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さらば、わが愛 覇王別姫 日記20230803

以前から気になっていた映画で、配信もなかったから忘れていた。文化放送「西川あやの おいでよ!クリエイティ部」で大島育宙さんが、4Kリストア版を紹介していたのを聴いて公開されていることを知った。調べてあら近くの映画館でも観れることがわかってこれは運命だとすぐに予約した。

主人公は京劇のスターふたり、女方の程蝶衣と男方の段小楼。このふたりを通して清朝→日本→国民党→共産党と支配者が変わっていく激動の時代をみていく。日本の日の丸、現在は台湾の旗になっている国民党の赤と紺の旗、共産党の赤い旗、そのどれもが威圧的なものとして登場する。

伝統的な芝居をしている彼ら、有名になり、庶民とは比べ物にならない良い暮らしができていた。でも彼らが名声ををともにしのびのびと演じられたのはわずかだった。伝統は利用され、おもねらねばならず、過去の禍根と一緒くたにされて批判の対象にもなる。

どの軍隊も酷かった。日本軍が市民を並んで立たせて一斉射撃で殺す場面も出てくる。ぼくにとって一番恐ろしかったのは文化大革命だった。知識人や富裕層を罵倒し理屈もないメチャクチャな理由で処刑する映像はドキュメンタリーで見たことがある。ただそれは歴史的事実として見ただけで、この作品で主人公のふたりを通してその光景を目の当たりにするとなんとも言えない重たい気分になった。オーウェルの『1984』でウィンストンがオブライエンに痛ぶられる残虐なシーンと重なるような、事実無根が事実になったり、思ってないことを思っていたと認めざるを得ない。

あらためて文革が怖いのは、指導者たちに焚き付けられて労働者や若者は腹いせや歓喜とともに行動していることだった。これは今の社会にも通じるような気がする。いまの日本だって人は怒っていると思う。その怒りは苦しい状況から脱せない状況が作り出したもので、きっとその人のせいだけではない。社会の仕組みせいではないだろうか。

怒りをどこに向けたらいいかわからないから、SNSで有名人叩いたりする。何も解決はしないけど、手っ取り早い怒りの処理なんだと思う。問題なのは怒りの矛先の誘導だと思う。成り上がりの中古車会社は悪事を働いていたのかもしれないけど、時の権力がしてきたことの方がもっと多くの人が怒るべきことなはず。でもそうはならない。

他にもBLの要素もあるし、豪華な京劇の衣装や化粧や飾りも見応えがあった。映画で再現されたものを観ることはドキュメンタリーで知るのとは違った気持ちでみることができる。伝統芸能の役者という遠い存在ではあるものの3時間近い時間だからこそ感じれることがあったと思う。


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