倉重 公太朗

日本の雇用社会はどうあるべきかを考える企業労働法の弁護士。倉重・近衛・森田法律事務所代…

倉重 公太朗

日本の雇用社会はどうあるべきかを考える企業労働法の弁護士。倉重・近衛・森田法律事務所代表。 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会執行役員 著作はこちら https://amzn.to/2E0vocP https://kkmlaw.jp

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最近の記事

新型コロナウィルスで進む働き方改革

IT企業を中心に在宅勤務の動きが広がっています。働き方改革と言われ、4月から中小企業を含めて労働時間の上限規制全面適用が控えている中、本当に働き方が変わっている企業はどこまであるでしょうか。 「テレワークとかできるのはIT企業だけだよね」と思っていませんか? なんとなく、「定時に出社せよ」という雰囲気になっていないでしょうか。 そもそも、出社しなければできない仕事はどれほどありますか? 工場で現に人がいる必要がある業務は何か、Iot化で人が出社しなければならない範囲を

    • カネカ騒動から学ぶ、日本型雇用の変化対応力

      育休取得後の配置転換、退職前の有休取得などを巡るTwitterの投稿から、カネカの問題が取り上げられている。 私は、この問題についてメディアからの情報以外に内情を知るすべはないが、専ら企業サイドで労働法を扱う弁護士として、日本型雇用慣行の変化を感じざるを得なかったので、その点を記しておこうと思います。 下記記事にもあるように、日本型雇用においては、解雇権が制約されている代わりに人事権が広い。つまり、転居を伴う配置転換であっても、病気や親の介護など、特別の理由がない限りは裁

      • パワハラ法制化と「イラッ」と来たら6秒待つことの重要性

        先日、ハラスメントの中でも一般によく聞かれる、パワーハラスメントに関する法改正が成立しました。 実は、これまでパワハラについては直接規制する法律がなかったのです。同じハラスメントの類型として有名なセクハラは男女雇用機会均等法が、そして、妊産婦に対するハラスメントとしての「マタハラ」は男女雇用機会均等法及び育児介護休業法でそれぞれ規制されていました。 しかし、パワハラについては直接的な法律がなく、民法という一般的法律の中の不法行為(民法709条)により、「社会通念」を逸脱す

        • 限定正社員で日本型雇用は変わるのか!?

          限定正社員という雇用の類型があります。 日本の正社員の場合、一般的には職種・勤務地が無限定であり、職種変更や勤務場所の変更が行われることがあります。 一方で、地元志向の高まりなどから転勤に対する拒絶感、キャリアパスの観点から職種変更に対する抵抗感などが高まり、従来型の日本型雇用慣行とどのように整合性を図るのかが問題となっています。 そこで冒頭の記事ですが、これまでも特に法律で禁じられたりはしていないため、勤務地や職種を限定する、いわゆる「限定正社員」(職種限定の場合、ジ

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          掛け声だけでなく法整備を~真の副業解禁へ~

          「副業解禁」という言葉を昨年あたりから目にするようになりました。実際は、副業については法律で禁止されているものではなく、企業が就業規則により禁じる旨の規定を設けるところが多かったというのが実態です。 昨年、厚生労働省作成の「モデル就業規則」でも、副業許可制の規定が削除されたり、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」などが作成され、そういった空気感が副業解禁という空気感を醸成しています。 また、現実的にも、働き方改革で減った残業代を外で補うというニーズがあるのでしょう。

          掛け声だけでなく法整備を~真の副業解禁へ~

          終身雇用はいつまで頑張って維持できるか

          経団連会長やトヨタ社長が終身雇用の雇用慣行に対する懸念を立て続けに表明しており、時代の移り変わりを感じます。 トヨタ自動車は過去最高益を更新していますが、たとえ、現在最高益をあげたとしても、遠くない未来においては自動車産業と情報通信・AIと移動が融合して、これまでのように、優れた『車屋』というだけでは生きていけなくなる、という危機感が背景にあるのでしょう。 産業構造が激変する中で、 トヨタでさえも存在意義を賭けて生き残りに必死な中で、どんな企業が『終身』という40年後のこ

          終身雇用はいつまで頑張って維持できるか

          急速に広がる給与前払いサービス、法的論点は?

          給与日よりも前に、働いた分だけの給与相当額を日払いでもらえるようにするサービスが人気となっています。 借入金の支払や、急な支払い、子供関係の費用や、外国人の場合本国への送金など、急な資金ニーズは根強いものがあり、「日払い対応可」というのが採用における訴求力の一つになっています。 本記事のように大手のところが手がけるサービスもあれば、そうでないところもあり、また、そのサービス形態は様々ですので、利用する企業としてはコンプライアンス上の問題が気になるところではないでしょうか。

          急速に広がる給与前払いサービス、法的論点は?

          70歳雇用努力義務の絶望と希望

          政府は15日、希望する高齢者が70歳まで働けるようにするための高年齢者雇用安定法改正案の骨格を発表した。企業の選択肢として7項目を挙げた。70歳まで定年を延長するだけでなく、他企業への再就職の実現や起業支援も促す。企業は努力義務として取り組まなければならなくなる。 現在、定年後再雇用は年金支給開始年齢の引き上げに合わせ、原則として65歳までの定年後再雇用(若しくは定年延長か定年の廃止)措置を講ずることが義務となっています。 本ニュースで検討されているのは、現行の65再雇用

          70歳雇用努力義務の絶望と希望

          70歳までの雇用延長、いったいなぜ?

          現在、60歳定年の後、原則として65歳までの雇用が高年齢者雇用安定法により義務づけられています。 これが、今後70歳までの雇用延長となるようです。最初は努力義務から始めるとのことですが、早晩義務化されることは明らかでしょう。 なぜ、このような雇用延長が度々行われるのでしょうか。 安倍晋三首相は3日の日本経済新聞のインタビューで「65歳以上への継続雇用年齢の引き上げを検討する」と述べた。現在の高年齢者雇用安定法は、希望者に対して原則65歳までを「継続雇用年齢」として働ける

          70歳までの雇用延長、いったいなぜ?

          安定を求めて「働く」ことの意味

          若い人がキャリアを考えるとき、大企業に入って、正社員になって、あるいは公務員になって一生安泰と考える人は多いように思います。 確かに、これまでの日本型雇用では、正社員をメンバーシップとして終身雇用で定年まで面倒を見るという社会構造がありました。しかし、今後10年・20年の社会の変化は、これまでのものとは次元が違うでしょう。 高度経済成長の時は「過去の延長線」にある仕事をすれば良かったのです。これまでやってきたことをより効率よく・より早く・より安く、より良い品質で・・・それ

          安定を求めて「働く」ことの意味

          AI採用差別を防ぐために企業人事が留意すべきこと

          米アマゾン・ドット・コム(AMZN.O)が期待を込めて進めてきたAI(人工知能)を活用した人材採用システムは、女性を差別するという機械学習面の欠陥が判明し、運用を取りやめる結果になった。 AIを人事領域に用いるHRテクノロジーは採用・配置・健康領域など、様々な場面で活用されています。 日本においてもエントリーシートをAIを用いて分析する企業や人の主観により評価が変わりうる面接について、テクノロジーの力を借りて均一化・効率化しようという動きが活発です。 そんな中、テクノロ

          AI採用差別を防ぐために企業人事が留意すべきこと

          パワハラ、初の法制化で何が変わる?

          セクハラ・パワハラ・マタハラなど、ハラスメントを防止しようという動きは企業において一般的なものになりました。 また、これらに限らず、アルコールハラスメント(アルハラ)、アカデミックハラスメント(アカハラ)、時短ハラスメント(ジタハラ)、告白ハラスメント(コクハラ)など、「○○ハラ」という言葉をよく聞きます。 しかし、「○○ハラ」という概念が無数に広がりを見せる中、セクハラとマタハラについては別格の位置づけです。 なぜならば、セクハラは男女雇用機会均等法で、マタハラは同法

          パワハラ、初の法制化で何が変わる?

          ゴーン会長逮捕にみる従業員への対応の変化

          既報の通り、日産ゴーン会長逮捕のニュースに揺れています。 本件の全容はまだ解明されていませんが、報道によれば、本件は ①関係者からの内部通報を端緒としていること ②司法取引が行われたのではないかということ という二つの特徴的な点があります。 本件に限った内容ということではなく、このような企業犯罪は司法取引がなければ、闇に潜ったままであったという見方もできるでしょう。 その意味で、今後は従業員対応という意味でも、企業対応を捉え直す必要があります。 今までであれば、

          ゴーン会長逮捕にみる従業員への対応の変化

          LGBTと生産性

          新潮45が休刊(事実上廃刊でしょう)というニュースがありましたが、売り上げに繋げるために過激な言動をするという傾向はたまに見られますのでLGBTに関する議論を整理しておきました。 ちなみに、売り上げを上げるために過激なことを書くということは、過激な内容を喜ぶ方が一定層いるということでしょう。そのため、この問題については明確に考えておく必要があると思っています。 新潮45の記事においては、痴漢したい人や万引き癖のある人と比較して、「どちらも生きづらい世の中」などと述べていま

          LGBTと生産性

          “生産性”を考えよう

          働き方改革において、「生産性向上」という言葉をよく聞きませんか。 要は、働き方改革により、労働時間が減るから、その分生産性を上げることにより効率的に働いて、労働時間を短縮しても、以前と同等かそれ以上の成果を出そうという文脈で使われることが多いように思います。 しかし、そこでいう「生産性」とは具体的には何か、考えたことがありますか? 何ができれば「生産性が上がった」と言えるのでしょうか。これを明確にしないままに「生産性を上げろ!」というのは単に「頑張れ!」と行っているのと

          “生産性”を考えよう

          女性活躍と働き方改革

          女性活躍推進法など、女性の就労環境を整えようという動きは随分と広がってきましたが、記事にもあるように、育児を抱える女性に対して配慮をすればするほど、育児の無い方の就労環境が悪くなるという反比例関係があり、この不満を是正しようという動きは「資生堂ショック」とも言われました。 そもそも、この問題は女性に限りません。これからの日本においては人口減少というのは確定した未来です。 そのため、生産労働力が減ることもまた確実です。 その中では、様々な「制約」を抱えた社員、それは育児だ

          女性活躍と働き方改革