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未だ梅雨

 七月の一四日。午後7時を回ったころ。
 まだすこし明るい。
 今年の梅雨明けは一週間以上先のようだ。連日、重たげな雲が空を覆っている。地面はいつも水浸しだ。
 部屋の電気はつけてない。生成り色のシンプルなカーテンを微かな光が通過して、部屋の中をわずかに照らしている。
 一番光を放っているのはスマホの画面だけ。そのスマホの画面を黒い指がなぞっている。
 今日は早番だから、いつもより少し早く帰ってきた。
 まだ食器洗いも、洗濯物も畳んでないけど、カップ麺を食べて、ベッドに横になっている
 外からジーッと蝉の音がした。一匹だけで鳴いている。
 その音を聞いただけで、気分は梅雨明けの夏本番に連れて行かれる。
 蚊取り線香の匂いと、遠くの花火の音。祭りの音。
 チーンと仏壇のりん。
 いくつもの波のような蝉の音。

 いきなりプツンと、蝉の音が止んでしまった。
 なんだ、もうお終いなのか。
 ザァザァと窓の外に雨が降ってきた。半袖が少し寒い。

 窓から雨が降ってくる天を仰ぎ見た。
 未だ梅雨。
 雲の上、青い空を想いえがいて、静かにまぶたを閉じる。

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