いたずら電話【都市伝説】

コールセンターで働いていると稀に妙な電話が掛かってくる事がある。大抵はイタズラ電話の類いとして処理される方が殆どだが、明らかに「そういうもの」の場合もあるのだ。
先月私が取った電話では、初め風を切る様な「ビュー」とか「ゴー」みたいな音が聞こえたと思ったら一瞬人の話し声が聞こえ、そのすぐ後に凄まじい衝突音がした。あまりの大きさにヘッドセットを外してしまったが、付け直した時には普通に客が話していた。客との会話は録音されているはずなのだが、風の音も衝突音も全く録音されておらず、一方的に話しかける客の声だけ入っていた。
その他にも死んだ父親の声だったりお経が流れてきたり、はたまた話してもいない自分の声がしたりとまさに着信アリのような現象を聞いた事もある。幸いにして線路に放り投げられたり体をねじ曲げられたりなどはないが、1つ困っている事がある。
何をどう調べあげたのか全くもって不明だが、自宅、あるいは私の携帯に非通知で電話が掛かってくる。大体1週間1件、多ければ1日に5件程の履歴が残っており、タイミング良く出てみるといつも決まって

「ここは3番乗り場ですか」

と聞くのだ。これに対してはいと答えようがいいえと答えようが、何だったら罵声を浴びせようが返答も決まって

「そうですか」

としか返って来ない。そしてすぐにバツッと音を立てて電話は切れる。不気味だし迷惑この上ない。
そんな話を昼時に後輩にしていると、例の電話が掛かってきた。私がこれだよと伝えると後輩半信半疑と好奇心が混ざった態度で「じゃあ僕が出てもいいですか」と聞いてきた。一瞬渋ったが特に問題がある訳では無いと思い直し、切られない内に受話器ボタンを押して後輩に渡した。
携帯に耳を当てて10秒くらいだろうか。後輩はそっと携帯を私に返して
「ありがとうございました」
と言った。思っていた反応と違うなと顔を見ると、なんと涙ぐんでいるのだ。私が何を聞いたんだと問うとこう答えた。
「短かったしもしかしたら違うかもしれないんですけど……去年死んだ彼女の声でした。2人しか分からない呼び名があるんですが、それで呼ばれて……幸せだったよって……言ったんです」
これが嘘か本当か分からないし、イタズラにしてはよく出来ているものだが、とにかく後輩は憑き物でも落ちたかのようにすっきりとした顔で再度私に感謝を伝えた。

不思議な事があるものだと感心して昼食を食べ終え、仕事に戻った。午後からは忙殺されるのではと思う程に忙しく、しかも最後の1本が大クレームに発展し普段より帰宅時間が遅くなってしまった。
仕方なくいつもとは違う乗り場で次の便を待っていると、何やらソワソワ携帯と時刻表を見比べる人影が。
そして致し方なしといった顔で私にこう尋ねた。
「あの……ここは3番乗り場ですか」
私は驚き、上擦った声でいいえと答えると
「そうですか」
といつも通りの言葉にお礼を足して、そのまま別の乗り場へと歩き去ってしまった。


私は程なくしてそのコールセンター内で部署が変わり、殆ど電話を取る事は無くなってしまった。
しかし相変わらず私個人にはそういう電話は掛かってきており、今度は
「こんな事なら辞めておけばよかった」
と自分の声がするようになっていた。

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