「田舎のリアル」と楽しく向き合うには ~制約こそ最大のヒント。

「シマシマしまね」のあるはたひよどりの民家は、「NPO法人くらしアトリエ」の事務所でもあります。

もともと事務所として借りていて(雲南市の「空き家バンク」という制度を利用しました)、そこを「島根」をテーマにした施設「シマシマしまね」にリニューアルしたという経緯があり、

私たちにとってこの民家は事務所でありアトリエでありお店であり…まさに「拠点」なのです。

およそ10年前、この民家を事務所として借りたい、と伝えたところ、近隣の自治会の皆さんによる会議が急きょ開かれることになり、空き家バンクの担当者の方と一緒に集会所に呼ばれました。

季節は冬で、寒い中、外灯もない細い道を通って集会所に向かうのはとても心細かったのを覚えています。

どこの誰かも分からない「NPO」とやらが、住むんじゃなくて事務所として借りたいらしい、というニュースは自治会の皆さんにはけっこうなトピックスだったらしく、「そんな訳の分からん者たちに貸していいのか」という意見もあったみたいです。そうなると、「家を借りる」といっても大家さんと私たちの話ではなく、対「ムラ」、みたいな構造になってくる。「…夜にみんなで集まって話し合うほどのことなのか」というのにまず驚き、「田舎のリアル」の一端を覗き見た気がしました。

会ではまず自治会の皆さんに「自分たちは女性が運営するNPOである」というのを説明しましたが、たぶんNPOの概念は分かってもらえなかったと思います。(今も理解されているか怪しい。)

市内の違う場所でホースセラピーを行っているNPOと混同されて、「馬を飼っとるのか」と言われたことを覚えています…飼ってません…。

そんな時、空き家バンクの市の職員の方が、「菓子折り」と「地元新聞にたまたま掲載されたくらしアトリエの記事のコピー」を持参してくださっていたのが、すごく効きました。「地元の新聞」というのがもう、最強!!でした。「○○新聞に載っとるなら怪しいものではなさそうだ」というのが、どんな説明より効果的だったのです。

新聞やテレビが情報源の大半である地方の限界集落では、インターネット上でいくら発信力があっても、完全に無力です。ここの集落では今でも、ほぼ皆さんがアナログな世界に生きておられるのでなおさらです。自治会の皆さんには「インターネット」は魔法であり、私たちは魔法を操る怪しい人たち、と思われていたのかもしれません。でも、「新聞に載った」となると評価が一変する。体裁や、公共的なものに評価されていることが大切。これも「田舎のリアル」を如実に表しているのではないでしょうか。

そんなこんなで「まあ、使ってくれるならありがたい」という自治会の総意を頂き、晴れて民家を借りることができましたが、今のようなスタイルになるには長い年月がかかりました。

何年も人が暮らしていなかった家は湿気がひどく、あちこち壊れていて、しばらくは「物置」としての機能しか果たしていなかったのですが、少しずつ少しずつ、畳をフローリングにしたり、天井や壁を塗り替えたり、照明を代えたりして直していきました。

<Before>

<After 10年後>


修繕の際には自治会の中に大工さんや塗装屋さんがいらっしゃってとても良くして頂きました。

<Before>

<After 10年後>


<Before>

<After 10年後>


<Before>

*座敷童ではありません。スタッフの子供です(今は小学校高学年になりました)

<After 10年後>

今でも、例えば雨どいが壊れたとか、トイレの鍵が開かなくなっちゃったとか、何でか分からないけど蛍光灯がつかないとか、ことあるごとに自分たちだけでは解決できず、隣のおじさんや近所の大工さんにヘルプを求めています。これも、田舎ならでは。

建てる人、直せる人、育てる人、みんながちゃんと集落の中にいて、そこで生活が完結できる、それが昔のコミュニティのあり方だったんだなあ、と感じることができます。

皆さんの力を頂いて10年が経ち、この場所はとても気持ちの良い空間になりました。


時々仕事をしながら、お客さまを待ちながら、「あーいい場所だなあ、ここに決めてよかったなあ」と幸せな気持ちになります。

でも、日々「田舎のリアル」はしみじみと感じています。一番は草刈り。ああ、草というのはなんであんなに伸びるのが早いのでしょうか。毎年春先になると「今年こそは草に負けないぞ!伸びる前に刈るぞ!」と意気込むのですが、そんな私たちの思いをあざ笑うかのように、雑草たちはすくすくと育ち、いつの間にかもう手におえないところまで伸びてしまいます。

一応自分たちでも刈払機を持っているのですが、手前のところをちょろちょろっと刈るのが精いっぱい…。それだけでも腕がぷるぷるして、キーボードを打つ手が震える…仕事になりません。草刈りは、移住された方々も皆さん閉口されていることだと思います。

見たことのない虫やヘビ、タヌキ、イノシシなど、生けるものとの共生、というリアルもあります。以前空き家のリノベーションを専門にしている方に「もともとヘビや虫のほうが先にいたんだから、人間がそこにお邪魔させてもらってるという気持ちで挑まないと」と言われて、そうかぁ、と納得したのですが、いやそれにしても向こうも邪魔しすぎじゃない?と思うこともしばしば。

裏の畑にせっかく植えたサツマイモがイノシシのごはんになって全滅したこともありました。今はもう、畑をするパワーがない…でもいつかちゃんと畑をやりたいなあ、という気持ちだけは持っています。


そんな思いまでしてなんでこんな場所で…と言われることも多いのですが、確かに同じ島根でも例えば松江の中心街にオフィスがあれば、こうした問題も皆無で、そういった意味でのストレスはなくなると思います。

でも、自分たちが市街地にオフィスを構えて仕事をしている…という姿を想像しようとしても、できないのです。

この環境を自ら選んだ理由は、「島根らしい場所で仕事をしよう」と考えていたから。その思いが、今の場所(ザ・島根な風景と土地柄)に導いてくれたのだと思います。この縁を、いまは大事にしよう、そして思い切り楽しもう、と思っているから、逆境もおもしろく感じることができるのです。

それに、ネットさえ繋がっていれば、特に仕事上で不便はありません。

クラウドサービスや、Dropbox、Slackなどがあるおかげで、事務仕事やデザインの仕事はずいぶんと捗るようになりました。

だけど、環境はとてもスロー。いわゆる「スローライフ」とは明確に違うけれど、自分たちにはこの暮らし方・働き方がとてもフィットしていて、思いっきりのびをして深呼吸したくなるような、ストレスフリーな環境を与えてくれるのです。

そもそも「田舎」に対するロマンがない私たち。

都会からの移住者でもないし、子どもの頃から自然に親しんで育ってきたこともあり、田舎のリアルは容易に想像できることでもあります。だから、ある意味「おもしろい対象」として地方ならではの不条理や不便さを楽しむことができ、それが自分たちの強みになっているのでは、と思うことがあります。

「制約こそ最大のヒント」というのが自分たちの信条のひとつなのですが、この土地で活動を続けていくことはまさに逆境を楽しむことであり、制約をプラスに変えていくことなんだと感じています。

自分たちが「島根らしいところで仕事をしたい」と考えた勘のようなものは間違っていないはず。

ここ雲南市のちいさな限界集落で田舎のリアルを感じつつ、最新のツールを使って島根を発信する…こんな楽しいことはない!と日々、わくわくしています。




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時々、コラム。

1週間に一度程度更新していきます。 島根で活動するNPO・くらしアトリエが考える「未来を見据えた暮らし方」。 明るく、時に凛として未来に向かい、素敵に歳を重ねられる島根でありたい。 そのために持っておきたい、私たちなりの考え方を綴っていきます。
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