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山菜に対する見解の相違~ロマンと現実。

4月も半ばを過ぎ、ここのところ産直市などに行くと、わらびやたけのこなど、山菜が目につくようになりました。野菜の種類が少ない今だから余計に目立つというのもありますが、こうした山菜を目にすると、自然と気持ちがそわそわしてきます。

この時期になると、思い出すことがあります。

それは、以前拠点にしていた雲南市大東町の「はたひよどり」にいた頃のこと。
地元に住んでおられるお隣のおじさん・おばさんと私たちとの「山菜採り」に対する思いの食い違いが、今でもスタッフとその話題になるほど印象的なのです。

ちょうど今くらいの季節、わらびが道沿いに出始めた頃に、「おー!わらびが出てる!」と、お隣のおじさんにワクワクしながら「今度、わらびを採っていいですか?」と聞いたことがありました。勝手に道の山菜を採ることは良くないと思ったし、お隣さんの敷地にもたくさん生えていたからです。

いいよ、と言われたのでとても楽しみにしていたのですが…翌日、隣家に伺ったら、きれいに揃えられ、紐で綺麗に束ねられたわらび(おそらく朝早く採ったもの)が置いてあったのです。
なんだこれは、と思っている私たちに、おじさんは満足そうな表情で「採っといたよ」とひと言。

私たちは「わらびを採るという(田舎ならではの)行為がしたい」とお願いをしたのですが、おじさんはそれを「わらび(という食べ物)を得たい」という意味にとった、ということのようでした。

おじさんにしてみれば、わざわざ苦労して採集せずとも、自分が採っておいてあげようという親切心からしてくださった行動なのですが、私たちはその「わざわざ採る」という行為にこそ意味を見出していたんですよね。

この、お互いの気持ちのすれ違いというか、「モノ」と「コト」の価値観の違いというか…「あー、そうか、そうとらえるのか!」と思いながら、「ありがとうございます……」とわらびを受け取った記憶があります。

山菜は、もちろん買って料理して味わうのもこの時期の醍醐味のひとつではありますが、やっぱり自分で「採る」というのが何より楽しい!

田舎ならではの特権のようなものだと思います。そして、都市部に暮らす人々にとっては田舎への憧れを見える化したもの、ともいえます。

ですが、「はたひよどり」に長く暮らしている方々、特にお隣のおじさん・おばさんにとっては、山菜を採るというのは「やらねばならない、億劫な仕事」のひとつに分類されているようでした。
山菜採りにある種のロマンを抱いて活動拠点にあの土地を選んだ私たちと、毎年毎年嫌でも採らねばならない地元の方々。お互いの思いや行為の意味が全然違っていて、驚いたのでした。

また、同じく春の山菜である「ふきのとう」についても興味深い現象が…。
隣のおじさんが採って渡してくださるふきのとうが全部「成長しすぎている」のです。

思うに、山菜と言えば私たちにとって「春の兆し」であり、長い冬を耐え抜いた先にあるご褒美、のような意味合いなので、土の中から黄緑色のふきのとうの蕾が覗いているのを見ると気持ちがはやり、道沿いをじーっと凝視しながら「あった!」と言って採集します。

こういうのを見つけるとテンションが上がります。

ですが、お隣のおじさんは「やれやれ、また生えとるわ」というテンションなので、蕾が花開いて目立つようになってから「あー、しょうがない、採るか…」という感じで採集されているようなのです。

だから、いただいたふきのとうは全部花が開いていて、まるでブーケのよう。蕾のものをいただくことはほとんどありませんでした。

これは、たけのこも同じ。「もうちょっと出始めの頃のやつのほうがおいしいんだけどなあ…」と思いながら、これもありがたく頂いた思い出があります。

こんな感じで、ビニール袋にたくさん入れてくれるのですが…。
本当は、小さめなのをカゴに入れて愛でたいのです。

「春の兆しを楽しむ」とか「えぐみもこの時期の風物詩」とか、「どこに生えてるか探すのが楽しい」とか、そういうロマンチックな考えは、お隣さんには一切なかったのです。潔いほどに。

そう言えば、お隣さんの畑には毎年たくさんの「つくし」が生えるのですが、「今年もたくさん出てるね」と言うと心底嫌そうな顔をされていたのも印象的でした。「つくしなんて食べない」「雑草でしかない」と顔をしかめておられ、スタッフの子どもたちが嬉しそうに摘み取っているのを不思議そうに眺めておられたものです。

拠点が変わって頻繁に訪ねることができないのですが、今年もきっと「あー嫌な季節が来た」くらいのテンションでつくしを眺めておられるんだろうなあ…と思うと、なんだかおかしい。

今年は新しい拠点である「オープンスペース.美南」さんの庭でふきのとうを採らせていただいたのですが、やっぱりはたひよどりのおじさんを思い出してしまいました。

田舎暮らしでは季節のものを追いかけるのはとても大変で、スローライフとは名ばかりで、本当はすごく忙しい。

お隣のおじさん・おばさんのあの行為、あの表情…あれこそが「田舎のリアル」だったんだなあ、と思うと、なんだか感慨深いです。

私はといえば、子どもの頃からわらびやふき、たけのこなど山菜が大好き!なので、はたひよどりのふきを株分けして庭に植えたのですが、今ではもう、ちょっと迷惑なほどにはびこるようになりました。おかげで、庭でふきのとうもふきも採ることができ、とても贅沢な春を味わっています。

山菜、採るのも食べるのもこの時期ならではの楽しみです。体験できる方は、ぜひ!

「島根礼賛!ようこそ島根へ 2024春」では、山菜のほか、島根の自然や風景をたくさん綴っています。良かったらご覧くださいね。


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