くまモンとコウペンちゃんをこよなく愛する、人生の旅人です。一編の小説が人生を変えること…

くまモンとコウペンちゃんをこよなく愛する、人生の旅人です。一編の小説が人生を変えることもある。そんな物語の力を信じています。小学館「第3回日本おいしい小説大賞」で最終選考に『羽釜の神様』が選ばれました。

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愛なんか、知らない。 第3章さよならの家 ①新しい日々

 文化祭が終わって、一週間が過ぎた。  私はすぐには気持ちを切り替えられなくて、流されるまま過ごしてた気がする。  文化祭の前と後では、いろんなことが変わった。  お昼は、私も優さんも明日花ちゃんたちと一緒に食べるようになった。  優さんは相変わらずポーカーフェイスだけど、明日花ちゃんにいじられて、ちょっとずつ心を開くようになったみたい。たまに笑顔を見せるようになった。  児玉さんと滝沢さんは、それまではリーダー格だったのに、今はクラスで浮いている感じ。みんな二人と話さない

    • 愛なんか、知らない。 第2章 ⑬ここが、私の居場所

       文化祭二日目は、ミニチュアグッズを何とか500個ぐらいそろえて販売できるようにした。急いで作ったから、全体的に雑な仕上がりになってるのが、ホントは残念。 「これでも、午前中には売り切れちゃったりして」 「そしたら、どうする? 午後の分を作る?」 「うーん、粘土が乾かないから、ムリかなあ」 「もう今から作っとくとか?」  開場前にみんなでワイワイと準備をしていると、岩田先生が「おーい、みんな、いいか?」と入って来た。 「これから、北埼玉新聞の取材を受けることになったから」

      • 愛なんか、知らない。 第2章⑫もう、戻れない家

         今、分かった。お父さんもお母さんも、「痛み」が分からないんだ。  子供のころ、学校でつらいことがあって泣いてても、「何泣いてんの? 泣いても何も解決しないじゃない」って、お母さんに冷たく言われた。  ホントは、なんで泣いてるのか聞いてほしかったのに。慰めてほしかったのに。  お父さんだって、そんなやりとりを見ながら、「子供にその言い方はないだろ」とかお母さんに言うだけで、私には何も聞こうとしなかった。  お父さんとお母さんは、似てる。二人とも気づいてないだろうけど、人に対

        • 愛なんか、知らない。 第2章⑪空はこんなに青いのに。

           お父さんと並んで歩くなんて、ものすっごい久しぶり。お父さんも、なんか、気まずそうにしてる。 「久しぶりだな」 「そうだね。3か月ぶりだし」 「ちょっと痩せたか? 顔色も悪いぞ」 「うん。文化祭の準備でずっと忙しくて、あんま寝てない」 「そっかそっか。おばあちゃんから、葵が文化祭で頑張ってるって聞いてさ。行ってあげてって言われて」  なんだ。おばあちゃんに言われたから見に来たんだ。  元々、期待してなかったから、失望はしない。そんなもんだろうな、って感じ。 「葵を待ってる

        愛なんか、知らない。 第3章さよならの家 ①新しい日々

        • 愛なんか、知らない。 第2章 ⑬ここが、私の居場所

        • 愛なんか、知らない。 第2章⑫もう、戻れない家

        • 愛なんか、知らない。 第2章⑪空はこんなに青いのに。

          愛なんか、知らない。 第2章 ⑩文化祭、初日!

           そんなこんなで文化祭当日になった。  うちの班の作業は順調に進んだけど、やっぱり凛子さんの班は、昨日までバタバタだった。  結局、児玉さんたちは一度もミニチュアを作らなかった。凛子さんたちと、それで何回もモメていた。凛子さんたちは岩田先生にも相談したんだけど、まともにとりあってもらえなかったみたい。  凛子さんたちのミニチュアは、最後にはみんなで手分けして作ることになった。  私は3日間でケーキ屋のミニチュアハウスを完成させた。  凛子さんたちもケーキ屋を作ってたんだけど

          愛なんか、知らない。 第2章 ⑩文化祭、初日!

          愛なんか、知らない。 第2章⑨夕暮れの教室で

          「そうなんだ、た、大変だね」 「で、私たち4人じゃ無理だから、後藤さん、こっちも手伝ってくれないかな」 「えっ。それって、教えるだけじゃなくて」 「うん。うちらと一緒に作ってほしいの。こっちの班は、かなり進んでるでしょ?」 「それはちょっと、葵ちゃんが大変すぎると思う。こっちでも教えながら作ってるから、うちらも葵ちゃんがいてくれないと困るし」 「じゃあ、一週間だけでもいいから。一緒に作ってくれない?」  明日花ちゃんが待ったをかけても、凛子さんは引かない。 「ええと……」

          愛なんか、知らない。 第2章⑨夕暮れの教室で

          愛なんか、知らない。 第2章⑧みんなでミニチュア作り♪

           その日も、放課後は班ごとに制作をしていた。  うちのクラスのミニチュアは校内でかなり話題になってるらしく、いろんな先生や他のクラスの生徒が様子を見に来る。  美術部の先輩や同級生も、見学に来た。  ミニチュアの指導をすることになってすぐに部長さんに相談すると、「それは大変だね。夏休み中に正門アーチの模型は後藤さんに作ってもらったし、後はこちらで作業をするから、大丈夫だよ」と言ってもらえた。  文化祭に出品する油絵も夏休み中に完成させておいたから、美術部の活動をしなくてよく

          愛なんか、知らない。 第2章⑧みんなでミニチュア作り♪

          愛なんか、知らない。 第2章⑦文化祭の準備、スタート!

          「えーと、そ、それじゃ、今日はクロ、クロワッサンを作ります」  第一声から噛みまくり、声は掠れまくりだ。  今日は、美術室に6つの班のリーダーが集まって、ミニチュアづくりの基礎をレッスンすることになっていた。  もうもう、昨日の夜は全然眠れなかったよお。何十回もレッスンの進め方を頭の中でシミュレーションして、話すことも考えて。  窓の外が明るくなってきたら、「今日、巨大な隕石が学校に落ちてこないかな」なんて、本気で考えちゃったぐらい。        学校、休みにならないかな

          愛なんか、知らない。 第2章⑦文化祭の準備、スタート!

          愛なんか、知らない。 第2章 ⑥女子高生のカバンの中身!

          「え……私のカバンは、何も入ってないから」 「え~、自分が言い出しっぺなのに、それはずるいよ?」 「私のだって、お弁当とスマホと財布しか入ってないよ?」  みんなで期待度100%の目で見てると、水木さんは渋々カバンの中身を机に出した。  水木さんは女の子っぽいものやゴテゴテしてるのが好きじゃないみたい。  ノートもペンケースも何も模様がついてない、シンプルなデザインだ。お弁当を包んでいるのも、まるで男の子が使うような青いナプキン。ペンケースを開けてみると、中に入っているのも

          愛なんか、知らない。 第2章 ⑥女子高生のカバンの中身!

          愛なんか、知らない。 第2章⑤ドキドキのグループ分け

           クラスは6つのグループに分かれて、それぞれの班で作りたいものを話し合うことになった。  たいてい、私はこういう場面では誰も誘えず、誰にも誘ってもらえず、ポツンと一人あぶれる役になる。クラスの誰かがそれに気づいて、「後藤さん、残ってるよ」「うちにくる?」って感じで、何とか入れてもらえるんだ。  ところが、今回は「後藤さん、一緒に組もう」「私も入れて~」と何人ものクラスメイトが机のまわりに集まってきた。  私はビックリしちゃって、ただコクコクとうなずくばかり。  自然と私も入

          愛なんか、知らない。 第2章⑤ドキドキのグループ分け

          愛なんか、知らない。 第2章 ④ミニチュアのレッスン

           たぶん、私は死にそうな顔をしてる。  死にそうって言うか、魂は息絶えたよ、完全に。  おばあちゃんは私の顔を見るなり、「どうしたの!? お腹でも壊したの?」って聞くし……。  ってか、絶望的な時の私の顔って、どんなんなん???  おばあちゃんに文化祭のことを話すと、「すごいじゃない。葵ちゃんにしかできないことね。いい経験になるわよ、絶対」と大喜びだ。 「でも、でも、私、人に教えるなんてムリだよ」 「いいじゃない、学校の友達相手なんだから。文化祭なんだから、気楽にやればいい

          愛なんか、知らない。 第2章 ④ミニチュアのレッスン

          愛なんか、知らない。 第2章 ③ムリムリムリ!

           新学期が始まった。  夏休みに入るころはいろんなことがあってボロボロだったけど、今は何とか、元気。  何でもできるような気がして、久しぶりに会ったクラスメイトに「おはよう!」と自分から声をかけてしまった。  クラスメイトは驚きながら、「お、おはよう」と返してくれた。ただそれだけなんだけど、自分が変われた気がして、嬉しい。  ミニチュアを仕事にできる。  それだけで、私は天にも昇る心地になれる。富士山にだって、エベレストにだって登れそうな気がする(←言いすぎ)。  老人ホ

          愛なんか、知らない。 第2章 ③ムリムリムリ!

          第2章 ②一歩、一歩

           市原さんはすぐにミニチュアハウスをおばあさんに持って行ったみたい。 「ホラ、これ、おばあちゃん、すっごく感激してたの!」  スマホの動画を見せてもらった。  市原さんが車椅子に座っているおばあさんに「今日はお母さんにプレゼント。ジャジャーン」とミニチュアハウスを差し出す。おばあさんは、最初は怪訝な顔をしていたけど、だんだん「これ、うち?」と目を見開いていった。 「そう。お母さんが住んでた家」 「まあ……」  おばあさんは目をパチクリさせながら、部屋を隅々まで見る。 「掛

          第2章 ②一歩、一歩

          第2章 戻れない家 ①はじまりの夏

           今年の夏は、例年よりも暑いってさかんに言われてる。  おばあちゃんとの暮らしが始まってすぐに期末テスト、夏休みとイベント続きで、私はただ流されるだけの毎日だ。  夏休みに入ってからは、週4日バイトに入ってる。おばあちゃんは事務の仕事をしているから、平日は家にいない。私も平日のバイトに切り替えた。  私がお弁当を買って帰らないと、店長さんから「あれ、今日はお弁当はいいの?」って聞かれた。だから、素直に「今はおばあちゃんの家で暮らしてるんです」と答えたら、みんな今まで以上に

          第2章 戻れない家 ①はじまりの夏

          第1章 ⑪さよなら、想い出の家

           あれ。  私はおばあちゃんに渡されたハンカチで顔を拭いながら、部下の人たちの変化に気づいた。  みんな、お母さんを睨んでる。嫌悪感のこもった瞳で。  お母さん、慕われてると思ったけど、もしかして、その逆? 「ね、ねえ、みんな、やめてよ。こんな場でそんなことを言うのは」 「だって、普段は僕たちの意見なんて、全然聞こうとしないじゃないですか。今言うしかないでしょ」  部長さんは「なんてこった」とばかりに目をつぶった。 「つまり、時間外労働を平気でしてたってことか」 「え、で

          第1章 ⑪さよなら、想い出の家

          愛なんか、知らない。 第1章⑩怒りのスイッチ

          「葵、夏休み、タイに来る?」 「へ?」  ふいにお母さんに話しかけられて、私はバカっぽい返ししかできなかった。 「語学留学。あっちで、英語を学べるスクールを探しとくから。夏休み中に英語を勉強したほうがいいでしょ?」  その時、私の中で、何かがプツンと音を立てて切れた。 「行かない」 「え?」 「り、留学なんて行か、行かない。私、行きたくないって、りり留学なんて行かないって、何度も言ったよね?」  私が思いがけず反論したからか、お母さんは目を丸くして固まってる。 「……何、

          愛なんか、知らない。 第1章⑩怒りのスイッチ