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「持たざる組織」をつくるために

「どんな会社にしたいのか?」

そう聞かれると、いつも決まって答えることがある。

「誰もが出入り自由な公園のような場」

青々とした芝に寝そべって本を読むヒト。
楽しげにキャッチボールをするヒト。
ベンチに座り語るヒト。

会社といわれていつも浮かぶ光景だ。

人を管理せず、各々が自律して存在する。どこか一点を目指すために大声をだし、それに鼓舞されて無理をすることがない。豊かだと感じる時間を味わい、積み重ねる。

KUMIKI PROJECTでは、社内SNSで常時情報を共有しあう仲間が10人いる。彼・彼女たちは、全員業務委託契約で、秋田から京都、富山まで、全国各地に散らばっている。

全体ミーティングは社内SNSで完結し、集まることはない。去年までは年1回はみんなで会うことにしていたので、今年もどこかで集まるかもしれない。(写真は事務所。誰も出社して使ってくれないので、一般の人がコワーキング利用していたりする。)

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分解された仕事のステップ

そんな組織で仕事をするために工夫していることがある。まず。仕事の成果を出すために必要なステップを細かく分けた。

次に、ステップごとに必要な時間と単価を設定した。こうすることで、自分が担いたいステップを組み合わせることで、自分の報酬を自分で創りだすことができる。

さらには半期決算で、会社に残った利益の一部を担った役割に応じて配分する成果報酬型の仕組みも作ってみた。社員0の「持たざる組織」。そんな仕組みづくりを実験している。

減っていく正社員。増えていく業務委託契約。これは正直、銀行受けが良くない。デッドファイナンスという銀行からの融資だけで資金調達をしてくるなかで、売上利益が伸びている反面、組織体制については、いつも心配そうな顔をされている。笑


自らの由来で生きる

それでも、あえてこんなことをするには理由がある。

それは冒頭にも書いた、会社を「公園のような出入り自由な場所」にしたいという思いだ。

もう少し噛み砕いて言うならば、「住む場所」「働く時間」「得る報酬」の3つを、だれもが自分自身でコントロールできるような仕組みにしたいという強い思いがある。

原点は東日本大震災。津波の直接的な被害を受けなかった都市部でも、コンビニから食べ物が消えた。トイレの水は流れなくなり、電気で動かしてきたあらゆるものが停電で使えなくなった。

いつもは便利だと思っていたものが、非常時には不便すぎるものに一瞬で変わってしまった。システム化された都市のなかで生きていくことに不安を覚えた人は少なくないと思う。

「どこで、誰と、どう生きていけるなら安心できるのだろうか。」

そう考えたときに、ある疑問が浮かんだ。そもそも、これまでの人生で、自分の意志で選んだものは、一体どのくらいあっただろうか。

「会社の所在地で、住む場所を決めてこなかっただろうか。」
「得られる給与で、食べるものや着る服を決めていないだろうか。」
「労働時間で、趣味や好きなことへの挑戦を諦めていないだろうか。」

自分の人生を自分で選びたい。
まずは住む場所からだ。そう思った。

当時はまだサラリーマンで、毎日、東京の青山一丁目に出勤してた。それでも、いつか住めたらいいなぁと漠然と思っていた「海と山がある環境」を探し始めることにした。

結局、さいたま新都心(埼玉県さいたま市)から、湘南のはじっこの二宮町(神奈川県中郡二宮町)に引っ越すことになる。

会社までは、1時間50分くらい。交通費も高かった。

こんな冒険をOKをしてくれた前職のソーシャル・マーケティング専門のコンサルティング会社であるソシオエンジン・アソシエイツ町野社長には感謝しかない。

最近は「職住近接」が叫ばれがちだけれど、当時の自分は「職住」が離れまくった。通勤は大変になったけど、時間の使い方が大きく変わった。夜も早く退社するようになった。

「住む場所」を変えただけで、暮らし方は大きく変わり、自分で選んだのだから、仕事でも迷惑をかけないように頑張ろうと思えた。

何よりも「自分で決めて実現できた」という当たりまえにも思えることが、とても嬉しかった。湘南あたりに住むって、いつかの願いだと思っていたけれど、やればできるなぁと。

住まいを選べること、食べるものや着るものを選べること、働く時間を選べること。

自分にとってこの「選べる自由」というのは、なによりも大切な価値観なんだと気づく。

「自由」とは、「自」らの「由」縁と書く。

自分のうちにある理由をもとに行動を選ぶことだ。その行動の由縁を、だれかに1mmも委ねてしまいたくない。

自分で決めたのだから、120%の責任と覚悟を持って歩いていきたい。そんな想いが強くなる経験だったと思う。

だからこそ自分がつくることになった組織も、関わる人が自由にいられる在り方を追求したいと思うようになる。もちろん個人とは違い、組織単位で実現しようとすれば、簡単にはいかないこともある。

事務所を都内に持てば、採用はしやすいだろうし、営業もしやすいだろう。でも、住みたい場所を本気で選んだら、僕は都心よりは地域のほうが落ち着けていいと心の声がいっているし、通勤電車に乗りたくない。

そんな状況で、出資による資金調達をしたならば、どうなるだろうか。みんなの速度にあわせてゆっくりやりたいとか、もう少しのんびりジックリやりたいとは、言いづらくなるかもしれない。過去に三菱商事系財団の匿名組合出資は一部受けたものの、あくまで銀行融資を中心にしか考えてこなかったのは、そんな理由もあった。

「とことん自由にいられる在り方を追求したい」と「社会に影響を発揮できる事業の成長を両立したい」というのを同時に達成したい。しかも社会問題を解決するソーシャルビジネスの領域から外れずに「意味を感じられる取組に時間を使いたい」。

もはや、かなりのワガママだと思う。
よくわかっている。笑

「理想と現実は違う」「そんなの理想だね」と言う人もいる。けれど、苦しい現実を受け入れて諦めてるより、どうせ時間を使うなら、理想のためにジタバタしたい。

そんなことを思っていたら、昨年、京都で「ティール組織」について嘉村賢州さんのお話と、「ホラクラシー経営」「自然経営」をされているダイヤモンドメディア株式会社の武井さんのお話を聞く機会があった。

世の中には似た価値観で、すでに組織や働き方の改革に挑戦してきた先人がいるんだとわかり、多いに勇気づけられた。

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(写真は秋田県能代市にいるKUMIKI役員メンバーの湊哲一さん。森のそばだと気持ちよさそう。もともと横浜で工房を持ち、家具職人として活躍していたが、2017年に生まれ育った能代にUターンをした。組織づくりに影響を与えてくれたお一人。)


How から Be へ

「ティール」とか「ホラクラシー」といった話は、「思想」というか「在り方」なんだと最近強く思っている。売上をあげるために組織の活性化を図る「手法」として、取り組もうとすると、きっと上手くいかない。

ティール組織を提唱したフレデリック・ラルーは、組織を5段階にわけて捉える。

|Red(レッド)組織:個人の力で支配的にマネジメント
|Amber(琥珀)組織:役割を厳格に全う
|Orange(オレンジ)組織:ヒエラルキーは存在するが、成果を出せば昇進可能
|Green(グリーン)組織:主体性が発揮しやすく多様性が認められる
|Teal(ティール/青緑)組織:組織を1つの生命体としてとらえる

そして組織を1つの生命体としてとらえる「ティール組織」こそ、ともに働く人々が信頼にもとづき、自律分散で取り組むことで組織の進化へとつながっていく可能性に満ちているという話だ。

が、ここには前提があると思う。

「組織をどうつくるか?」の前に、自分の「在り方」を見つめる必要があると思うからだ。なぜなら、階級のある成果主義の「オレンジ組織」で人生を送ってきた人は、「そうだ、時代はティールだぜ!」と思ったとしても、簡単には外すことのできない「オレンジの色眼鏡」を持っている。

この色眼鏡で「青緑ティール」の組織を目指していくわけだ。無論、それは青緑とはまた違った異様な色味の組織を創りあげていくことになる。

自分の在り方、価値観がオレンジであると気づくこと。まずは、そこに向き合い、変えようとできないならば、望む組織はできないのではないか。例えば、契約形態は多様な働き方を可能とする契約になって、一見自律分散の組織になった気がするが、成果の測り方や成果を発揮するためのルールがガチガチにあるなど、「ティール風味のオレンジ組織」ができあがってしまうこともあると思う。

組織という場を作る人自身が、自らの価値観を見つめ直すこと。自分が本当に実現したい光景や空気感を考えること。そこに辿り着くには時間がかかっても、次第に醸されていくように物事が進んでいくと信じる忍耐力が必要になる。

だから、「ティール組織」という概念は、ツールとして導入できるのではなく、自らの価値観や在り方の問い直しから始まる地道で、ある人にはしんどい作業かもしれないと思う。

先に、KUMIKIPROJECTは「社員0の持たざる組織を目指す」と書いた。書くのは簡単だ。でも、これは、「自立・自律した個人が立ち寄りたくなる魅力的な公園であり続ける」という宣言でもある。

例えば創業者から見たら、企業のビジョンやミッションに共感する人とともに働きたいというのは当たりまえだと思う。一方で働く人にとってビジョンやミッションはその人が人生をかけて背負うほどのものだろうか。ライフスタイルは変化するし、想いも変化して当たり前だ。

だから、こうしたビジョンやミッションを強要せず、出入りは自由で、自立・自律して歩く人々が出逢い、力をあわせてなにかを一瞬一瞬カタチにしていく。

その人にとってのなにかのタイミングがきて、場を離れようとするならば、でていく人を温かく見送れる。

そんな自由に出入りしつつも、その場に集まりたいと自ら思える各人なりの「意味」と「魅力」を見いだせる場所が、会社であればいいなと僕は思う。

加えて業務委託契約というと、完全に個人責任で動くように思われがちだけど、そこも違うと思っている。誰だってケガをしたり、病気をする可能性はあり、そのセーフティーネットはほしいから。だから利益の一部を積み立てて、いざというときに再配分できるルールもこれからつくっていくことになった。

まだまだ、いろんな試行錯誤が続く。けれど、忍耐づよく、

「誰もが出入り自由な公園のような場」を目指して、一歩ずつ進んでいきたい。


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くわばらゆうき| KUMIKIPROJECT

「はじめたい」を「ともにつくる」で実現する空間づくりワークショップの専門集団 KUMIKI PROJECT と、シェア工房を全国にふやす財団KILTAをやってます。

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