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note版 哲学ダイアグノーシス 第二十二号 シュタイナー(2)

<note版>

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<哲学ダイアグノーシス>

第二十二号 シュタイナー(2)


12感覚論

今回も前号に引き続き、R・シュタイナーの思想についてお話します。今回は特に「感覚」についてのシュタイナー独自の考え方についてお話しましょう。

感覚といえば、第14号でメルロ=ポンティについてお話した際、「共通感覚」という考え方をご紹介しましたね。ここで簡単に振り返ってみましょう。

自然科学の考え方においては、人間の感覚は視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚の5つに分けられ、おのおのの感覚には固有の働きだけが認められます。しかし、そうしていったんばらばらに分けてとらえられたものを集めてみても、本来の人間の感覚のあり方を「全体」としてとらえることはできないのです。わたしたちが対象を知覚する際にはいくつかの感覚が同時に働いているものです。たとえば、刃物のするどい先端を「見る」と同時にそれが皮膚に刺さった時の「痛み」を感じてしまいますし、ロウソクの炎を「見る」と同時にその「熱さ」を感じてしまいます。そこで、5つの感覚を統合する感覚というものが考えられなければなりません。それが「共通感覚」です。メルロ=ポンティは身体について論じる際に「私とは一個の永続的な共通感覚である」というドイツの哲学者ヘルダーの言葉を援用しています。メルロ=ポンティによれば人間は、ひとつひとつの感覚をばらばらに用いて、特定の感覚の対象として切り取られたかたちで、つまり感覚の側と同じようにばらばらにされたかたちで世界を知るのではなく、5つの感覚を全体として総動員して、同じように全体としてとらえられた世界と向き合っているのです。

さて、シュタイナーです。

シュタイナーは通常5つだと考えられている感覚に独自の考え方によって7つの感覚を加え、人間には12の感覚がそなわると説きました。感覚についてのシュタイナーのこのような考え方は「12感覚論」と呼ばれます。そして12感覚論はシュタイナー思想の入り口であるとも言われます。つまり、シュタイナーの思想の全体を理解するための入門編のようなものだと考えられる、ということです。またシュタイナーは、感覚は私たちが世界を、そして、自分自身を知るための「窓」であると考えました。そしてその考え方を、教育や医療に応用したのです。

ところで、感覚を5つから12に増やすということは、感覚を細分化する、つまり、より細かく「部分」に分けているということのようにも思われるかもしれませんが、そうではありません。このことについては、後に立ち入ってお話しますが、ここでごく簡単にお話しますと、実際には、シュタイナーもまた、メルロ=ポンティと同じように、さまざまな感覚は全体として働くのであり、世界を全体としてとらえると考えたのです。

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