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あの立ち入り禁止の池で見たものに関して

これまで文芸誌「棕櫚」に四作の短編を書いてきた。今月発刊される「棕櫚 第七号」に掲載されている僕の短編小説「第四池」では、初めて実体験をもとにした作品を書いた。書き出しはこうだ。

 第四には絶対に近寄るなよ

 僕が小学生の頃に住んでいた東北の田舎町には、山の斜面に造られた市民公園があった。五月に入ると、ゆるやかな傾斜に沿って順番に並んだ三つの人工池の周辺は桜で満開になり、散り落ちた花びらで水面が桃色に染まるのが綺麗で、僕は春が来るのを毎年心待ちにしていた。

序盤に登場する池のたもとに建った精神病院や玄関に置かれた古いコーラの自販機、山道をさらに歩くと立ち入り禁止の「第四池」があって、そこで水死体を見た事。なんとなくサスペンス風にはじまるこの作品だが、そこまでは全て実体験をもとにして書かせてもらったものである。

小学生の頃は釣りが好きだったのもあって放課後や休日は池の付近で遊んでいたので、今でも実家に帰ると散歩がてら様子を見に行ったりする場所である。作品の中でも同じ様に、主人公が少年期を過ごしたその場所を再び訪れ、そこから物語が奇妙な方向に捻れていくという作品になっている。

後半の捩くれっぷりを楽しんでいただきたいのでその先はここでは詳しく書かない。ベタなホラーやサスペンスにはなっていないので、もしかしたらがっかりさせるかもしれないし、ある種の嗜好をもった方には楽しんでいただけるかもしれない。あえて言うなら、今回の棕櫚第七号のテーマである「おわりとはじまり」を意識しながら、自分が少年期に無意識に犯していた幾つかの過ち、そういう事への償いとなるような作品になったかなと、思っている。

ちょっと不気味だけど怖い話ではないです。是非読んでね。

(挿絵 なかの真実)

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