山城
山城が好きなのは、今が平和だと思えるからだ。
そんなに詳しいわけではないが、近所に戦国時代に使われた山城の跡があって、時々散歩にいくことがある。
私の住む地域は徳川軍と武田軍が戦った場所らしく、それによる逸話も残されている。
大昔、戦いがあった場所も、今は林や野原、茶畑や公園になっている。春になると桜が咲いて花見客で賑わっている。山菜を取りに来る人もいるし、遠足にくる子どもたちもいる。初夏には農家の人たちが茶摘みをしている。
血で血を洗った凄惨な場所も、いつかは緑にのまれていく。
まるで私たちの諍いなど取るに足らないものだと大地に言われているようだ。
どんな戦いも誰かが傷つく。小さな口げんかでさえも。
どっちかだけ、誰かだけが傷つくということはほとんど無いと思う。
誰かから傷つけられた痛み、誰かを傷つけた痛み。許してもらえない痛み、許せない痛み。傍観していた痛み。気づいてもらえなかった痛み、気づいてあげられなかった痛み。どうしようもできなかった痛み。
どんな痛みも土と緑におおわれて、深い深い眠りにつく。
何かのキッカケでその痛みが表面に出るときにはもう大丈夫になっている。
そう思わせてくれるから、私は山城が好きなのである。
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