01ヘッダー

“かぞく”の概念を広げる「お父さんバンク」の試み

昨年秋に「お父さんバンク」というWebサイトを公開しました(現在は解散)。世の中には「得意技」を持て余している“お父さん”(性別、年齢、既婚・独身は問わず)がいて、それを必要としているシングルマザーに繋がる仕組みがあれば⋯⋯と、シングルマザーの友人の思いつきを、みんなで形にしていったのです。

夏ごろにお父さんバンクのアイデアを聞いて、Webサイトがつくれる人を探していたこともあり、すぐに連絡してみんなで会うことになりました。言い出しっぺが「ラムピリカ」の店主だということを、そこで初めて知りました。

好きなものを注文して払いたい金額を帰るときに賽銭箱に入れる「自由料金」を採用している喫茶ラムピリカ。ずっと行ってみたい場所だったので、思わぬところで念願が叶いました。

今は藤沢の実家に滞在していることもあって、打ち合わせ以外にも、(めったにない)開店日にも通いました。ラムピリカについては、以下にまとめたのでご覧ください。

お父さんバンクの呼びかけ人である千秋さんは、次のように言います。

「家族ってどうしても閉鎖的になるので、その枠を取り払って、みんながもっと力を抜いて、自由に手を繋げるような世界になったらいいのに。結婚という制度や、法律的な家族の枠組みにとらわれずに、その外側に拡張していけたらいいですね。
 そしてなにより、わけのわからない大人の集団がよってたかって自分ひとりのために集まってる! なんて状況は、子どもにとって最高にうれしいのではないかな」

Webサイトが完成するまでの間にも、お父さんバンク活動は始まっていました。千秋さん自身、子どもの誕生日をみんなで祝ったり、合唱コンクールの応援を呼びかけていました。僕も、その合唱コンクールに参加してみました。

DIYが得意な僕は、ラムピリカの押入ベンチコーナーを、広げるとベッドになるように改造しました。どういう方法がいいのか、何パターンか考えてみて、あとは現場合わせのインスピレーションで形にしていきます。

画像1

また、外に濡れ縁のようなウッドデッキのようなスペースが欲しいとのことで、同じように様々なパターンを考えましたが、最終的にホームセンターの枕木をコの字にして側板を固定しただけで完成。3本に分かれているので、車を停めるときに動かしやすく、目の前の公園にこのベンチを持っていくこともできます。

画像2

そして、10月にWebサイトが完成して、お父さんバンクが正式にスタートしました。サイトの構成も、みんなで集まってアイデアを出しあいました。チャートを入れることや、カートに入れるシステム、「このお父さんをチェックした人は、こちらのお父さんもチェックしています」という表示、レビュー機能など、Amazonをライバルにしようと盛り上がりました。

僕もお父さんとして登録しています。

画像3

ある日、キッチンとクローゼットに棚を作りたいという依頼を受け、ひとまず下見に行きました。ついでにクラウドファンディングの相談にのって、ついでにウクレレのレッスンをしてきました。自分が得意なことで、誰かに喜んでもらえるのは、本当に楽しいんですよね。

画像4

先日、「家族らしさって何だろう?」と考えたときに、こんなことを思いました。

現代社会は「競争」や「奪いあい」が多いけど、それに対抗するように最近はいろんな形のシェア(シェアハウス、カーシェアリング等)が増えてきました。でも、何かを「分かちあう」のではなく、自分が貢献できることを見つけ、その場を「満たしあう」ような生き方ができたらいいなと思います。そしてその先にあるのが「喜びあい」の世界。それこそが、まさに「家族らしさ」なのではないでしょうか?

“助け合い”ではなく“喜び合い”の世界観

子育て支援サービスなら、その対価としてお金をもらったり、うまくいかなかったときの責任をとったり、いろんな制約や課題が出てくるけど、お父さんバンクはそういうサービスではなく、ただのプラットホームです。「頼ろうと思ったら頼れる場が存在している」という、心のよりどころでもあるのです。

お父さんバンクを利用してくれたシングルマザーが、こんなことを言ってました。

「ある日、学校帰りに娘がこんなことを言ったんです。『ママ、私にパパがいないことで友達に何か言われても、私にはお父さんバンクがあるから幸せだよね』って」

その話を聞いた関係者は、思わず涙しました。

また、ウクレレを教えに行ったシングルマザーが「家ごと家族ごと提供する」と、お父さんバンクに登録してくれました。「兄妹、姉妹体験ができる」「ワンオペ育児が体験できる」というのがユニークです。

画像5

ウクレレ教室の続きを頼まれていたこともあり、逆に「週末お父さん体験」を申し込んでみました。

イチカワ家に着き、「ただいま〜」と言って玄関を開けます。その日はちょうど節分だったこともあり、夜は節分の鬼になることが決まり、子どもたちに鬼のお面をつくってもらいます。「鬼ってどんな顔だっけ?」と聞かれ、ツノがあって、怖い顔をしていて、ヒゲがあると、アバウトなヒントを伝えたら、「こんな感じ?」と下絵を持ってきてくれました。絵が完成したら、画用紙のサイズを僕の顔に合わせて、目に穴を開けたり、いろいろ工夫してくれました。

その間、ママはひとりの時間を持ちたいと、パソコンを持ってどこかのカフェへ。3時間くらいだったけど、子どもたちは鬼のお面づくりのあとはテレビを見ていたので、僕はとくにやることもなく、自分のパソコン仕事をしてました。ふと見ると、洗い物がたまっていたので、それを片づけておきました(掃除は嫌いだけど、洗濯と洗い物は好き)。

ママが買い物をして帰宅したので、夕飯の準備を始めます。恵方巻きブームには反対なんだけど(笑、今回はみんなで楽しくということで、各自でお好みの恵方巻きをつくることにしました。

画像6

お母さん歴が長いのに、ママは太巻きをつくるのに苦手意識があるようでした。でもそんなに難しくないし、うまくいかなくても口に入れば同じだからと、まずは挑戦してもらいました。「思っていたよりも簡単にできた」と言ってました。

僕の座右の銘は、以下の言葉です。

やってみるとあんがいやれるもんだ
やらないといつまでもできないもんだ

画像7
画像8
画像9

食後の鬼退治も終わり、僕が持参した映画DVDを観ることになりました。持参したのは、以下の作品。

ブタがいた教室(2008、109分)
センセーショナルな内容で賛否両論を巻き起こした実話を映画化! 6年2組のクラスを受け持った新任教師は、クラスでブタを飼い育て、卒業時に自分たちで食べるという驚くべき授業を始める。名前を付けられ、可愛がるブタに感情移入していく子供たち。そして迎えた卒業式。クラスを二つに分けた激論と答えが出される⋯⋯。

サバイバルファミリー(2016、117分)
矢口史靖監督、小日向文世主演によるサバイバルムービー。東京に暮らす平凡な一家、鈴木家。ある朝突然、電気を必要とするすべての物が使えなくなる。1週間経っても電気は戻らず、不自由な生活が続く中、冴えないお父さんが東京を脱出する決断をする。

はじまりへの旅(2016、119分)
奇想天外な一家の絆を描いたロードムービー。ベンと6人の子どもたちは、アメリカ北西部の森の奥で現代社会から離れて暮らしていた。ある日、入院中に亡くなった母の葬儀と最後に残したある願いを叶えるため、ニューメキシコへ2400kmの旅に出る。

マイケル・ムーアの世界侵略のススメ(2015、119分)
銃規制や対テロ戦争など、アメリカ国内に巣食う問題を取扱い、権力を批判し続けるマイケル・ムーアが、ヨーロッパで“侵略”の旅を敢行するドキュメンタリー。ムーアに課されたミッションは、世界各国の様々な「幸せ」の形を根こそぎ略奪し、アメリカに持ち帰ることであった。

画像10

怖いのやかわいそうなのは見たくないという長女。『ブタがいた教室』が見たいという次女(長女は見たことがある)。姉妹で相談した結果、ジャングルで生活している家族の話に興味があるとのことで、『はじまりへの旅』に決まりました。ちなみに三姉妹は最近、ジャングルで生き残るための訓練をしているそうです。

パソコンの画面を前にして、布団の上にみんなで座ります。僕の胡坐の上に三女、左腕に次女、右腕に長女を抱きかかえ、その外側にママが寄り添います。映画を観ながら「このまま本当の“家族”になってもいいな」と思いました。でもその一方で、(アクティブホームレスなので)養育費を稼ぐことができない、いつも一緒にいられないという気持ちが現れます。

映画もクライマックスに近づき、お母さんが亡くなったあと、お父さんが子どもたちを祖父の家に預けるシーンになると、長女がしくしくと泣き始めました。もしかしたら、離れ離れになってしまったパパのことを思いだしているのかもしれません。

僕はそっと彼女の頭をなでることしかできませんでした。するとしばらくして、彼女は僕の手を取り、自分のハートの辺りに置いたのです。ヒーリングの意識を手の平に向けながら、この物語はどういう展開になるのか思い返してました。最後はハッピーエンドで終わり、夜更かしをした一家は、それぞれの想いを抱いて眠りにつきました。

翌日、僕がずっと続けてきたFREE HUGSをしたいとママが言うので、画用紙でハグボードをつくります。子どもたちも誘ってみましたが、次女と三女は家にいたいと言うので、長女を連れて3人で江ノ島に向かいました。

あまり風もなく、陽射しが暖かく、フリーハグ日和です。江ノ島に向かう長い橋の入口で、FREE HUGSを始めました。

画像11

僕は呼びかけないスタイルですが、長女が手すりの上に立って、大きな声で呼びかけます。

平和はここから私から! FREE HUGSしませんか!


そのかわいさに誘われて、次々にハグしに来てくれます。時間にしたら30分くらいでしたが、けっこう満足感を得られました。場所によって1時間でひとりがハグに来るか来ないかということもあります。

画像12

その後、片瀬江ノ島駅前にあるクアアイナでハンバーガー食べて、駅前の手づくり雑貨屋で、パパ&ママともにお似合いの帽子をゲット。川沿いを歩いて帰るときに、長女は「私に合うものがなかった」と残念がっていました。

本音を言うと、川沿いを歩いているときに、手を繋いで歩きたかった。でもそれをしたら、近所の友人たちや学校の同級生たちに見られたときに、なんて言われるかわからないですよね。

帰り道、Goodman Coffeeでコーヒーを飲んでいるときに、長女が複雑な心境を話してくれました。お父さんバンクのヘビーユーザーでもあるイチカワ家は、複数のお父さんにヘルプを頼んでいます。すると、見たことがない男性とママが一緒にいるだけで、学校で「新しいパパなの?」と聞かれるそうです。

ママは言います。

「お父さんバンクっていうのがあって、私にはたくさんのお父さんがいるんだって、正直に話せばいいんじゃない?」

その後、カフェにやってきた友人家族に、長女は「今日はお父さんバンクのお父さんがいるんだ」と言っていたのが、ほほえましかったです。

画像13

お父さんやお母さんは、ひとりでなくてもいい。自分の子どもも、他人の子どもも、同じように関わることができたら。たくさんの大人とたくさんの子ども、老若男女がごちゃまぜになって、みんなで支えあって暮らしていけばいい。

世間一般にいわれる父親の責任を考えずに、一緒にいられるときだけでも、心から楽しめる“父親”が何人もいたらどうでしょうか? 遺伝子の繋がりがある自分の子どもがいてもいいけど、遺伝子とは関係ない子どもたちの父親にもなってみたいと思います。それがひとつの家庭だけではなく、複数の家庭だったら?

「かぞく」とは、喜びあえる関係
一緒にいたいと思える人のかたまり

以前、ポリアモリー(好きな人が複数できることを容認するスタンス)であることを宣言したときに「港々に恋人をつくればいいんじゃない?」と言われましたが、47都道府県それぞれに“家族”がいるのも、楽しそうだと思いました。今は「アクティブホームレス」と名のっているけど、「ホームレスお父さん」という、新たな活動もおもしろそうです。

あなたにとって「かぞく」とは何ですか?
もっと境界線を広げて、
みんなで楽しい平和な世界を目指してみませんか?

よかったら、以下の記事もご覧ください。


基本的に、noteでいただいたサポートは、ほかの方の記事のサポートに使わせていただいてます。