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『君たちはどう生きるか』

「君たちはどう生きるか」の今更感想。


公開日に見に行ってずっと感想書きたかったけど、ずっと言葉にできなくて驚くほど時間が経ってしまいました。

当時は、ポスタービジュアル以外何も情報がなく、きょうび珍しくまっさらな状態で映画館に行ける貴重な機会で、

「見てきた」と言うのすら野暮と思ってしまうくらい、個人的には食らってしまって、心の中で咀嚼して気持ちを熟成させるのに時間がかかる作品でした。




賛否あると聞いているけど、私にとっては、

多分これが初めて「2回映画館に同じ作品を見に行った初めての映画」になりました。

そして初回も2回目も、全く同じシーンで、ぼろぼろ泣いた。



どこのシーンかというと、それは3箇所あって、

中盤わらわらという「もののけ姫」のコダマをもっと可愛くしたような生物が出てきて、

それが天に向かってDNAのような螺旋を描きながら登っていくシーン、


それから、終盤「あっちの世界」が崩壊する時に大叔父さまが、もう時間がないと主人公に伝えるシーンと、


最後に、全て終わった後にかかる主題歌「地球儀」をバックに、流れるただのブルーバックのエンドクレジットで、

ぼろぼろ止まらない涙に自分でも驚きながら、周りの迷惑にならないように必死で嗚咽を抑えた。



どうしてこんなに感動してしまったのか、最初の最初は自分でもよく分からなかった。

から、考えてみた。



中盤のわらわら達のシーン。

わらわらが何を表しているのかはっきりとは分からないけど、それこそコダマのような純粋で無駄な感情を持ってない生まれたての子供のような生物なんだろうなというのは、あのビジュアルも相まってなんとなく分かった。

それが多分天へ旅立ってる?=現実世界に生まれようとしてるのかなとあのシーンを見て感じて、生命の神秘みたいなものを感じて思わず泣いてしまった。


その一部が燃やされたり、ペリカンに食べられたり、純粋さの塊の子供たちが先に生きてる生物に食いつぶされてる様子は現在本当に起こってることを見るようで本気で悲しかった。たぶんあれはその涙でもあった。



映画を見終わってから、この作品にまつわる考察サイトや動画をいくつか見た。共感するものしないものあったのはひとまず脇に置いて、面白かったのは一人一人それぞれに感想がばらばらだったことで、それは当たり前のことなんだけど、その感想のばらばら加減は他のジブリ映画より強かったような気がする。

特に終盤の解釈は沢山の意見があった。


なにしろ「君たちはどう生きるか」なんてタイトルの映画、これまで以上に何がしかの強いメッセージがあるに違いないと、いつも以上に何を食らってもいいよう覚悟して映画館へ足を運んだつもりだった。

ジブリ作品、というより宮崎駿作品が見られるのも、きっと残り少ないと思うから、なおさらだった。


そんな覚悟をして行ったのに、特に終盤は自分で想像していたものを遥かに上回る衝撃に打ちのめされてしまった。

タイトルからもなんとなく想像もできていたし、宮崎さんの本当の意図はいまだに分からないんだけど、

あぁこれは多分、遺言を言ってる…とそう思えて仕方なく、それを感じれば感じるほど涙が溢れた。




小さい頃、YouTubeもサブスクも無かった頃、そういう子供は多かったと思うが、

私はジブリ映画と一緒に育っていて、

VHS果てはベータのような古いビデオテープに録画された宮崎駿アニメを、何度も巻き戻して擦り切れるまで見た。


私と兄弟達の部屋は、親のいるリビングと壁を挟んで隣同士になっていて、

親が何とは言わずにビデオデッキにどれかジブリ作品を選んで再生すると、

それはほとんどイントロクイズみたいになって、両親がリビングでどのジブリ映画を流したか、

飛行船のプロペラの回転音が聞こえてくると、『ラピュタだ!』と言って部屋を飛び出し、

吹き荒ぶ風の音がしたら『ナウシカだ!』と叫んでリビングのソファに陣取り、その後2時間はテレビにかじりついていた。


学生に成長すると、当たり前のようにジブリの制作ドキュメンタリーも見た。

その仕事ぶりと物凄い天才性と、頑固さと深い優しさに胸を熱くしながら大人になって、いま私は絵を描く仕事をしてる。



そんな子供時代からずっとそばにあった宮崎駿の作品。

その最新作の中で、俺に残された時間はもうない、次の時代が来る、君たちはどう生きる、と言いながら、

積み上げた名作の積み木を崩して、子供の頃見続けた楽しかった世界が崩壊してしまうのを見た。


こんなに悲しくて切ないことはなかった。

家族がいなくなるような喪失感と、でもやっぱりその表現の流石さに涙が止まらなかった。


散々泣き終えた後、「ジブリブルー」と呼ばれる抜けるような青空と同じ色のブルー一色の背景の中で、

製作陣の名前と一緒に、主題歌の「地球儀」が流れる。


その曲と一緒に流れて消えていく、よく知る名だたるアニメーターたちの名前と多くの製作者たちの名前。

このただのエンドクレジットがどのシーンよりも感動した。

別の大手アニメーションスタジオのスタッフの名前もこれでもかと出てくる。

詳しい背景は分からないし駆り出されただけかもしれないけど、初めて見た時

一線で大活躍しているクリエイター達が「宮崎さんのためなら」と集まった、そんな風に感じられて仕方がなかった。


そして米津玄師の地球儀。

米津玄師の起用は個人的には驚きだったけど、

声優陣も含めてやっぱり次世代にバトンタッチしている感じは作中と地続きな気がして、

なんとも言えない、熱いでもほんのちょっと淋しい気持ちになった。


「地球儀」の歌詞は、私の個人的な思い込みもあると思うけど、

スタジオジブリと宮崎さんのこれまでの歩みを思わずにいられない歌詞だった。


「風を受け走り出す 瓦礫を越えていく
この道の行く先に 誰かが待っている
光さす夢を見る いつの日も
扉を今開け放つ 秘密を暴くように」


「雨を受け歌い出す 人目も構わず
この道が続くのは 続けと願ったから
また出会う夢を見る いつまでも
一欠片握り込んだ 秘密を忘れぬように」



エンドクレジットが流れている時、周りに泣いている人はそんなにいなく静かな印象だった。

だからこそ嗚咽が出るのを手で必死に抑えていたんだけど、

やっぱり当然のことながら感想はそれそれで、後に見た賛否の否の意見も分からないではなかった。


ただ私はこれまで見てきた数々の宮崎駿作品、高畑勲作品と、それにまつわる子供時代の思い出、

ジャングルジムのてっぺんにほうきを乗せて跨って真似したこと、トトロのお腹を父親のお腹に乗っかって再現して遊んだこと、

美しい絵とストーリーに入り込んでいたあのリビングでの思い出の全部が、本作のストーリーよりも重く流れ込んできて、

「本当にもうさよならしなくちゃいけないんだ」という思いで大泣きしてしまった。


そういう角度で見てしまったせいか、映画本編が面白いかと聞かれると、何と答えていいのか分からない。


でも子供の頃からジブリ作品に触れていて、もし宮崎駿さんを敬愛する人であれば見て欲しい、というかあの迸るメッセージを受け取るべきだと強く思った。


いつか来る宮崎さんとの別れと楽しかった子供時代との別れ、それを感じずにはいられない映画だった。



そのあと「いま次作作ってるらしいよ」と人に聞いて、大きくずっこけたわけだけど、「作りながら死にたい」って良く仰っているもんね。

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