赤い鼻の伝説……

「これ以上は許容出来ないです!こっちだって手一杯なんですよ!?」
と言って強く机を叩いたのは幼馴染のレインだ。
「仕方ないだろう。昔と違って今は人口も増えているのだから、柔軟に対応して貰わねばこちらも困る。第一、契約書にも書かれているだろう『地域・人種・人口を問わず対応する事』『角一本に付き半年、一家族の衣食住の保証』。それを承諾したのは他でも無い君達だ、そうだろうカリブ君」
「いや、まあ、それはそうなんですけど」
俺達は祖父やもっと前の代から、こいつらと雇用契約を締結している。
生きる為に仕方が無かった、と言っていた父は輸送の最中に命を落とした。任務を途中で辞める事は出来ず、仲間は父を隊列から切り離して海に落とした。
逃げ出す者も後を絶たないが、それでもこの仕事を続けてきた。いや、やるしかなかった。


───俺達は普通のトナカイとは違う、特殊

言葉が話せる、というだけでも地球史上において大発見だがそれ以上に価値がある物を、俺達ラップトナカイ族は持っていた。
それはこの「角」だ。
トナカイは毎年角が生え変わるが俺達種族から落角した物は特殊で、粉々にすり潰して欲しい物を願いながらクリスマスの前日に空に撒くと、その欲しい物が目の前に現れる、言わば魔法の角だった。
自分達の角を使って食糧やら調達すれば良いと思うかもしれないが、他の種族がやらないと効果がないふざけた代物だったからそれは出来なかった。まさに神の悪戯、悪魔の仕業だと思った。

その希少さ故に古来から多くの人類に狙われてきたが、ある時の心優しき人が俺達を保護すると提案してきた。


そう、そいつの名前は「サンタ・クロース」。

サンタはフィンランドのラップランド地方に俺達の住処を作ってくれた。
本当に住み良い時代だった、と伝え聞いている。
寝床も食糧もきちんと用意してくれ、かつ、ラップトナカイを狙う人間からも守ってくれた。ソリもこの宙を浮く為の蹄もサンタが角から作ったものだが、サンタは角を私利私欲の為に使わず、恵まれない子供達に必要な物に変えて渡して回った。数は少ないし、地球全土を回るにはあまりに時間が無さすぎたが、子供達の為と駆けずり回った。
先祖は代々この仕事に誇りを持っていた。

だがそれも昔の話……。

今は油あぎった顔を拭きながら肉を頬張るこいつ「サンタ・ルイーズ」が、俺達ラップトナカイの全てを握っていた。
何代目か前になんでもルールを決めたがるサンタの子孫が「雇用契約」なるものを俺達と締結した。最初は別に問題無かったらしいが、このルイーズはそれを悪用しようと考えた。
俺達を家畜の様に増えさせ、角を回収し、宝石や様々な物に変えて換金し懐を温め続けた。
勿論トナカイにその恩恵が回ってくる事は無い。寧ろルイーズが儲かれば儲かる程に俺達の生活はより厳しくなり、逃げ出す者は容赦なく銃弾を浴びせられた。
自分達では武器が作れない。逃げる事も出来ない。
中には自慢の角でルイーズに抵抗した者もいたが、アリと象の対決みたいなものだ。今まさに俺の目の前でルイーズが食ってるのはその抵抗した奴だった。

感情を殺すしか道が無いのだと、皆諦めていた。

ある日、昔使っていた小屋を解体する事になった。恐らくは初代サンタ「サンタ・クロース」が住んでいたのではないかと思う。劣化で不鮮明だが1人の男をトナカイが囲んでいる、白黒写真が床に落ちていてそうではないかと推測しただけだが。

その写真を拾い上げた時だった。
床に蹄型の窪みを発見した。ただ劣化で出来た窪みだと言えばそうだが、奇妙な感覚に襲われた俺は吸い込まれる様にその窪みに足を合わせた。すると
カチリ
と床がなり、背後の床が割れて大きく口を開け始めた。

俺は目を疑った。

もうもうと舞う煙の中、大量の武器が姿を現したからだ。刀剣や銃、それに大型の盾と鎧がずらりと並んでいる。
「これは・・・・・・何なんだ?どうしてこんな所に武器が?それにこの形は」
どう見たって人間用の形じゃない。何と言うか大きい生き物の背に乗っけるような・・・・・・

ふと顔を上げると、壁に何枚かの写真と古い絵が飾ってあった。それは先程発見したサンタの写真に似ていたが、どの写真にいるトナカイも今ここにある武器を装備していた。真ん中に立つサンタも同じく銃を携帯している。
そして・・・・・・

「この絵・・・・・俺、じゃないよな?」

古い絵にはサンタは描かれていなかったが、その代わり、一頭のトナカイが繊細なタッチで、何故か赤い鼻で描かれていた。



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