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『ボクたちの人生はSNSで変わった』【浅生鴨×燃え殻トークイベント】【後編】 (文:こたにな々)

『伴走者』刊行記念 「ボクたちの人生はSNSで変わった」
浅生鴨さん × 燃え殻さん トークイベント


------------------------2018.06.17 青山ブックセンター本店

浅生鴨  Twitter: @aso_kamo  ✖️  燃え殻  Twitter: @Pirate_Radio_

”ツイッター” というSNSがきっかけで、話題と共に作家の道に進むことになったお二人の共通点を掘り下げたトークイベント後編です。

前編はこちら!! ↓↓↓

https://note.mu/kurashi_no_nana/n/nb50fdd956bef

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「SNS上の自分と本当の自分って分かれてますか?」


鴨:僕はね、全然分かれてます。でもそれは今ここに居る僕とも分かれてますし、さっき裏で二人で話してた時とも分かれてるし、家に帰って猫と遊んでる時とも分かれてるし、人は場面場面で常に変わるし別人になるので、そういう意味で ”SNSで何か書いてる自分” と ”書いてない時の自分” は分かれてる。誰かに向かって何かを言おうとしているので、そこはたぶん違いはあると思います。

燃え殻:僕はですね、けっこう分かれてないです。出切る限り分かれないようにしようと思ってるのと、格好付けようと思ってやるんですけど、目の前に人が居て格好付けようっていうのと同じような感覚でいますね。初対面だったり会った事ない人に「おめぇ」みたいな突っ込んで行く人いるじゃないですか。それってほんとにこういう形でお話させて頂いたら絶対に言えないでしょ。よく「会ったら良い人だった」っていうのあるじゃないですか、そういう人が俺いちばん嫌いで。最初から良い人でいりゃあ良いじゃないですか(笑)

鴨:僕は会ってもダメだったっていうのが理想かな。

燃え殻:そしたらあんまり変わってないじゃん。

鴨:そう。

会場:(笑)

燃え殻:これは考え過ぎちゃうんですけど、SNSのアカウントでミランダ・カーのアイコンだとしても、その人が政治的な事を言うとミランダ・カーが日本の政治を語るみたいな凄い事が起きるじゃないですか(笑)でもその人が僕に何か言ってきてたとしても初めて会う人、例えば今日こういう形でお話するみたいな感じで返すように出来る限りしてる。そういう風にしないとダメな気がします。僕はSNSの恩恵は絶対に受けてるから。で、SNSの中だけのキャラクターがあって...みたいなのはやめた方がいいなぁと思っていて。でも、じゃあよく本名でやれよって言う人居るじゃないですか。

お客さん:田中泰延さんですね。よく分からない名前とアイコンじゃなくて、ちゃんと個人の正体現せよ!って(笑)

燃え殻:え!!ヤバい!俺のことじゃん!(笑)鴨さんじゃないですか!

鴨:人ですらない(笑)

お客さん:燃え殻さんとかは別だけどって言ってました。

燃え殻:本名とかでやったら(会社に)すごい怒られちゃうから、本名じゃない風にしてるけど、それでも今までの色んな人生をですね考えるとですね...(笑)本名じゃない場合良くないですよ。

鴨:僕が分けるっていうのは、要するに人は相手によって、つまり一貫性なんて無いんだよって思ってるから。あえて分けようってしてるわけじゃないんだけど、たぶん分かれてるだろうなってくらいの考え。

燃え殻:僕は一生懸命こう...等身大...って嘘くさいけど(笑)出来る限りそういう風にやりたいと思ってます。

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「あんまり本は読まない?」


鴨:燃え殻さん、本は...?

燃え殻:ほんとに読まないです。鴨さんは ”文章を書く人間は読んでない物は書けない” っていうのが根底にあるんですよね。で、僕はそれを横で聞いた事があって、その度にうん...って返事はしたんですけど、絶対にそうじゃないって僕は思ってます。

鴨:読んでないと書けないっていうか、”読んだ物が書く物を作る”これまで読んで来たものが書くものになって行くと思うんで。

鴨:燃え殻さん、雑誌はよく読んでるでしょ?

燃え殻:ちゃんと言いますよ。雑誌もパラパラ...(めくる程度)僕はたぶん何人かの人とすごく話すんですよ。中学生ぐらいからの友達が居てずーっと同じような話を20年くらいしたりとか。たぶん話してた事を覚えてるの、人と

鴨:ずっと、記憶してる?

燃え殻:なんて言うんだろ...うちの父親が大阪に単身赴任してて、夏休みに家族で妹と僕と母で父の単身赴任していた家に行ったんですよね。行ったらまず部屋がすごい奇麗だったんです。部屋が奇麗で良かったぁって思ったら、うちの母親が凄い不機嫌になったんですよ。で、僕小4だったんですけど、その不機嫌になってる母親がすごい分かって、今でも顔まですごい覚えてるし。うちの父親が居たたまれなくて「氷雨」のカセットテープをかけたの。家族で「氷雨」を聴きながら、うちの母親がほうじ茶を淹れるみたいな絵も覚えてるんですよ。で、うどん屋さんに連れってくれて、その後大阪城に連れてってくれて、帰る新幹線の所でうちの父親が外から「またね」って言ってるんですよ。うちの妹は小2だったんですけど「またね」が面白くて僕も妹もケラケラ笑っちゃったんです。パッて見たらうちの母が泣いてたわけ。で、それもすごい覚えてる。あ!泣いてると思ってハッと見たら父も号泣してたんですよ。僕は気持ちがすぐに来ないから、えっ!ってなってパッと見たらうちの妹が泣き始めちゃってて。家族4人のうち3人が泣き始めちゃって。ちょっと泣けて来て、バーって新幹線が動き始める感じで、うちの父親はもう追ってこない。そしたら妹が母に帰ったら電話しようねって慰めてたのね。俺その絵が昨日の事みたいに覚えてる。

燃え殻:あの小説もそうなんですけど、所々、場面場面の色々な物はこれは一番良いんじゃないかなぁって入れていったんですけど、すごく根底に流れてる。「ラブホテルの中に居ると俺達世界で二人っきりみたいだな。全員死んじゃったんじゃないかな」みたいな事言ってた事とかすっごい生々しく覚えてて。それを紙に写した...転写したっていう。

鴨:記憶の映像を?

燃え殻:という風に僕は思っているんですけど、鴨さんが言ってる事と違うから「鴨さんそれってどう思う?」っていうのを今日は聞きたい。

鴨:でも僕も書く時はどっちかっていうと映像を文字に落とすので...ただ僕は記憶じゃなくて完全に空想の世界で見聞きしたものをそのまま書いてるだけなんで、たぶんそのリソースが違う。記憶をベースにしてるか妄想をベースにしてるか。手法としては同じじゃない?

燃え殻:鴨さんも(仕事が)映像ですもんね。僕は映像と言うよりもTVの端っこに居ただけですけど。

鴨:でも元々美術の人でしょ?だから視覚的な所なのかなぁって。

鴨:燃え殻さんは学級新聞を作ってた。書く事は嫌いじゃないんですよ。

燃え殻:学級新聞を作ってるって言った時にすごく思い出して来たことがあって、足が速い人がいて、水泳が得意な人がいて、勉強が得意な人がいて、可愛い子がいて、かっこいい男がいて、先生のモノマネが上手い人がいて、クラスにどんどんどんどん役を取られてくじゃないですか。で、そうなった時になんにも無いんですよ。俺は何もないから別にいいや早く帰ろみたいなそんな引き際は良くないんですよ。どうにかしたいなっていう風に思ってたんですよね。

鴨:顕示欲はあるわけね。認めて欲しいって。

燃え殻:あるんだと思う。自己顕示欲がめちゃくちゃあるかもしれない。たぶん、認められなかったっていう事が沢山あったんですよ。

燃え殻:だから僕今でも同窓会とか全然呼ばれないですよ。

鴨:大丈夫、僕も一回も行った事ない。大丈夫、なんとかなるよ。

燃え殻:あ、なんか心療内科来たみたいな(笑)

会場:(笑)

鴨:ラジオに投稿してたのもそういう事ですよね。

燃え殻:そう。バンドをやるとかそういう気持ちにはなれない恥ずかしい・認められい・恥ずかしい・認められたいの連発。

鴨:誰にもバレずに認められたい。

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『ボクたちはみんな大人になれなかった』  装丁の話


鴨:研究して来たんですけど、これタイトルがね、まず箔押しなんですよ!カヴァーはこれヴァンヌーボですよね紙!

燃え殻:ほんとに研究してきましたね(笑)

鴨:高いんですよ。ポスターとかでヴァンヌーボ使うって言ったらダメって言われるんですよ。良い紙です、これ。

燃え殻:良い紙にしてくださいって言いました。

鴨:表紙の撮影は?

燃え殻:Cakesの人が。で、新潮の装丁部の人にデザインをして頂いて。

鴨:けっこうデザインに口出しする派なんですか?

燃え殻:フォントはしました。箔押しは「しますか?しませんか?」って言われて「します」って。

:箔押しってねコストかかるんですよ...

燃え殻:でも僕はたぶん人生で...なんかこう...あるじゃないですか、”皆人生で一冊本が書ける” って言うじゃないですか。ハンカチ落としみたいにそれが僕に回って来たと思ったんですよ。人生に一回一冊の本が書けると言うなら何を書くかって事を僕なりに真剣に考えて。その時に全部後悔しないようにしたいなって思ったんですよ。これ言い過ぎかなぁとか思ったけど、それも全部やろうと思った。

燃え殻:人生に一冊しか本出せないとしたら紙良くしたくないですか?

会場:(笑)

ページいっぱいいっぱいの目次

鴨:目次の前のタイトルはちっちゃいんですよ、ところが目次はめっちゃデカいんです!(笑)このデザインがすごいなと思ったんですよね。

鴨:で、この次のタイトルはデカいんですよ。

燃え殻:デザインに関しては編集の人と一緒に決めました。僕よりも編集の人がこうしたいと。

鴨:柱がセンターじゃないですか。ノンブル(ページ数)の下に柱が来てるんですよね。三角形で支えてるみたいになってて、これがまた面白いなぁって

燃え殻:これはほんとに鴨さんそうなんですけど。僕は今ツイッターだったり小説だったりとかって読むんじゃなくて見るっていうのがすごいデカいと思ってて。見て、なんか良いなぁみたいな風に思わなかったら読まないんじゃないかって思うんですよね。

燃え殻:こないだ頂いたとある作家さんの小説があって、その人は「最初の50ページはちょっとエンジンかかってないんですけど、そっから面白くなるんで」って言われたんですよ(笑)でもそれ僕には言えますけど本屋さんで50ページ合わなかったら買わなくないですか?

燃え殻:やっぱりその、ツイッターでも思ってるんですけど、漢字とひらがなの比率みたいなのがあったら、ひらがなが多い方が良いなぁとか。それと同じで絵として僕見ちゃうんですよね。だから小説のデザインだったりとかそのバランスみたいのだったりとか面白くなかったらダメだと思った。

鴨:図形として?

燃え殻:そうです!そうです!

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「燃え殻さんは歌詞を書いている。」


鴨:一回出来上がった小説の中にツイッターの中から強い言葉を持って来てムリヤリ入れ込んでいったの?

燃え殻:ムリヤリ入れ込むって決めて入れたんで、これって前後であんまり合ってないみたいな、すごいあるんですよ。でもリズムの方が取りたくなって。リズムが良いなら良いじゃないか!って思ったんですよ。合ってないけど分からなくもない、ぐらいに試して放り込んでいったんですよ。それが僕としては気持ちが良かったっていうか、音楽でいうとちょっとそこだけ転調させていくって事だったりとか、そういった事を最終的にガーってやって、ものすごい歪な波動にしていきました。

鴨:形容詞の使い方も比喩の表現とかでも延ばす方向より縮める方向が多いじゃないですか。

燃え殻:小説読まなくて、ヤだなって思う小説って比喩が長いんですよ。

鴨:なんで燃え殻さんの文章ってこうなるんだろうってずっと考えてて、昨日の夜やっと分かったのは、燃え殻さんってね、歌詞書いてると思うんですよ。いっぱい音楽を聴いて、小説の代わりに歌詞を見てきた人じゃないかと思ったんですよ。

燃え殻:そうかもしれない。

鴨:頭の中に色んな日本語の歌詞が沢山入ってる。限られた音数の中に入れてく作業じゃないですか。歌詞書いてるような感覚で書いてるのかなって。そう思って、燃え殻さんの文章を数えてみたんですよ。日本語だと5・7・5に入りがちなんですよ、リズムとして。でも燃え殻さんは5・7・5が嫌いで拍が多いの。5・8・8・5とか5・8・8・6とか、普通だったら一拍入れないよねってとこに足すのよ。スピード感が出るよね。これがこの人の文体なのかなって。

燃え殻:そういえばラジオをやった時も、尾崎世界観さんと西寺郷太さんが来てくれたんですけど、小説家の人を呼ぼうとは思わなかったんですよ。小説家でお話をして仲良くなった人が居ないって思って。ミュージシャンの人ばっかなんですよね。それもそういう事なのかなぁ...

鴨:もしかしたら小説を書いてないのかも、音楽書いてるのかも。

燃え殻:そうかもしれない。逆に文芸っていうのは、どういう...

鴨:文章の芸だから、文章をいかに美しく見せるか、芸術としての一文を極められるのが ”文芸” じゃないかなって気はするけど。でも燃え殻さんが意識してるのはそっちじゃないよね。リズム感だったり、グルーヴだったり...みたいな。でもそうしながら全体を通してのテーマはどっちかっていうとコンプレックスだったり、悔しさだったり。

燃え殻:でもそれ、JーPOPぽいスね。

鴨:JーPOPぽいよね。

燃え殻・鴨 : JーPOP...!!!



●あとがき●

長文お読み頂きありがとうございました!

トークショーとしてはまだ中盤なのですが、ケイクスさんの正式なレポートもあると思いますので私の方は一番好きなお話で締めと致しました。

書き起こしていて思ったのは、誰にも知られたくない教えたくないような気持ちになったくらい物事が確信に迫っていて大切だったのと、私の中で何かがひらめきが繋がったのを実感した事です。でも書き起こしてしまった。

燃え殻さんにサイン会で自作のZINEをお渡ししたのですが、それがコーネリアスのライヴレポだったばっかりに爆笑してもらえて嬉しかったです。

文:こたにな々 (ライター) 兵庫県出身・東京都在住 https://twitter.com/HiPlease7

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