恐る恐るついていく。怒らせたらダメな人なんだ、この人…と勇者は今更ながら思った。

魔王の元へ行くまでに強い悪魔3兄弟とか、でかいドラゴンとか、そういった「中ボス」が出てくるかと思いきや、城はシン…と静まり返っている。なぜだろうか。ここには誰もいないのか?それともブラウンのオーラに圧倒されて出てこないのか…?

ブラウンがきらびやかな扉の前で立ち止まった。

ブラウン
「勇者殿、ここが王座の間です。私はここから、世界の端まで飛ばされて、ここに戻ってくるまで3年かかりました…ついに決着をつける時が来たのです…」

勇者
「そ…そうなんですね…」

ブラウン
「この数年間、近隣の平和な国が悪魔たちによって被害を受けたのは、私があの時、聞き分けのないブランドールを…いや、あのクソガキを一発ぶん殴って、檻に入れなかったのが原因なのです…反省しています…関係のない人々にまで悲しい思いをさせてしまった。不徳の致すところです」

勇者
「聞き分けのない?ん?」

ブラウン
「勇者様、わたしが、ブランドールに先制攻撃を仕掛けます。わたしが負けることは決してないはずですが、万が一ブランドールが優勢になることがあれば、こいつを燃やしてください」

ブラウンは一枚のカードを手渡した。

勇者
「この絵の付いた札は?女神?なにかのアイテムですか?」

ブラウン
「ブランドールが、欲しがっていたアイテムです。わたしも、これを手に入れるのは苦労しました。これを使うと、かなりパワーアップできるらしい…あいつは、これを探し当てるためにいろんな町や村を狙っていたのです…よって、もしこれを燃やせば、あいつは気力を失い、相当なダメージを与えることができるはず。ただ、そのカードは諸刃の剣…燃やせばあいつが逆上する可能性もありましょう。なのでいざという時にだけ、使ってください」

勇者
「わ、わかりました。預かります」

ブラウン
「では、行きますね」

勇者
「はい!」

二人は顔を見合わせてうなずくと、扉を蹴飛ばし、玉座の間に入った!
王座には、魔王ブランドールが座っている。

勇者
「魔王ブランドール!!我はお前を倒しにきた勇者である。覚悟しろ!!」

緑色の美しい長い髪…端正な顔立ち…飛び出た二本の角。まさに魔王といういでたち。ブランドールは真っ赤な血の色をした瞳をカッと見開いた。

ブランドール
「なんだ?お前は…勇者だとぅ?オレの視界に入るなどいい度胸だな。死ににきたのか?ああ?」

田舎のヤンキーみたいな口調で勇者をなじるブランドールだったが…

ブラウン
「ブランドール…客人に対しその口のききかたはなんだ?」

ブラウンがそういって、ずずいと前に出るとブランドールは震え上がった。

ブラウン
「久しぶりだな…」

ブランドール
「お、おとうさん…」

勇者は耳を疑った!

勇者
「お、お父さん!!?」

ブラウン
「お前、よくもこのわたしを最果ての地まで飛ばしやがったな…?親子喧嘩に呪文を使うなと小さいころからあれほど口酸っぱく言ってあっただろうが!ゴラアアアア!!!」

ブランドール
「ひ、ひいいいい!!」

勇者
「え?お、親子喧嘩?」

勇者は、二人の会話を聞いていた。

ブラウン
「そもそもわたしが怒ったのはお前が原因なんだぞ!!友達と遊ぶために親のカネを使って大量にカードゲームのデッキを買いやがって!!!!ああ?それでさらにカードゲームで勝ちたいから最強デッキを作れるレアカードを買ってほしいだと!?大概にせえよ!このクソガキがああ!!」

ブラウンの怒りの叫びは、波動となってブランドールにダメージを与えた!

ブランドール
「ぐはぁあああッ!」

ブラウン
「お前が魔物を使ってあちこちの街や国を荒らしまわり、レアカードを探し出すよう命令したのを知ってるんだ!魔族の風上にもおけない奴!お前はわたしの後継者などではない!魔王を名乗るな!!地下牢に閉じ込めて一生カード遊びなどできぬようにしてやるわ!!」

ブランドール
「う!うるさい!!地下牢になんて入るものか!遊べなくなるくらいなら死んだ方がましだ!!」

ブランドールは腕を伸ばし、手のひらを点に向け、魔力を集め始めた。どうやら一級の攻撃魔法を使う構えだ。強力な魔力の影響で、すでに部屋全体がギシギシ音を立て、王座の間にある家具が揺れている。

ブラウン
「反省の色が全く見られないな。わたしに、この父に、この期に及んで魔法で攻撃しようというのだな?!よし、分かった。わたしもこの命をかけてお前と戦ってやるぞ…覚悟しろ!」

勇者は親子喧嘩の規模がでかすぎてやや混乱していた。そして、そもそも旅を一緒に続けてきた心清らかなこの戦士が魔族で魔王の父?だからがグリフォンが言う事聴いたり、城の中にモンスターが出なかったのか。しかし…平和が乱れたのはカードのため?なんだそりゃ?自分はブラウンに味方していいのか?様々な思いが駆け巡る中で、勇者の思いはひとつだった。

勇者
「ブラウンさん!そんな…やめてください!捨て身で挑むなんて!いのちだいじに!それに相手は息子さんなんでしょう?魔族だってなんだって、親子の絆は大事にしてください!話せばわかりますって!」

ブラウン
「勇者殿、分かってくだされ。もう後には引けないのだ。あの一級魔法がはなたれれば、この世界の半分はなくなるかもしれない。それを止めなくてはいけない。あのバカが怒りで周りが見えなくなっている以上は」

勇者
「そんな…ブラウンさん…」

ブラウンは魔法を打ち消す、”はねかえしのやいば”の構えを見せた。

一級魔法相手だと、魔法を打ち消す確率はフィフティ・フィフティ。まさに捨て身の構え。そこには父親としての意地があったに違いなかった。

ブラウン
「勇者殿、逃げてください…」

勇者
「ブラウンさん!」

ブラウン
「これまで…魔族だということ、そしてすべての元凶はわたしと息子であったことを隠し、一緒に旅を続けてきたこと、申し訳ない。勇者殿が、私を信頼して旅の相手に選んでくれたというのに…裏切るような真似をしてしまった。わたしは必ず息子を倒す。そして奇跡的に命が残れば、この国を建て直すのだ。勇者殿は心置きなく、魔王討伐の報告をしに行ってほしい。」

勇者
「そんなこと…できません!」

ブラウン
「3年間、人間の世界を放浪して、人間のやさしさに触れ、人間と魔族とが分かり合える方法があるのではないかと思うようになった。それはとても良い収穫だったが、バカ息子のせいで万事休すだ」

勇者
「ブラウンさん…」

ブラウン
「勇者殿との旅もとても心地よかった。湖畔の宿のオンセン、あれはとてもよかったな…魔界にはない。旅がおわったらまた行きたかった」

ブラウンの声が心なしか震えていた。

ブラウン
「勇者殿、いままでありがとう。早く出口へ急いでくれ!」

勇者は葛藤している!

魔族といえども、今まで一緒に旅をしてきた仲間ではないか!

ずっと勇者をサポートしてきた優しい戦士を見殺しにできるのか?

勇者
「俺に…俺にできることはないのか?!」

勇者はふと…ブラウンから預かったカードのことを思い出し、懐から取り出した。

女神のカード
レア度 SSP

勇者
「これだ!」

勇者は自分がなにをすべきか悟った。

勇者
「ブランドール!これが見えるかあああっ!!」

勇者は『女神のカード』を高くかかげた。

ブランドール
「なっ!それは!!超レアカード!!」

勇者
「これはな、お前の親父が手に入れたカードだぞ!スーパー、スペシャル、レア!!お前によって世界のはしっこに飛ばされて、お前をぶん殴るためにここに戻ってくるまでの3年間、ブラウンさんはなんだかんだ言ってお前のためにこのカードを探し当てたんだ。お前にこの親父の優しさがわかるか!?いまその魔法をつかえば、親父はおろか、このレアカードがこの世から消滅するぞ!!?なくなったらもう元に戻せないぞ!それでもいいのか!?」

ブランドール
「うっ!」

勇者
「お前が親父の愛を無視してその呪文を唱えるのなら、今すぐこのカードを破くぜ!」

ブランドール
「やめろっ!わ、わかった。やめるっ!やめるよ」

ブランドールは悔しい表情をして腕をおろすと、びりびりとする魔力の刺激は消え、あたりに静寂が戻った。

ブラウンも”はねかえしのやいば”の構えを解き、汗でびっしょりの額をぬぐった。

勇者は、ブラウンに歩み寄る。

勇者
「このカードは、お父さんから渡してあげてください」

ブラウン
「勇者殿…」

勇者はブラウンにカードを返すと、ブランドールに向けて言った。

勇者
「お前、どーせ仲直りするきっかけ失くしてたんだろ。まったく…わがままなお前のせいであちこちの国の人が悲しい思いをしたんだぞ!反省しろ!親父さんにちゃんと謝れ。そして感謝しろ。こんないいトーチャンなかなかいないんだからな!!親は大事にするもんだぜ」

ブランドール
「…わ、わかったよ」

勇者
「俺は帰るぜ。エーデルムート王国には”災いの原因が解決したからもう安全”って報告するからな。もう親子喧嘩すんなよ。あと、むやみやたらに人を襲うなってモンスターたちに言っておけよな。じゃあな。」

勇者が帰ろうとするとブラウンが引き留めた。何も知らない勇者を巻き込んだ罪悪感からか、何か言いたげな様子だった。

ブラウン
「勇者殿!わたしは…」

勇者
「俺、自己顕示欲のために魔王をぶっ倒して伝説を更新するとか言ってたけど…今後はそれも必要なさそうだし…ちょっと考え変わったよ。勇者として、これから何ができるのか考えてみる。ブラウンさんと旅ができてほんと良かった。ありがとう」

勇者はブラウンに握手を求めた。

ブラウン
「わたしも、魔族と人間のつながり方をしっかりと考えてみます」

勇者
「落ち着いたら、また”オンセン”行きましょう。今度は、息子さんも一緒に」

ブラウン
「ぜひ!」

ブラウンは勇者の手を取り強く握り返した。

勇者
「いてててててて!」

ブラウン
「また力加減を間違えてしまった。許してくだされ」

勇者
「このパワー。さすが魔王の父だよな」

勇者とブラウンは見つめあって、笑った。

勇者は、これまでどんなに強いモンスターを倒しても、どんなに難しいクエストをクリアしても得られなかった【満足感】を手に入れた。


その後、エーデルムート王国に戻った勇者は、王に事の経緯を「ざっくり」報告し、褒美は受け取らず、そのまま旅に出た。自分の生き方を探す旅に。

また、ヘレンクヴァール王国では、心を入れ替えたブランドールがブラウンの指導の元モンスターの思想改革を試みた。その結果、モンスターはほとんど人間たちを襲わなくなり、近隣の国や町・村の人々と友好的な関係を築くようになった。

現在、もし人間とモンスターの間で諍いが起きた時は【カードバトル】で決着をつけるようになったらしい。

(おわり)

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最後まで読んでくださり
ありがとうございました!
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