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母がレビー小体型認知症と診断されるまで

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2007年〜母がレビー小体型認知症と診断される前の記事です。
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整理能力

整理能力

2007/02/19
(この記事は2007年、母がまだレビー小体型認知症と診断される前のものです)

夕方、母の部屋のキッチンをつくづくと眺めた。

「いいわね、こんなに収納があって」と私は羨ましく思う。シンク側にも壁側にも吊り戸棚がたくさん備え付けられていて、これだけ収納があれば、物なんてはみ出すわけもない。おまけに炊事はほとんどまったくといっていいほどしないのだから。

「何が入ってるのよ?」

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困った

困った

2007/02/27
(この記事は2007年、母がまだレビー小体型認知症と診断される前のものです)

銀行やら買い物やらの用事を済ませて、自転車で近所のクリニックの前を通りかかった。母が最近よくかかっている医者だ。ふと見ると、閉まっている扉の横に、不機嫌そうな顔をした母がうずくまって座っている。

声をかけたら辛そうに立ち上がって「今何時?」と訊く。腕時計を見ると、午後の診察開始時刻にはまだ45

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捨て犬の眼で私を•••

捨て犬の眼で私を•••

2007/05/04
(この記事は2007年、母がまだレビー小体型認知症と診断される前のものです)

母は時々、捨てられた犬のような眼で、私を見る。話したいのだと思う。もっとかまってほしいのだと思う。母が淋しいことを私も知っている。

昨日夕方買い物へ出る前に、母の部屋を覗いた。母はソファに横たわって疲れきった顔をしていた。「池袋へ行って来たのよ」と言う。「ひとりで?」と訊くと、「Mと一緒に」と

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母の誕生日

母の誕生日

2007/06/03 22:20:57
(これは母が、まだレビー小体型認知症と診断される前の記事です)

誕生日だからといって、とりたててどうっていうことはなかったのだと、母は言う。

娘たち(私の姉たちね)と孫がプレゼントをくれるけれど、もうここ何年も、特に一緒に祝うとか、ケーキにキャンドルをともすとか、そんなことはなかったのだ。

いや、考えてみたら、私が子供の頃から、そんな風習はなかったよ

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「勇気がないのよ」

「勇気がないのよ」

2007/07/01
(この記事は2007年、母がまだレビー小体型認知症と診断される前のものです)

朝、今日も鬼太郎を観るのを諦めて、ベッドでグダグダしていた。日ごろの寝不足がたまって起きられない。

10時半ごろ、母から電話。「ちょっと来て」と言う。

行ってみると、母はソファに仰向けに横たわり、膝を曲げ、死にかけた虫のようになっている。瀕死のカナブンみたいだ。

少し前、宅配の人が来て、代引

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カナブン、ヌリカベになる

カナブン、ヌリカベになる

2007/07/02
(この記事は2007年、母がまだレビー小体型認知症と診断される前のものです)

夕方母の部屋を覗くと、母はヌリカベになってソファに横たわっていた。
無表情で口を固く閉ざし、微動だにしない。
「ねえねえ、私のことわかる?」と訊くと、黙ってわずかに顎をひく。

今日は調子悪い。血圧、上が59で下がいくつだとか、呟く。
「こういう天気の時は駄目よね」と言ってみるものの、ヌリカベは機

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母という人

母という人

2007/07/24
(この記事は2007年、母がまだレビー小体型認知症と診断される前のものです)

朝、インターフォンが鳴った。扉を開けると、母がしゃがみこんでいる。湿布をした右手首を見せて、「転んじゃったのよ」と言う。お尻も強打したと言う。痣が出来ていないか見てくれと言う。

真っ白できめ細かい母のお尻は、肉が削げ落ち、それでもちゃっかり、すでに自分で湿布を貼っているではないか。

母の向かい

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杖を買う

杖を買う

2007/07/26
(この記事は2007年、母がまだレビー小体型認知症と診断される前のものです)

今日、午後のセッションがキャンセルになったので、先日母に頼まれた「折りたたみ式ステッキ」を買いに、池袋東武の介護用品コーナーに出向いた。

なるほどたくさん売っていて、売り場の人の話も聞き、母に電話して確認し、シックなアズキ色に花の地紋が入ったものに決めた。
派手で綺麗な花柄のものなら沢山あって、

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介助用車椅子

介助用車椅子

2007/07/30
(この記事は2007年、母がまだレビー小体型認知症と診断される前のものです)

母のために、介助用車椅子を注文した。あの見栄っ張りの母が、とうとう受け入れることにしたのだ。
ネットで探すと、あらまあ、なんてすごい割引率! 60%引きなんてのがザラにある。いったいどうなってるんだい? と思う。

行きたかったコーラスにも行けない。コーラスに行くためにどうしても行きたかった美容

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車椅子

車椅子

2007/08/13
(この記事は2007年、母がまだレビー小体型認知症と診断される前のものです)

注文していた車椅子が届いた。折りたたむと薄くて軽くて、なかなかいい感じ。

マンションの廊下で、母を乗せて押してみた。「ラクだわ…」と母は言う。

軽井沢へ行けば元気になっていた母も今回は、前半は横になっていることがほとんどだったという。最後の2日間だけはどうにか、いくらか外出することができたそう

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義務感だけで生きる

義務感だけで生きる

2007/08/24
(この記事は2007年、母がまだレビー小体型認知症と診断される前のものです)

母の部屋の浴室の、シャワー本体が壊れた。シャワーと蛇口から出るお湯が、イマイチぬるい。すぐに駆けつけてくれた工務店の人が調べて、原因が判った。

後日本体を交換ということになり、力のない母は浴槽からお湯をくみ出してシャンプーすることがしんどいようなので、私の家で入浴するよう伝えた。

急いでお風呂

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イヴェント

イヴェント

2007/08/30
(この記事は2007年、母がまだレビー小体型認知症と診断される前のものです)

「一度にたくさんのこと、できないのよ」と、母は言う。

「今日だったら午後医者に付いていけるよ。どう?」と母を誘うと、「…えっ……?」と絶句する。

イヤならいいんですよ、イヤなら。私だって別に、行きたいわけじゃない。
このところ暑さも一段落したし、やっと車椅子を押して近くの医者に行き、今後かかり

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癌研

癌研

2007/09/04
(この記事は2007年、母がまだレビー小体型認知症と診断される前のものです)

有明の癌研に母の付き添いで行くのも、これが三年目。その前の年はまだ、癌研は大塚にあった。

ものすごく綺麗になって、すべてがコンピュータ化され、でもそのおかげで以前よりも待ち時間が飛躍的に短くなった。会計もすべて自分で機械で行うので、長い間待たされることもない。ほんの数十秒で済んでしまう。

母は

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アデランス シフォレ

アデランス シフォレ

2007/09/12
(この記事は2007年、母がまだレビー小体型認知症と診断される前のものです)

母がカツラをオーダーした。突然の話だ。

母の髪は漆黒で、太く、硬かった。たっぷりとしていて、白髪もなかなか生えなかった。70歳を過ぎた頃からようやく白髪がいくらか目立ち始め、この1~2年ほどで、驚くくらい髪が薄くなった。

母は前々からCMなどで見て気になっていた、アデランスの女性用部分カツラの

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