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note版 哲学ダイアグノーシス 第八号 ソフィストたち

<note版>

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<哲学ダイアグノーシス>

第八号 ソフィストたち


みなさんは、sophisticateやsophisticatedという英単語をご存知でしょうか? 英和辞書には「洗練された」とか「都会的な」といった意味が載っています。これらの言葉は、「Sophist ソフィスト」という語を語源とするもので、ソフィストとはソクラテスの同時代に、古代ギリシアで活躍した知識人たちの職業名です。この「Sophist」という言葉からは「Sophism」という語も生まれましたが、こちらは「詭弁」や「屁理屈」など、良い意味の言葉ではありません。派生した言葉がこのように両義的であるのと同じように、ソフィストと呼ばれる人々への評価もまた、当時から両義的でありました。

ソフィストと呼ばれる人たちは、「レトリック(レトリケー)」という技術を人びとに教えて報酬を得ていました。レトリックとは、人々を説得するための技術、すなわち、「雄弁術」とか「弁論術」と訳される技術です。
このような技術が尊ばれた背景には、当時のアテナイの文化的・政治的状況がありました。

ペルシア戦争において、大国ペルシアに勝利して以来、アテナイでは人類史上初めての民主制が、そして、悲劇や喜劇に代表される文化が、花開きました。当時、ソフィストたちの多くは、教養と才気に満ちた紳士として、人々に尊敬されていました。彼らの多くは諸国を遍歴して見聞をひろめてきた外国人であり、まさに文化的にも政治的にも最盛期をむかえていたアテナイの人々に新たな知識や考え方を伝え、歓迎されたのでした。

ソフィストたちは、弁論術を教えただけではなく、人間の世界(ノモス)に関心を抱いており、政治、法、文化、そして人間について、鋭い洞察と豊かな研究成果を残しました。従来の哲学者たちが自然(ピュシス)に関心を抱いていたのにくらべて大きな違いです。そして、ソフィストたちと同時代に活躍したソクラテスもまた、人間を哲学の対象としたのでした。

文化的にも政治的にも最盛期を迎えたアテナイでしたが、ペロポネソス戦争においてスパルタに敗北したあたりから、急速に堕落してゆきました。
たとえば、政治的決定が下される場面においては、雄弁によって民衆を扇動する者たち、いわゆるデマゴーグがあらわれ、民主制は健全には機能しなくなってゆきました。また、文化面においても、古き良き伝統が失われつつありました。

このような状況の中、言葉によって人々をうまく説得することができれば、政治の世界で指導者となることができたのですが、まさにそのような技術を教える人々であったソフィストたちの評価も、変ってゆきます。というのは、さきほどもお話したように、ソフィストたちは主に若者たちに弁論術を教えることによって彼らに政治の世界への道を開いてあげた反面、授業料が高額であったために実際に弁論術を教わることができたのは裕福な家の子弟に限られることになり、結果として政治の世界で活躍できるかどうかは金しだい、ということになってしまったのでした。そういったわけで、高額な授業料を取るという点でソフィストは批判され、さらには軽蔑されるようにもなってゆきます。

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