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鏡の池【都市伝説】



特に名前もない、何の変哲もない溜池がある。元々は農耕用だったのだが、過疎化と共にただ生活排水を垂れ流す為だけになってしまった、どこにでもありそうな池。
だがいつ頃からかその池は「鏡の池」と呼ばれる様になった。藻や浮草、生活排水その他諸々によって鏡と言うには程遠い汚さと反射率なのだが。

月の無い夜に覗き込むと、鏡を張った様に綺麗に自分の姿が水面に映るのだと言う。そこですかさず
「お代わりください」
と3回唱えると、水面の自分の姿が消えるのだそうだ。
そして帰宅する。その際にどんな物にも自分の姿を映してはならない。
カーブミラーや車のフロントガラス、家の窓に果ては誰かの瞳の中にすら映してはならない。
もしも何にも映る事無く帰宅出来たのなら、いつも通りに玄関を開けて、いの1番に水面所でもどこでもいいのでとにかく鏡の前に立つ。
すると驚いた事に本来の自分は鏡の中に取り込まれ、代わりに外見は全く同じで性格の違う自分が現実に存在する様になる。戻りたい時は別の自分が鏡に映った時に「お戻りください」と3回唱えれば良い。

ドッペルゲンガーの類とでも思って貰えればいいだろう。
条件さえ揃えば別に近くの池で試してもらっても構わない。

発祥は1つだが拡散し尾ひれがつくのが都市伝説や噂というものだ。
恐らくは「誰かに人生を代わってもらいたい」とか「死にたくはないが生きたくもない」と考えた人々の妄想から産まれたのだろう。


ただ、1つ注意して貰いたいのは、もし戻りたいと思い直しても、その別人格の自分が「このままでいい」と考えてしまった場合だ。どれだけ願おうが鏡を裏側から叩こうが、別の自分が元の自分がいる鏡に映らなければ戻る事は出来ない。


それでも案外やる価値はあるかもしれない。
人生とは兎にも角にも大変なのだから。

ちなみに私は……

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