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【小説】「twenty all」219

 12射目、13射目、
 二人とも、全く抜く気配が無い。

 進行泣かせの展開に、審判は「八寸的」の使用を指示した。
 通常の霞的より一回り小さいその的は、的中させるのが困難になる為、競射が長引いた時に使用される。
 しかし、空良と御角の表情に全く翳りは無かった。


(お生憎様だな、国府田)
 御角は、自信有り気にニヤッと笑った。
(こうなる事を想定して、俺は1か月前から八寸的の練習をして来たんだよ!)


 一方の空良は、以前里香から聞いた言葉を思い出していた。
『的に当てると思っちゃダメ、矢が散るから』
 当時、的中が落ちていた空良に、彼女は諭すように言った。
『入れるのよ、的の中心に』
『それって、どうすればいいんですか?』
『角見(つのみ)の働きよ』
『つのみ?』
 里香は、弓を持った自分の左手親指付け根を指差した。
『ここで弓を支えて、ひねり運動によって矢を狙った所に飛ばしているの』
『へえ』
『決して忘れないでね、大事なことだから・・・』



 自分の左手を見つめ直した空良は、それをぐっと握り締めて、射位に立った。

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