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食糧自給率百パーセント、という「夢」

某SNSでの話題を元に、一度だけちょっと深く考察するだけの文章です。
今回は、私が言ってもなんにもならないことについて、それでも現状分かっていることを「単なる現実」として書いていきたいと思います。

食料自給率百パーセントを目指すことは可能。
だが日本は燃料と肥料が自給できない。
なら結局、それらは輸入に頼らざるを得ず、シーレーンが閉ざされれば日本は簡単に干上がる。

そんなポストを拝見しました。

その通りです。そして、他の観点からも、この「食料自給率百パーセント」という夢について、語ってみたいと思いました。

まず。
我々おじいちゃんの年代の人間は、まだ高度成長華やかなりしとき、日本の食料自給率をがりがりに削られる「外圧」を経験した人たちがたくさんいます。

まずは、陰謀論から。
戦後、アメリカは余剰生産されていた小麦の押しつけ先に日本を選び、給食をパン食とするよう(または、アメリカの提供する小麦を学校給食用とするよう)日本に圧力をかけた、というお話。
実はこれは、源流をたどると「日本侵攻 アメリカ小麦戦略」という、70年代後半に出版された本がその発生源なのではないか、と思えます。
実際のところは、戦後の連合国で東西分裂が起こり、西側に日本を引き込むため、(あくまで人気取り戦略として)日本に優先的に小麦を融通し(そりゃ、当時はアメリカでコメなんて作ってねぇですから)(←間違い。アメリカの稲作には300年ほどの歴史があり、また商業的な稲作も1912年には既に始まっていたとのこと)救済の意味で学校給食にその小麦を使ったパン食が選ばれた、ということらしいです。

事実、アメリカが圧力をかけた云々の資料はみつからず、逆に、いくつかの他の書物で、上記のようなアメリカが日本を「助けた」旨の記述が見られます。
パン給食はアメリカの押しつけ、という陰謀論を信じている方は、どうも認識を変えた方が良さそうです。

次に、陰謀論じゃなく、ほんとの話。
バブル華やかなりし80年代後半、日米農産物交渉が連日、新聞の一面をにぎわしておりました。
内容は、「牛肉・オレンジ、農産物拡大」。
まさに「買えよ」という「圧力」です。
交渉は、日本がほぼ全面的に折れたかっこうとなりました。具体的には、猶予期間を設けた上で、輸入枠の撤廃と関税の大幅引き下げという条件をのまされたのです。
これによって今も「デフレ飯」で名高い牛丼が安く食べられています。
よかったですね……じゃねぇんだよ。
以後、日本の酪農は常に危機と隣り合わせといっていいくらい、労多くして益少ない事業と成り果ててしまいました。

次に、TPP。
日本の農業が、間違いなく崩壊するところでした。
これを、むしろ輪に入ることで内部でぐだぐだにし、当のアメリカに
「あほくさ。やめるわ」
と言わしめることで危機から救った甘利議員は、英雄であります。

なにが言いたいかといいますと。

今、日本は食料を「輸入」している、ということです。
食料自給率を百パーセントとする、ということは、この輸入量を
「段階的に引き下げる」
ということとイコールです。
当たり前ですね。食料「自給」を百にするということは、「他給(そんなことばあるの?)」をゼロにすることですから。

で。
どうやって、あの国を納得させるんです?
ということです。
まぁ、アメリカ以外にも、中国、イタリア、カナダ、オーストラリア、ブラジル、タイ、モーリタニア(この国名が出るあたり、自分のたこ焼き好きがばれますな)などから、日本は食料を粛々と輸入しております。

食料というのは、「つくるのに月日がかかり」、かつ「保存が利きにくい」ものです。
つまり、生産と輸送は、綿密かつ長期の計画のもとに行う必要があります。
日本が輸入を「段階的に引き下げる」決定をするならば、相手国はそれ相応の対応を迫られることになります。
少なくとも。
私の想像ではありますが、そんなことをしたあかつきには、どんなに軽く見積もっても。
日本は、「バチクソに嫌われる」ことを覚悟すべきであることは、自明でしょう。
集団的自衛権とかのレベルじゃありません。食の恨みが怖いのは、誰より当の日本人が骨身にしみてることのはずです。
(昔、米が不作で政府がタイ米輸入とブレンド米販売を決定した際、タイ米がまずいとせっかく融通してくれたタイ米を捨てるボケがニュースにまでなり、当のタイを激怒させた、というのは……僕らおじいちゃんですと記憶に新しいとこであります。日本人は食のことで他国になにか言える資格はないのですよ)

さて。
上記がメインなのですが、副菜的な話も少し。
外国の、食糧自給率が高い国の夕ご飯の風景なんかを見てみますと。
例えばフランスでは、「スープどん!」(一品)とか、「野菜の煮込みどん!」(一品)とかで、腹が満たされないならパンとかフレンチフライ(要はイモ)とかを食べる、と。
スイスはパン、チーズ、温野菜、の繰り返しとか。
アメリカはひたすらハンバーガーとピザ、とか。

これらの国と、まぁ単純に比較は出来ませんが、とにかく、日本人は食の「多様性」についてはけっこう、異常な部類に入ると思います。
この多様性を担っているのは、輸入食料品です。
日本で生産できるものには限りがあります。そりゃオリーブオイルとかも少しは作ってますが、たとえばその小豆島産オリーブオイルで日本全土のオリーブオイル需要がまかなえるかったらそうはならんでしょう。
日本の食糧自給率百パーセントを、「現実的に(w)」叶えようとするなら、この多様性を滅し、明治大正時代、あるいは江戸時代に帰るという方策が一番の近道であろうかと思います。
ですがねぇ。
いまやいわしさんまは高級魚ですから、めざしが安いかっつったらそう安くもなく。
大豆の自給率は今時点でわりと終わってるので、味噌や醤油もままならんですね。海水汲め。
米も減反につぐ減反で、ちょっとした不作で簡単に米不足が起きますから。
たいへんです。

ともあれ。
この調子では、多様性どころか、玄米に海水かけるのが精一杯なんじゃないか、と思えるくらいです。あとは自宅でネギ植えて食べるときにきざんでかける、とか。

あ、ただ、誤解しないでいただきたいのは。
日本の農業については、がんばってもらいたいですし、七十代がメイン層の日本の農業がこのさき絶望しかないという危機的状態なことに、警鐘を鳴らしたい、という気持ちの方が、今回のように日本の食料自給率w を揶揄するよりはずっと重要だ、という気持ちはあります。ほんとうです。

まぁ少なくとも。
農業人口は90年代を境に減り続けており、今まさにがけっぷちの向こう側、という状況でして、食糧自給率百パーセント、などという幻想を抱くよりは、ただ少しでも日本の農業に夢が見られるような施策を日本政府には行っていただきたいな、とこのように思うわけであります。

ほんとうです。

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