見出し画像

【B-2-2-A】勇者さまっ!出番です!!

これは、選択肢によって展開が変わる
「なんちゃってゲームブック風物語」の一部です

▶ぼうけんをさいしょからはじめるばあい
https://note.com/kudotomomi/n/n9a641f1d1573

▶ぜんかいまでのぼうけんをふりかえるばあい
https://note.com/kudotomomi/n/n792b5a2999cd
----------------------------------------------

最終章

勇者
「…ぜんぜん眠れなかった」

勇者は一睡もできなかった!
勇者はげっそりした顔で、ベットの上ですやすや眠っているイザベルを見た。
イザベルのきれいな足が、露わになっている。

勇者
(一緒に寝ましょうよ…って言われてちょっと一瞬考えちゃったけど…さすがに一緒のベッドに寝るとかできなかったわ…無理。よく耐えたわ、俺)

勇者は、重たい頭を上げて、顔でも洗いに行こうとドアノブに手をかけた。
その矢先…
耳をつんざく鳴き声が響き渡り、建物が震えた。

イザベル
「な、何事です!?」

さすがのイザベルも、ベッドから跳ね起きる。
勇者は窓から顔を出し外を見た。

宿の窓からはアーガム湖が見える。その湖の真ん中あたりふわりと黒く丸い物体が浮かんでいる。なんと、おびただしいドラゴンの大群が湖の上からこちらに向かってくる。先ほどの鳴き声は、ドラゴンの咆哮だったようだ。

勇者
「魔物たちが攻めてきたのか…?!」

イザベル
「勇者様、ご支度を」

勇者とイザベルはさっと武器と防具を装備すると、宿屋の裏口から出て、湖に向かう。

ドラゴンたちがものすごいスピードでこちらに向かっているのが見える。
このままだと、村人たちが危ない。

勇者
「イザベル、何か村の人たちを護る魔法を使えるか?」

イザベル
「かしこまりました!!衝撃を和らげる魔法を!」

イザベルは広範囲へ向けて防御魔法をかけた!

イザベル
「クィックールド!ホーリープロテクトーション!」

さすがレベルの高い僧侶である。村の人々や建物をを光のベールのようなものが包み込む。これで魔物たちは簡単には近づけない。ドラゴンも魔法に反応してスピードを緩め軌道を変えた。

しかし、その真っ黒なドラゴンの群れの中から、青白い光を放ち猛スピードでこちらに近づいてくるものがあった。あれは何かと勇者が目を凝らしたときだった…勇者とイザベルにめがけて、炎の玉が連続で飛んできた!!
勇者はイザベルは咄嗟に飛びのいて、その火の玉を避ける。

火の玉はものすごいスピードで地面にぶつかって、地面がえぐれる。二級魔法のようだった。衝撃で火が飛び散り、光のベールに覆いきれていないところが激しく燃え、煙が立ち上がる。村人たちは慌てて非難した。

炎と煙の中にひとつの影が見えた。その影は、ゆっくりと勇者とイザベルに近づいてくる。勇者とイザベルは、ただならぬ殺気に体制を整えた。

やがて見えた影の正体…緑色の美しい長い髪…端正な顔立ち…飛び出た二本の角…魔物だ。真っ赤な血の色をした瞳をカッと見開いて、勇者とイザベルをにらみつける。

勇者
「お前は、誰だ?!」

ブランドール
「オレはヘレンクヴァール国の偉大なる王、ブランドールだ」

勇者
「なに?!お前が…ブランドール!?」

ブランドール
「今からこの村はオレが支配する。邪魔をする奴は殺すぞ!!」

勇者は思わず笑った。

ブランドール
「何がおかしい?」

勇者
「俺、お前を倒すために旅をしてきた勇者なんだよね。魔王のほうからやってきてくれるとは、山道を歩く手間が省けたよ!」

ブランドール
「勇者だと?オレを倒す?いい度胸だな。余程生き急いでいるらしい…」

勇者
「戯言を聴いている暇はない!いくぜ!」

勢いよく飛び出た勇者だったが、寝不足で急に動いたものだから目の前がクラっとした。

勇者
「あ…しまった!一睡もしてないから立ち眩みが…」

イザベル
「勇者様!!」

イザベルが駆け寄って回復魔法をかけてくれる。

イザベル
「スッキリーナ!!」

勇者
「どこかの製薬会社の薬品名みたいだな…」

イザベル
「これで、体力全回復しているはずですわ。勇者様、援護いたします!」

勇者
「よっしゃいくぜ!」

勇者は剣を抜き、ブランドールにとびかかった。
ブランドールも負けじと長剣で対抗する。
鍔迫り合いが続く中、イザベルがブランドールめがけて攻撃を仕掛ける。

イザベル
「ザンダースパークル!!」

イザベルが呪文を唱えると、雷の矢がいくつもブランドールめがけて飛んでいったが、ブランドールが雄叫びを上げると、衝撃波のようのなものが発生し、呪文をかき消していく。ブランドールはイザベルをにらみつけて恫喝した。

ブランドール
「ケガをしたくないならすっこんでいろ、ババァ!」

イザベルの怒りの矛先がブランドールに向かった!

イザベル
「ババァ!?いまわたくしに向かってそういいましたわね!?」

これまでの旅の最中に観たことのない鬼のような表情をしている…勇者がそう思った瞬間、イザベルは息もつかせぬ速さでブランドールの背後に回り込み、ぐっとブランドールを羽交い締めにした!

ブランドール
「な!オレの背後を!くそっ」

イザベル
「口の利き方がなってない坊やですわね。わたくしを怒らせると痛い目にあいますわよ」

イザベルは呪文を唱え始めた。

イザベル
「精霊の神々たちよ、いま我に力を与えたまえ。憎き魔王を縛り上げよ!!バインドボンデジ!!」

イザベルが呪文を唱えると、光の輪が現れ、ブランドールの身体をとらえて、ギリギリと締め上げた。

ブランドール
「やっ!やめろ!何をする!!これをほどけ!」

イザベル
「この魔法はね、魔物捕獲用の一級魔法なのよ。立派な魔王なら解除できそうなものですけど、あなたの魔力ってそんなものなのね。解除できないなんて」

ブランドール
「うるせぇ!これいじょうオレを怒らせると承知しないぞ。お前みたいなババァなんか…」

イザベル
「自分の置かれている状況が分かっていないようですね。悪い子はお仕置きよ…!!」

そういうと、イザベルはブランドールから少し身体を離し、すうっと息を深く吸って深呼吸し集中した。そして、イザベルはブランドールの尻めがけてビンタを一発おみまいした!!

ブランドール
「ぎゃああ!!いっってええええええっ!!」

バシッ!!っという痛そうな音が響き渡る。屈辱的な攻撃…ブランドールの口調はさらに悪くなる。

ブランドール
「ババァ…オレ様にそんなことをしてどうなるかわかってるのか!お前の息の根を止めてや…」

ブランドールがしゃべり終わる前に、イザベルはブランドールの髪の毛をつかみぐいっと持ち上げにらみつけた。

イザベル
「教育がなってないわね…この若造が!!」

ブランドール
「いででででで!!!!」

そして、ブランドールの尻にまた一発張り手をお見舞いした。そしてもう一発、二発…あまりに痛そうなので、勇者も思わず目を背ける。

ブランドール
「ぎゃああ!!!」

勇者
(怒りで我を忘れている…お、おっかねええ…)

ブランドール
「ぎゃああ!!やめろおお!!」

イザベル
「あなたみたいな、お行儀の悪い子供は、ちゃんと躾けなければわたくしの怒りが収まりませんわ…」

イザベルは全集中の構えを見せ、祈りを捧げ始めた。

木々がざわめき、風が強くなる。ブランドールの頭上に黒い雲のようなものが徐々に集まってきた。そしてその黒い雲の中に、時々小さな電流のようなものがはじけ飛んでいる。ただならぬ雰囲気にブランドールが連れてきていたドラゴンたちもおびえ始めた。

イザベル
「勇者様、念のため衝撃に耐えられる体勢をお取りくださいませ!」

勇者
「あ、ああ!わかった」

ブランドール
「な、なにをする気だ…!」

イザベル
「わたくしを怒らせると、怖いんですよ」

イザベルはブランドールを再度にらみつけたあと、目を閉じ、すうっと深呼吸して、空に祈りをささげた。

イザベル
「自然界の神々たちよ、この教育がなってない魔王に裁きを!!我に力を与えたまえ!!!」

イザベルは特技「神の怒り」を発動させた!

黒い雲から大きな雷がブランドールめがけて、落ちた!!

ブランドール
「ぐああああああああ!!!!」

雷鳴が轟き閃光が走った。そして次の瞬間ブランドールの身体は炎に包まれ、焼け焦げた。膝から崩れ、倒れこんだブランドールのもとに、勇者が駆け寄る。

勇者
「死んだのか?」

イザベル
「いいえ、まだ生きておりますわ。この特技は、魔物に制裁を与えるためのもの…即死はしません。魔王よ、これで少しは反省したかしら?」

イザベルがそう言ってブランドールを見下ろす。

ブランドール
「…す、すいませんでした…は…反省してます」

イザベル
「もう近隣の国や村を荒らしませんね?」

ブランドール
「はい…もう…やりません…」

それを聴いたイザベルは、瀕死のブランドールの焼け焦げた角に手をかけた。そして、角を根元からバキッと折り、勇者に手渡した。

イザベル
「勇者様、これを持って、エーデルムート王国にご報告をお願いいたします」

勇者
「イザベルは一緒にこないのか」

イザベル
「わたくしには、新たな使命ができましたので」

イザベルは、勇者に微笑みながらそう告げると、ブランドールに回復魔法をかけた。

勇者
「お、おい。正気かよ。回復させちまうのか?」

イザベル
「わたくしは、この魔王をヘレンクヴァール国に連れ帰りますわ」

勇者
「え?!」

勇者はイザベルの意外な言葉に驚いた。そしてブランドールもまたイザベルの顔を不安そうな顔で見つめている。

イザベル
「いくら反省しているとはいえ…この魔王は、おそらく幼い…このままでは同じことを繰り返しそうな気がしますし…わたくし、この子のこと監視したいと思います。そして、一国の主として、きちんと近隣の国と平和に共存できるよう、教育したいのです。きっと、その方が、皆が幸せになれると思うんですの」

ブランドール
「な…何を血迷ったことを言っておる…お前が…オレをキョウイクゥ?」

イザベル
「そうよ。わたくし、これまで各国の王子様や姫様の教育係の実績もございますのよ。そのわたくしが、もっと人生を楽しく、きもちよ~く生きられる方法を教えてあげますわ。良いと思いません?もちろん、歯向かうようなことがあれば先程のようなお仕置きをいたしますが…いい子にしてくれればお尻ぺんぺんもいたしませんし!」

ブランドール
「うっ…」

イザベルはそう言ってブランドールを満面の笑みで見つめた。ふつうの男性ならばイチコロのスマイルだが、ブランドールは先ほどまでの戦いの様子を思い出し、背筋に寒いものを感じた。とはいえ、これまで接してきた人間とはなにか違うものも感じていた。

ブランドール
「わ、わかった…では…そうしよう…」

勇者
「イザベルとはここでお別れか…イザベルがいたから無事にクエストを達成できたんだ。ありがとう。」

勇者は手を差し出した。

イザベル
「勇者様のお役たったのならうれしいですわ」

イザベルは勇者の手をしっかり握った。

勇者
「なんだか寂しいなぁ」

イザベル
「勇者様、たまにヘレンクヴァールへ様子を見に来てくださいまし」

勇者
「そうだね。そうするよ。おい、ブランドール、しっかりイザベルにいろいろ教えてもらうんだぞ」

ブランドール
「ふんっ。お前に言われなくてもわかっておるっ」

ブランドールはイザベルとドラゴンを引き連れてヘレンクヴァール国へ帰っていった。

その後、エーデルムート王国に向かった勇者。王と大臣に事の経緯を報告し、イザベルが数年間は魔王を直に監視することを伝えると、非常に喜んでいた。勇者は、魔王を討伐したわけではなく、実質平和が戻ったのはイサベルのおかげなので、褒美については遠慮していたが、約束通りの金品と王国の一等地をもらい、勇敢な勇者として末代まで讃えられたという。

国に帰ったブランドールは、イザベルのスパルタな教育を受け、人間とも友好的な関係を築くよう努めるようになった。いまでは、ヘレンクヴァールの王として立派につとめており、エーデルムート王国をはじめ、近隣の村や町などとも交流を行っている。魔物もすっかり改心して人間を襲わなくなった。それどころか古傷をいやしに魔物たちがアーガム湖の湖畔に湧き出る温泉に時々つかりに来るそうで、ちょっとした名物になっているそうだ(実はブランドールがアーガム湖畔の村を支配したかったのは、魔物への福利厚生施設として利用したいと考えていたらしい)。

また、イザベルの噂は世界中に広まり、徳の高い美しい僧侶としてさらに名をあげることとなった。ブランドールも、調教のおかげかイザベルを大変気に入り、教会を建設してあげるなどした。魔物の国だったはずのヘレンクヴァールは、いつしか迷える者たちが祈りを捧げに来る場所として有名になったとのことである。

世界に、平和な日々が戻ったのであった。

(おわり)

------------------------------------
最後まで読んでくださりありがとうございました!
------------------------------------

駆動トモミをサポートしてみませんか。noteを通じてどんなお返しができるか未知数ですが…おまちしております。